過去20年で5,000社減少も足元は停滞?ベトナム国有企業改革の状況(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/6/8)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく、石黒が選ぶベトナムのニュース紹介、第27回目。
社会主義国であるベトナムには、国が株式を保有し経営をコントロールする国有企業が多数存在します。しかし国有企業を上場させ民営化するなど、過去四半世紀にかけて改革が行われてきました。
そして現在、株式市場のルールによって、国や親会社が持つ株式の放出という転換期を迎えているとも報じられています。今回は、ベトナム国有企業改革についてのニュースを紹介します。
2026年6月3日・4日のCafefおよびNguoi Quan Sat等のニュース(原文はベトナム語)
20年間で5,000以上の国有企業が減少、そして土地に関する最大の障壁を打破する転換点
国有企業は上場廃止を避けるために行動を開始した
1. 過去20年で5,000社減少!しかし近年は「民営化が停滞」していた背景
今回のニュースでまず注目したいのは、ベトナムの国有企業がこれまで歩んできた劇的な変化です。
証券会社のレポート(BSC等)によると、2001年当時、ベトナム全土には100%国有企業が「5,655社」存在していましたが、2021年にはわずか「459社」へと、20年間で5000社以上、率にして10%以下へと大幅に減少しました。
ベトナム政府は効率性を高め、民間資本を導入するために「株式会社化」を強力に推し進め株式を売却してきたとあります。

売却された株式の簿価は総額56兆3,330億ドン(約21億6,665万ドル)でしたが、売却額や配当で受けとった額など政府に入った金額は、総額223兆1,950億ドン(約85億8,442万ドル)にもなり、貴重な税外収入となったことでしょう。
特に2016〜2020年は、ビールなどアルコール飲料の大手SABECO社1社の民営化で110兆ドン(約42億3,077万ドル)になるなど、金額だけで見れば一番大きいピーク期でもありました。

しかし、直近の2021〜2024年にかけて、この民営化のスピードには一気に急ブレーキがかかりました。この4年間で民営化(株式化)された企業はわずか5社、その規模も平均1,290億ドン(約496万ドル)程度と、完全に停滞局面に陥ってしまっています。
なぜ、あれほど勢いのあった民営化が止まってしまったのか?
BSC社のレポートによると、3つの理由があるとのことです。
(1)企業価値の算定の難しさ
ブランド価値、土地使用権、将来の発展可能性、歴史的・文化的意義を持つ資産などを評価するのが難しい
(2)承認プロセスの複雑化
上場などの審査では、関係機関による評価、承認、審査といった多数の段階が含まれ開始から完了まで22か月以上かかる場合がある
(3)心理的な障壁
民営化する企業の担当者は、予想よりも低い販売価格を設定した場合、あるいは後日検査や監査で問題が発生した場合に責任を問われることを恐れており、またそれに加えて、企業再編によって関係者の役職や管理権限が変わる場合もあるというデメリットがある
上記(1)と(2)は、以前からもあったことなので(3)が主要因ではないかと考えられます。おそらくはかつてSABECOの件が非常に上手くいった(政府収入をもたらした)ことから、安い金額で上場して後から政府及び各部門より咎められるのを恐れているのではないでしょうか。
2. 「上場廃止」を回避せよ!株式保有比率の低減に動き出した巨大企業
そしてもう1つ直近の2026年に入ってから、新たな点が指摘されそれが国有企業改革にも繋がっていくと報じられています。それが公開会社基準の厳格化と、それに伴う上場廃止リスクです。
ベトナムの現行の証券法ルールでは、市場の透明性と健全性を保つため、上場する公開会社(資本金が1,000億ドン以上の場合)に対して、大株主(国や親会社)以外の小口株主が、最低でも10%以上の議決権株式を保有していなければならない(流動性株比率の確保)という条件を突きつけています。
しかし、ベトナムの巨大国有企業の多くは、国や親会社が90%を超えるような株式を保有しており、小口株主の割合が10%に満たない様なケースも多い状況です。
国家証券委員会の調査によると、民営化された国有企業を起源とする789社の上場企業のうち67社が現在、上場企業としての地位を維持するための株主構成要件を満たしていないとあり、多くの企業で国が90%から99%の株式を保有したままとなっていて、株式の浮動株比率が極めて低い状況にあるとあります。
「国の顔」とも言える巨大企業たちが、上場基準に抵触して上場廃止という不名誉を避けるため、足元で急ピッチで国の保有比率の引き下げ(株式放出・増資)に向けた具体的アクションを起こし始めています。報道に書かれていた事例を4つほど紹介します。
2-1.ベカメックス
日本の東急と合弁で「ベカメックス東急」を設立し、ビンズオン省での街づくりや商業施設展開を行っている会社、ベカメックス産業投資開発会社(Becamex Group)(ホーチミン証券取引所:BCM)。

現在、国が95.44%を保有しており、9,220人の少数株主の議決権はわずか4.56%に過ぎないとあります。そこで同社では、2026年から2030年の期間に株式の公募などを通じて国の所有比率を65%超のレベルにまで引き下げることをホーチミン市人民委員会に提案したとあります。
2-2.Viettel国際投資
ベトナム国防省傘下の通信最大手Viettel Groupにおける海外投資・国際通信事業を担う中核企業Viettel Global Investment Joint Stock Companyという会社は、UPCoM(Unlisted Public Company Market)と言われる未上場会社向けの取引市場で株式が取引(VGI)されています。

しかし親会社のViettelが現在、議決権株式の99.03%を保有しており、少数株主の保有比率は1%未満で、UPCoMでの要件である約9%に全く満たない状況です。そのため同社では、外部コンサルタントと協力しこの状況を変えていこうとしているとあります。
2-3.ビンソン石油精製石油化学
ベトナム中部にある巨大製油所を運営する会社(ホーチミン証券取引所:BSR)ですが、現在、親会社のベトナム石油ガスグループが株式の92.1%を保有しており、少数株主の保有比率はわずか7.87%でしかありません。

以前は親会社の保有比率を49%以下に下げることを提案されていて進まなかったようですが、最低でも90%未満に引き下げるため、2.13%の株式を売却する計画を親会社に提案したとあります。
2-4.ベトナムガス会社(PV GAS)
この会社(ホーチミン証券取引所:GAS)も親会社のベトナム石油ガスグループが議決権株式の95.76%を保有し、残りの17,494人の株主はわずか4.24%しか保有していないため、親会社の比率を下げるための調整をしているとあります。
3. 筆者(石黒)が注目したポイント
このニュースを見て思ったこととしては、報道では触れられていなかったものの、国有企業改革の背景として、グローバルな証券市場との繋がりという事も関係しているのではないかなという点です。
ここ数年来、騒がれていたベトナムの株式市場の格上げは、2026年4月にイギリスの指数算出会社FTSE Russellによって「フロンティア市場」から「二次新興市場」へ格上げが発表され、2026年9月21日より発効することになりました。これにより最大60億ドルの投資マネー流入が期待されているとあります。(2026年4月8日ロイターの報道より)
こういった国際マネーが流れ込むに値する環境(証券市場)なのかという点で、国による保有比率の高さ(=浮動株比率が極めて低い状況)の是正という動きがあったのではないでしょうか。
そして2021~2024年頃に一見民営化が停滞していたのには、この頃から株式市場の格上げの話もささやかれていたこともあり、今までの様に国が9割超の株式を握ったままでも、とりあえず上場させて民営化としよう、とはいかなくなったという事もあるのかもしれません。(これはあくまでも予想ですが・・・)
ただこういった改革の動きは、ベトナムの経済がより開かれた方向性へと進む動きでもあるため、そういった点で、興味深いニュースだと感じました。

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