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ISO 23247-6:製造業向けデジタルツインにおける「ツインの合成」の全貌

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Toshihiko Nagaoka2026/08/18
ISO 23247-6:製造業向けデジタルツインにおける「ツインの合成」の全貌

製造現場にデジタルツインを導入する際、単一のロボットやNC工作機械のデジタルツインを作るだけでは、工場全体の最適化には至りません。「加工機のツイン」「搬送ロボットのツイン」「搬送コンベアのツイン」といった複数の個体ツインを組み合わせ、ライン全体、工場全体、さらには企業間サプライチェーン全体としての高次デジタルツインへと統合する仕組みが必要です。

これを標準化した規格が、2026年に正式発行された ISO 23247-6(Part 6: Digital twin composition) です。

本記事では、ISO 23247-6の基本概念である「ツインの合成(Digital Twin Composition)」、規格で定められているモデル構造、実実装における技術的ポイント、およびPart 5(デジタルスレッド)との連携による相乗効果について詳しく解説します。

「ツインの合成(Digital Twin Composition)」とは?

概念の基本

デジタルツインの合成(Composition) とは、独立して存在する複数のデジタルツイン(Atomic Digital Twin)やそのデータ表現を、階層的または分散的に組み合わせて、より大規模で複雑な概念(Composite Digital Twin)を表現・制御するプロセスのことです。

単一ツイン(Atomic Digital Twin )

    • 例:1台の5軸加工機、1台の多関節ロボット、1台の温度センサー群。

合成ツイン(Composite Digital Twin)

    • 例:セル(加工機+ロボット)、製造ライン、工場全体、サプライチェーン全体。

なぜ「合成の規格化」が必要だったのか?

これまでも、現場の複数の装置データをまとめてダッシュボードで監視するシステムなどは作られていました。しかし、そこには重大な問題が存在していました。

「オレオレ統合」による再構築コストの肥大化
設備ごとにメーカーや通信規格が異なり、上位の監視ツインを作るたびにSIerがカスタムコード(オレオレ連携)でデータを力技で統合していたため、設備の入れ替えやシステム更新のたびに莫大な手直しコストが発生していました。

データの粒度と抽象化の問題
単体ツインのデータ(ミリ秒単位の振動データ等)をそのまま工場全体ツインに流し込むと、通信帯域やシステム負荷がパンクします。
「どの階層でデータを集約・抽象化して上位ツインに渡すか」の統一的ルールがありませんでした。

ISO 23247-6は、「どのような構造でツイン同士を包含・連携させ、データを抽象化して上位ツインに集約するか」の共通インターフェース・集約モデルを明確に規定しています。

ISO 23247-6 の主な規定内容とアーキテクチャ

ISO 23247-6では、デジタルツインの合成を安全かつスケーラブルに行うためのフレームワークが示されています。

(1) 合成トポロジーと階層モデル(Hierarchy & Topology)

ツイン同士の親子関係(包含関係)や、並列関係(隣接システムとの協調)をグラフ構造や木構造として定義するための標準メタデータ形式を提供します。。

包含(Containment / 親子関係)
上位のツインが下位のツインを内包する階層構造です。例えば、「工場ツイン」の中に複数の「ラインツイン」が存在し、さらに「ラインツイン」の中に各「設備ツイン」が含まれるというような、入れ子状の関係を表します。

関連・ピア(Association/Peer / 横の協調関係)
階層の上下ではなく、同じレベルで隣り合うツイン同士がデータや状態を共有する水平関係です。例えば、「加工機のツイン」と「その横でワークを運ぶ搬送ロボットのツイン」が、タイミングを同期させるために直接データをやり取りするようなケースを指します。

(2) データの抽象化と時間粒度の吸収(Abstraction & Temporal Aggregation)

下位ツインのデータ量を上位ツインに送る際、適切な「要約情報(KPI、状態値)」にカプセル化する抽象化レイヤーを定めています。

エッジ層でのミリ秒単位のリアルタイム制御データは設備ツイン内で完結させ、ラインツインや工場ツインといったクラウド/上位層には「秒・分単位の稼働状態(正常/異常)や進捗率」へと時間軸と抽象度を変換して集約します。
これにより、ネットワーク負荷を抑えつつ上位でのオーケストレーションを可能にします。

(3) カプセル化によるIP(知的財産)とノウハウの保護

ツイン同士を合成・連携させる際、全ての内部データを公開する必要はありません。
ISO 23247-6ではインターフェースに必要な抽象データ(稼働ステータスや納期予測など)のみを外部に公開し、装置内部の精密な制御パラメータやNCプログラムなどの「企業のブラックボックスノウハウ」をカプセル化して秘匿する仕組みが盛り込まれています。

実装における補足:実標準(AAS・OPC UA)との関係

ISO 23247-6はコンセプトや参照アーキテクチャを規定する上位の国際規格(ISO)ですが、実際にシステムとして実装する際には、既存の産業標準技術と組み合わされます。

AAS(Asset Administration Shell / 資産管理シェル)
インダストリー4.0で推奨されるコンポーネント記述形式。ISO 23247-6の「アトミックツインのデータ構造やカプセル化」をAASのサブモデルとして実装するアプローチが標準的です。

OPC UA Information Model
産業用の標準通信規格。設備ツイン間のリアルタイムなデータ伝達や合成トポロジーのメタデータ交換プロトコルとして相互補完的に利用されます。

ISO 23247-6のフレームワークに準拠してデータモデルを定義しておくことで、AASやOPC UAなどの現場プロトコルへのマッピングがスムーズになり、マルチベンダー環境での「プラグ&プレイなツイン統合」が実現します。

Part 5との相乗効果:「縦と横」の融合

ISO 23247において、Part 5とPart 6はセットで機能する重要な相棒関係にあります。

Part 5 時間・工程軸 = 縦の繋がり

    • 製品や設備の「設計 ➔ 製造 ➔ 運用 ➔ 保守 ➔ 廃棄」というライフサイクル全体のデータを糸のように紐付ける(デジタルスレッド)。

Part 6 空間・組織軸 = 横の繋がり

    • 「部品 ➔ 設備 ➔ ライン ➔ 工場 ➔ サプライチェーン」という空間・構造の広がりを合成する(コンポジション)。
 【 Part 6: 空間・組織の広がり(横軸)】
  [サプライチェーンツイン]
      └── [工場ツイン]
              └── [ラインツイン]
                      └── [設備ツイン]
                               │
 【 Part 5: 時間・工程の追跡(縦軸)】
  設計データ ───➔ 製造履歴 ───➔ 稼働/保全データ ───➔ リサイクル

この「縦(Part 5)」と「横(Part 6)」が掛け合わさることで、例えば「工場全体のリアルタイムな稼働状況(Part 6)」を俯瞰しながら、「特定の不具合部品の過去の設計パラメータや原材料情報(Part 5)」へ即座にドリルダウンできる真のデジタルツイン空間が実現します。

6. 導入メリット:ユーザー企業 vs 設備ベンダー/SIer

ISO 23247-6によるツインの標準合成メカニズムは、ユーザーとベンダーの双方に大きな価値を提供します。

立場

主なメリット

ユーザー企業(製造事業者)

・マルチベンダー設備で構成されるラインの構築・改修コスト激減

・新設備の追加時にプラグ&プレイで工場ツインに組み込み可能

・自社の製造ノウハウを守りつつ、サプライチェーンツイン(Catena-X等)へ安全にデータ連携

設備ベンダー / SIer

・自社製品に「ISO 23247-6準拠のデジタルツインモデル」をパッケージ化して出荷可能(差別化)

・納入先ごとの個別のカスタムコード開発(オレオレ連携)から解放され、再利用性が大幅向上

7. まとめ

ISO 23247-6は、デジタルツインを単なる「1台の機械の監視ツール」から「製造システム全体、サプライチェーン全体を動かすオーケストレーション基盤」へと進化させるための規格です。

各ベンダーが提供するデジタルツインがISO 23247-6に準拠することで、ユーザーは「ブロックを組み上げるように」工場全体や企業間の高次デジタルツインを迅速かつ安全に組み上げることが可能になります。

Part 5(デジタルスレッド)が「データの一貫性・追跡性(縦軸)」を担保し、Part 6(コンポジション)が「空間的な拡張性・相互運用性(横軸)」を担保する――この両輪を理解し活用していくことが、ベンダーロックインを回避した次世代スマートファクトリー構築の鍵となります。


本記事は、一般に公開されている情報をもとに、ISOについて学べる内容を整理したものです。正式な仕様や要件については、ISO規格本文をご確認ください。

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