売上15兆ドン市場の光と影!ベトナム「マルチレベルマーケティング(MLM)」の歴史と現在の状況(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/6/9)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく、石黒が選ぶベトナムのニュース紹介、第28回目。
マルチレベルマーケティング(MLM)、日本では連鎖販売取引やネットワークビジネスとも呼ばれる形態です。ベトナムにおいても過去に不透明な詐欺的業者が横行した歴史もあり、ローカルの人々の間でも非常に警戒感やネガティブなイメージが先行しやすい業界ですが、現在はベトナム政府による厳格なライセンス管理のもと、正式な商業活動として認められています。
今回は、過去のトラブル、現在の規模と足元での市場の縮小、そして大手外資企業への容赦ない厳罰化というあまり日本語で取り上げられることが無いニュースを紹介します。
2026年5月31日 Bao Dau Tuのニュース(原文はベトナム語)
マルチレベルマーケティング企業が、約15兆1000億ベトナムドンの収益を上げた。
1. 15社で約917億円相当の売上!しかし全体としては「減少傾向」が続くMLM市場
今回取り上げるのは、国家競争委員会(産業貿易部)の最新データから明らかになった、ベトナム国内の正規MLM業界の活動実態です。
記事によると、現在ベトナム国内で正式な営業ライセンスを保持し、健全な運営を行っていると認められているMLM企業は15社ですが、これらの企業の年間総売上高の合計は約15兆960億ドン(約917億円)に達しており、財政や雇用への一定の貢献度が示されました。
別の報道(2026年5月7日付け人民代表新聞ーベトナム語)では、MLM業界の年間総売上高の合計額の推移がグラフで示されており

2022年から2025年にかけて毎年総売上高が減少していることもわかります。なお許可を取得した会社も2024年から4社減少した15社となり、参加者数も約6%減少し652,184人となっているとあります。
このように売上も企業数も減少し、新規参入企業は皆無で、新規参加者数も近年と比べて減少傾向にある背景として挙げられているのは、市場の変化です。
かつてのような強引な勧誘による爆発的な成長期は完全に終わりを告げ、消費者の目が肥えてきたこと、そして一般のEコマース(ECサイトやSNS物販)の利便性が爆発的に向上したことで、わざわざ対面の会員ネットワークを通じてサプリメントや化粧品を購入する優位性が薄れてきていることが背景にあります。
しかしながら、そういった中でもほとんどの企業は黒字経営を続けており、結果この業界からの税収見込みは、2兆3060億ドン(約140億円)にもなるとあります。
売上の大きな会社では、ハーバライフ・ベトナムが引き続き主導的な地位を維持しており、業界全体の収益の55%以上を占め、8兆3140億ドン(約505億円)を超えているとあります。

そして続くのは、アムウェイ・ベトナム、ケア・フォー・ベトナム、ニュースキン、ユニシティ・マーケティングなどの企業です。
主な商材は、機能性食品が以前から変わらず主要な品目で総売上高の87.7%を占め、残りを化粧品、家庭用品、ファッションなどの商材となります。
ちなみに2025年、販売活動に積極的に参加する参加者一人当たりの平均コミッションおよびボーナス収入額は、年間で約1,142万ベトナムドン(約6.9万円)と推定されるとあり、この金額は国民一人当たりの平均所得の9%に相当すると紹介されています。
2. ニュースの背景にある「ベトナムのリアルな事情」
MLMは、日本でもあまり良いイメージが無い業界ですが、ベトナムでも過去に様々なトラブルが発生してきた業界です。報道などからその歴史を振り返ります。
10年前の2016年3月2日付けのVN EXPRESSの報道(ベトナム語)によると、ベトナムにおけるMLMビジネスの歴史は以下の通りです。
2-1. MLMビジネスの始まり(1998~2007)
ベトナム(ホーチミン市)に初めて登場したのは1998年、台湾の会社がインコンメックス社との合弁事業として開始します。
販売していたのはフォームマットレスで、あらゆる病気を治す奇跡の製品として紹介され、マットレス1枚あたりの価格は数千万ドンという非常に高額な商品でした。
2000年には、シンロイ社という会社がMLM形式で事業を始めたものの、当時のベトナムにはこの種の事業活動に関する法的枠組みや法的規制は一切ありませんでした。
結果、シンロイ社のネットワークに参加するための必須条件がオゾン発生器 、マッサージ機、台所用品、電子機器などの製品を購入(価格は300万~500万ドン)する必要があり、これらは市場における同等の製品の2~3倍の価格だったものの、数万人が参加したとあります。

ようやく規制が始まったのは、2004年末になってからで2005年には政令110号が発布されてようやく法的枠組みが整備されました。
そしてシンロイ社への苦情多数に伴い、2006年半ばになってホーチミン市計画投資局は、商業詐欺および消費者欺瞞を理由に、事業ライセンスを取り消す決定をします。
ホーチミンで営業できなくなった結果、同社の幹部数名がハノイへ赴き、ティエン・ゴック・ミン・ウイ社という新たな社名で営業許可を申請し、多くの省や市に支店を設立したとあります。
この新しい会社は、機能性食品、美容製品、マッサージ機やオゾン発生器などの家庭用品のMLM事業を展開しましたが、再び多くの苦情を集め、出所不明の製品を販売したとして、規制当局から繰り返し罰金を科されたという問題あるビジネスでした。
2-2. 法規制と大手の参入(2008~2019)
問題がある会社もありましたが、法的な制度も整えられたことで、アムウェイをはじめとする外資大手のMLM事業者がベトナムに進出していきます。
また2008年、ベトナム大手テクノロジー企業であるFPTは、FPTテレコムの子会社であるFPTネットワーク(FN)の設立によりMLM市場に参入。同社はMLMによってFPTテレコムの管理費と広告費を削減し、リスクを最小限に抑え、事業における飛躍的な成長を実現できると期待していたとあります。(2012年8月20日Cafefの報道よりー原文はベトナム語)
そして2010年代に入ってからもMLM業界は拡大を続けます。
業界における2006年の総収益が6,140億ドンから2013年には6兆4,470億ドンへと拡大、2015年上半期だけでも3兆2,000億ドンに達したとあります。
2016年時点で7,000以上の商品を販売し、販売活動に従事する人の数も、2006年の23万5千人から約120万人へと大幅に増加しました。
一方で再び問題のある会社というより詐欺会社も出てきて、「Lien Ket Viet」のリーダーが、国防省傘下の企業を装い、機能性食品や健康機器を販売するMLMスキームに4万5000人を誘い込み、詐欺行為を行ったとして警察に起訴されます。

起訴状によると、Lien Ket Vietのリーダーは2014年6月から2015年7月にかけて、総額1兆9000億ドン以上を集めたとあります。
その後こういった明らかに詐欺の会社は取り締まりがされて、MLM業界も当局によって厳しく監視されるようになりました。
2-3. 監督強化、業界は縮小傾向?(2020~)
そして最近でも、大手企業が違反により次々と罰金を追徴されています。
2026年4月1日 ユニシティ・マーケティング・ベトナム(Unicity Marketing Vietnam)は、規制に違反したとして、1億5500万ドン(約94万円)の罰金を科されたと報じられています。(ベトナム語の報道より)
また業界トップの知名度があるアムウェイ(Amway Vietnam)も、2026年6月4日に4億1000万ドン(約249万円)の罰金を科せられました。(ベトナム語の報道より)

いずれも違反内容は、プロモーション活動に関する規定不備や、会員のトレーニング・管理プロセスの不適切さなどとされており、政府が「いかなる大手であっても特別扱いはせず、厳格に管理する」という強い姿勢を示した形です。
こういった規制の厳格化と、Eコマースの普及によって商品の流通が改善されたこともあり、「わざわざ紹介されて会員になって買う」というビジネスモデル自体に逆風が吹き、近年の総売上や会員の減少にもつながっているという状況です。
3. 筆者(石黒)が注目したポイント
このニュースを見て私が非常に興味深いと感じたのは、ベトナムという市場における「コンプライアンス(法令遵守)と透明性の要求水準が高まっている」という点と、問題がある業界であっても、実際に税収に繋がるのであれば規制を強化したうえで存続させるという(政府の)強かさです。
テクノロジーの進化によって、既存の法規制から見た時にグレーとされる分野は、ベトナムにも入ってきます。近年でいうなら例えば、暗号通貨(仮想通貨)関係かもしれません。
しかし規制し監督下に置きつつも、それによる実益は享受できるよう認めていく。ベトナムにはそういう一面があるという事を感じさせるニュースでした。

「Ăng-Ten(アンテン、ベトナム語でアンテナを意味)」は、ベトナム最大の経済都市・ホーチミン市を実際に訪れ、現地で長年ビジネスを営む7名の専門家と直接つながる、2泊3日の密度の高いビジネス出張ツアーです。
💡 本ツアーで得られる3つの価値
- 誰に会うべきかが見える:法務(弁護士)・採用・金融(銀行)・BtoB営業・不動産など、現地で接点を持つべきスペシャリストと直接議論ができます。※弊社バイタリフィ アジアのDirector 石黒も、オフショア開発の専門家(講師)として本ツアーに登壇いたします!
- 何から着手すべきかが整理される:すべて日本語での実践講義を通じて、拠点設立に必要な実務の順番と、見落としやすい注意点(成功例・失敗例)をまとめて持ち帰れます。
- 帰国後の相談先(人脈)が確保できる:質疑応答や後日の個別面談を通じて、自社の悩みを直接ぶつけることができ、帰国後すぐに動ける体制が整います。
【開催スケジュール(2026年)】
- 第3回目:7月15日(水)〜7月17日(金)
- 第4回目:8月19日(水)〜8月21日(金)
- 第5回目:9月9日(水)〜9月11日(金)
- 第6回目:10月14日(水)〜10月16日(金)
※オプションで航空券の手配や延泊(観光・ゴルフ等)のご相談も可能です。
急成長するベトナム市場への進出や、新規事業の拠点設立をミッションとして任された皆様。事前情報だけで判断するのではなく、ぜひ現地の最前線を自分の目で確かめに来てください。ホーチミンでお会いできることを楽しみにしています!
▼お申し込み・スケジュール詳細はこちら
「Business & Culture」の関連記事

過去20年で5,000社減少も足元は停滞?ベトナム国有企業改革の状況(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/6/8)
過去20年で5,000社減少したベトナムの国有企業。しかし近年は民営化が停滞?上場基準の厳格化に直面する巨大企業の「株式放出(民営化)」の動向と、株式市場の格上げの思惑を徹底解説します。

巨大都市ホーチミンが直面する水没と地盤沈下の危機!? その背景と今後100年を見据えた都市計画への提言(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/6/5)
ベトナム経済の中心地ホーチミン市で進行する深刻な地盤沈下と洪水リスク。年間平均約8mmのペースで沈む都市の現状と、その背景にある3つのリアルな事情、そして今後100年を見据えた都市計画への提言を現地から詳しく紹介します。

店舗数拡大の限界を超える!ベトナム家電小売最大手の大型IPOと彼らが持つ2つの金鉱とは?(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/6/4)
ベトナム家電小売最大手DMXの大型IPO。単なる店舗拡大(モノ売り)から脱却し、「修理サービス網」と「インドネシア進出」という2つの金鉱脈で成長する現地企業のリアルな戦略を解説します。
