パイナップル3.5トンが90分で完売!農村にも押し寄せる「ライブコマース(EC)」の爆発的熱気と最新トレンド(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/6/16)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく石黒が選ぶベトナムのニュース紹介、第33回目。
今回は、ベトナムでいま最も熱い市場の一つである「デジタル経済(EC・ライブコマース)」にスポットを当てます。
地方の農産物がライブ配信で爆発的に売れている現状と、激変するベトナムのEC市場シェアの最新データをもとに、今後のビジネスチャンスを解説します。
2026年6月11日BaoDuTuのニュース(原文はベトナム語)
ドンタップ省産のパイナップルがライブ配信中にわずか90分で完売:ベトナム農産物にとって新たなチャンス到来。
1. わずか90分で3.5トン完売!地方の農家が主役になるベトナムのライブコマース
現在、ベトナムの地方農村や山岳地帯では、これまでの常識を覆す新たなビジネスの動きが報じられています。
その一つ目が、メコンデルタ流域にある南部ドンタップ省のハニーパイナップルの事例です。これまで主に高級スーパーや輸出向けに流通していたこのパインですが、2026年に入り、TikTok Shopなどのライブコマースを本格的に導入しました。
すると、初のライブ配信プラットフォームでの販売で、なんと開始わずか90分のうちに3.5トンがまたたく間に完売するという驚異的な記録を叩き出したのです。

この波は、南部の農村だけにとどまりません。北部山岳地帯のランソン省に暮らす、60歳近い女性農家のTikTok Shop活用も大きな注目を集めています。
彼女は簡易的な配信ブースの前に立ち、不慣れながらも一生懸命に地元の特産品であるカスタードアップル(釈迦頭)や乾燥タケノコ、野生の蜂蜜の瓶を一つ一つゆっくりと紹介していきました。決して話が上手なわけではなく素朴で、時折ためらいがちであったものの、そのリアルな姿が共感を呼び、ライブ配信には何千人もの視聴者が集まったといいます。

かつては「作物がたくさん採れても仲買人に安く買い叩かれる(豊作貧乏)」という悪循環が繰り返されていましたが、全国の消費者に直接販売できるようになったことで、地方の農家たちはこれまでの状況から脱却しようとしています。
現在ベトナムでは、誰もがスマートフォン一つで「全国展開するデジタルショップのオーナー」になれる時代が到来していると言えます。
2. ニュースの背景にある「ベトナムのリアルな事情」
では、この爆発的なライブコマースの盛り上がりを支える、ベトナムEC市場の「いま」を具体的な数字から見ていきましょう。
2-1. ベトナムEC市場の規模と「2大巨頭」による寡占化
シンガポール政府系投資会社テマセクなどが作成した「e-Conomy SEA 2025」によると、ベトナムのEC市場規模(流通取引総額=GMV)は、2025年時点で約250億ドル(約3.8兆円)に達しており前年比17%の成長でした。東南アジア内でも第3位の規模となり、成長している市場ですが、その内部では激しい地殻変動が起きています。
シンガポールの調査会社 Momentum Works が発表した最新レポートによると、ベトナムの主要ECプラットフォームのシェアは、驚くべきことに上位2社だけで全体の97%を占める完全な寡占状態にあります。(2026年5月1日のベトナム語の報道「ベトナムの電子商取引市場は、大きな変革期を迎えている。」より)
1位:Shopee
流通取引総額(GMV):118億米ドル超
市場シェア:58%
2位:TikTok Shop
流通取引総額(GMV):約80億ドル
市場シェア:39%
これにLazadaやTikiといった大手・地場プラットフォームが続きますが、主要4社の合計取引額(約203億ドル)のうち、上位2社だけで198億ドル(実に約97.5%)を占めているのが現状です。

かつてベトナム発のECとして期待されていた「Tiki」などの地場プラットフォームは、圧倒的な資金力とユーザー基盤を持つ外資系大手の前に、事実上、主役の座を追われる形となっています。
すでに市場は「莫大な資金を投じたプロモーション(クーポン)によるユーザー獲得競争」の段階を終え、現在は「運営能力」「物流インフラ」「ユーザーエクスペリエンス(購入体験)」で競う成熟したフェーズへと移行しています。
また、YouNet ECIが発表したレポートによると、2025年にプラットフォーム全体の販売者数は5.6%減少した一方、販売者1人当たりの平均収益は33%増加したというデータがあります。この数字からも、EC市場の競争の焦点が単なる「規模の拡大」から「パフォーマンスの最適化(質への転換)」へとシフトしていることが伺えます。
2-2. Tik Tok Shopが仕掛ける「コンテンツ×物流インフラ」
とりわけ驚異的なのが、シェア39%まで急拡大した TikTok Shop の勢いです。彼らは単に商品を並べて安売りする従来のECではなく、動画やライブ配信を通じて「楽しさの中で商品を発見させる」という「コンテンツ発見型コマース(ショッパーテインメント)」という手法で市場を席巻しています。
そして彼らが取り組んでいるのがベトナムの地方自治体(市町村)を取り込む方法です。
2026年5月15日の報道によると、TikTok Shopはベトナムにある3,000以上の自治体を電子商取引に参入させることを目指し、「ベトナム商品急成長2026」ロードマップを発表しました。さらに、今年後半の6ヶ月間でベトナムの販売業者向けに1,000億ベトナムドン(約6億円)相当の支援パッケージも開始しています。

彼らはすでに3万人以上の地方の売り手に対して、ライブ配信のノウハウや法的ルールの教育を行ってきました。
さらに、生鮮農産物を扱う上で最大のボトルネックだった「物流(ロジスティクス)」についても、「4時間配送機能」のリリースや、大手物流の Viettel Post と連携した「農産物専用の特急輸送ライン」を構築するなど、インフラ面の強化を急速に進めています。
最初に取り上げたドンタップ省のパイナップルや、北部の山岳農家の事例は、まさにこうしたインフラ投資が生んだ成功例と言えます。
3. 筆者(石黒)が注目したポイント:1企業が産業構造と地方の格差を変えている
かつて、ECやライブコマースといえば「都市部の若い世代が、服や化粧品を安く買うためのもの」というイメージが主流でした。しかし、いまやベトナムでは若い人だけでなく、地方の高齢層や一次産業の担い手たちが、自らデジタル技術を使いこなしてビジネスを広げる手段として活用が広がっています。
このニュースを見て私が最も注目したポイントは、「民間企業1社のプラットフォーム戦略が、結果的にベトナムの長年の課題である地域間格差や、農業の古い産業構造を根本から変えつつある」という点です。
これまで地方の農家は、価格の決定権を仲買人に握られており、市場の需給バランスに振り回される不安定な生活を余儀なくされていました。しかし、ライブコマースという「消費者と直接つながるチャネル」を手に入れたことで、自らの製品のこだわりやストーリー(ベトナム優良農業規範「VietGAP」や、一村一品運動「OCOP」といった公的な品質・特産品ブランド認証など)を直接アピールし、適正な価格で販売する力を得つつあります。
さらに、TikTok Shopは国内市場にとどまらず、ベトナム製品を越境ECで世界へ羽ばたかせる「Hàng Việt cất cánh(ベトナム製品の離陸)」という取り組みも視野に入れています(2026年5月13日の報道「TikTok Shopにおいて20万点以上のOCOP製品とベトナム製品に識別タグが付与」より)。将来的には、日本にいながらベトナムの農家が配信する動画を見て、産地直送の特産品を直接購入する、という未来の動きも十分に考えられます。
競争の軸が「どれだけ安くできるか」から「どれだけ買い手をワクワクさせるコンテンツ(ストーリー)を作れるか」へ。そして、それを支える「確かな物流・オペレーション体制」の有無。
このダイナミックな変化は、今後ベトナム市場への進出や販路拡大を狙う日本企業にとっても、マーケティングや流通戦略を組み立てる上で非常に参考になる、示唆に富んだニュースだと感じています。

「Ăng-Ten(アンテン、ベトナム語でアンテナを意味)」は、ベトナム最大の経済都市・ホーチミン市を実際に訪れ、現地で長年ビジネスを営む7名の専門家と直接つながる、2泊3日の密度の高いビジネス出張ツアーです。
💡 本ツアーで得られる3つの価値
- 誰に会うべきかが見える:法務(弁護士)・採用・金融(銀行)・BtoB営業・不動産など、現地で接点を持つべきスペシャリストと直接議論ができます。※弊社バイタリフィ アジアのDirector 石黒も、オフショア開発の専門家(講師)として本ツアーに登壇いたします!
- 何から着手すべきかが整理される:すべて日本語での実践講義を通じて、拠点設立に必要な実務の順番と、見落としやすい注意点(成功例・失敗例)をまとめて持ち帰れます。
- 帰国後の相談先(人脈)が確保できる:質疑応答や後日の個別面談を通じて、自社の悩みを直接ぶつけることができ、帰国後すぐに動ける体制が整います。
【開催スケジュール(2026年)】
- 第3回目:7月15日(水)〜7月17日(金)
- 第4回目:8月19日(水)〜8月21日(金)
- 第5回目:9月9日(水)〜9月11日(金)
- 第6回目:10月14日(水)〜10月16日(金)
※オプションで航空券の手配や延泊(観光・ゴルフ等)のご相談も可能です。
急成長するベトナム市場への進出や、新規事業の拠点設立をミッションとして任された皆様。事前情報だけで判断するのではなく、ぜひ現地の最前線を自分の目で確かめに来てください。ホーチミンでお会いできることを楽しみにしています!
▼お申し込み・スケジュール詳細はこちら
「Business & Culture」の関連記事

急拡大するベトナムのペット市場!東南アジア最大級「Petfair Vietnam 2026」から読み解く背景(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/6/15)
爆発的に拡大するベトナムのペット市場。東南アジア最大級の展示会の熱気から、背景にある「少子高齢化・非婚化」といった社会構造の変化と、日本企業の新たなビジネスチャンスを紐解きます。

参考になるのは日本の空?ベトナム航空市場の「巨大な空白」短距離フライト87路線の可能性(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/6/12)
ベトナム航空市場に眠る巨大な空白地帯。日本と比較して見えてきた「未開拓な短距離87路線」の可能性と、地方の新空港建設ラッシュがもたらす新たな物流・観光ビジネスのチャンスを解説します。

歩道レンタルで5,182万円、違法摘発で1億7,681万円の収益!? ホーチミン市が挑む「カオスな歩道」のマネタイズ(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/6/11)
ホーチミン市がカオスな歩道や道路のデジタル管理(スマホアプリ化)を開始。歩道レンタルでの収益化や違法摘発、行政DXによる汚職防止など、スマートシティへと向かうベトナムのリアルな実態を解説します。
