歩道レンタルで5,182万円、違法摘発で1億7,681万円の収益!? ホーチミン市が挑む「カオスな歩道」のマネタイズ(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/6/11)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく、石黒が選ぶベトナムのニュース紹介、第30回目。
皆さんは「ベトナムの歩道」と聞くと、どのような風景を思い浮かべるでしょうか?
「プラスチックの低い椅子を並べたローカルな屋台(露店)がひしめき合っている」「バイクが駐車場代わりに我が物顔で並び、歩行者が車道を歩かざるを得ないカオスな空間」といった、東南アジア特有のエネルギッシュかつ無秩序な姿を思い浮かべる方が多いと思います。
現在、経済の中心地ホーチミン市では、デジタル化したシステムで、この「カオスな歩道」から新たに収益を得ようとしている、そんな新たな試みが報じられていたので、それについて紹介します。
2026年5月18日 Laodongのニュース(原文はベトナム語)
ホーチミン市は、道路や歩道の臨時使用を管理するためのソフトウェアプログラムの試験運用を開始しようとしている。
1. 歩道や道路使用申請のスマホアプリ化
今回取り上げたニュースは、ホーチミン市が道路や歩道の臨時使用を管理するためのソフトウェアプログラムを18か月間試験的に導入するという内容。期間終了後は、その結果を見て継続するかどうかを判断するようです。
このソフトウェアは、ベトナムの通信大手VNPT社が開発し管理する政府側と、道路を利用したい市民や企業の両方に役立つシステムとなっています。

デジタルマップ上で管理され、政府側は道路や歩道の臨時使用が許可された場所を視覚的に監視できるようになり、料金徴収、統計レポート作成、運用管理支援などの機能も統合されているとのことです。
また市民や企業といった利用者側は、スマホアプリ(Android、iOS)で申請手続きができるようにするとのことでまだ公開はされていませんが、今後公開予定とあります。そして、おそらく道路や歩道の利用料の支払いに関する手続きなどもこのアプリ上でできるようになると考えられます。
なお現行の規制によれば、道路や歩道の一時的な使用が認められるのは、政治・文化・スポーツイベントの開催、災害予防と救助、建設工事、廃棄物や建設資材の収集、葬儀や結婚式、そして必要に応じた駐車という計6つのケースに限られているとあります。

しかし過去に紙ベースで発行され既に期限切れとなった道路や歩道の使用許可証を使い、一般の商店などが引き続き使用しているケースもあって、こういった曖昧な状態をデジタル管理で厳格化していく一環として、今回のシステム導入となります。
2. ニュースの背景にある「ベトナムのリアルな事情」
ホーチミン市がこれほど本腰を入れて歩道のマネタイズと取り締まりを同時に進める背景には、3つの明確な理由があると考えられます。
2-1. 「合法レンタルで5,182万円の収益」&「違法摘発で1億7,681万円の収益」のインパクト
ここ1年ほどで以下の2つのニュースが報じられていました。
1つ目は、2025年8月20日付けのLaodongのニュース(原文はベトナム語)で「ホーチミン市、1年以上の試験導入を経て歩道・車道のレンタルから85億ドンを回収」。昨年までに実施した車道や歩道の試験導入(試験販売)において、約85億ドン(約5,182万円)の利用料を回収できたとあります。

そして2つ目は、2026年5月7日 BaoXaydungのニュース(原文はベトナム語)「ホーチミン市では、歩道占拠違反が年間3万3000件以上発生し、約290億ベトナムドンの罰金が徴収されている。」。
2026年1月半ば以来、当局は延べ109,756人以上を動員して24,732回のパトロールを実施したとあります。

その結果、道路や歩道への不法占拠といった計33,038件の違反を記録・処理し、罰金の総額は289億4000万ドン(1億7,681万円)に達しました。
ちゃんと管理すれば、新たな政府収入になる、しかしいつまでも大規模な人力での取り締まりは難しい、それゆえこれをデジタル化していこうという動きです。
2-2. 道路や歩道の利用ニーズの拡大
ホーチミン市建設局によると、周辺の省との合併後、商業や生産目的での道路や歩道の一時的な使用に対する需要が急増し、許可申請件数は以前と比べて200%以上増加したとあります。特に観光業やサービス業が発達した地域に集中して増加しました。
そしてもう1つ見過ごせないのが、電動化による充電インフラの設置です。ここ数年でホーチミンの街を歩くと、かつては存在しなかったものを目にします。

・(スマホアプリを使って借りれる)レンタルサイクル
・(EV車用の)充電ステーション
・(EVバイク用)バッテリー交換ステーション
2026年末までに、ホーチミン市には2万基以上の充電ステーションとバッテリー交換キオスクが設置される予定で、そのほとんどは歩道に設置されるとあります。

しかしながら、ホーチミン市には現在、市内全域の道路や歩道の使用に関する許可の状況をリアルタイムで監視するための集中管理ツールが存在せず、認可された敷地の境界を示す一括管理できるデジタル地図もないため、インフラ、地下工事、交通計画、緑地などと重複するものについては、主に職員の経験に基づいて行われているとあります。
これを今回のデジタル化によって迅速に判断できるようにしていこうという動きです。
2-3. 役人の汚職(闇のみかじめ料)を撲滅する「デジタルガバナンス」
そしてデジタル化することによるもう1つの目的は、地下経済の防止です。これまで、歩道の露店や違法駐車の多くは、地元の警察や管轄役人に「賄賂(事実上のみかじめ料)」を支払うことで黙認されているのが公然の秘密でした。
歩道・車道管理のシステムを導入し、利用者側もアプリで手続きできるようにすることで、デジタル上で可視化・透明化することになり、現場の役人の汚職を防ぐことに繋がります。
これは以前の記事「「役所への賄賂は10%の市民が必要と回答」!? 不都合な真実をあえて公表するベトナム政府の狙いとは(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/5/25)」でも取り上げた「窓口を介さない行政の完全デジタル化」という点と同じです。
3. 筆者(石黒)が注目したポイント
このニュースを見て興味深いと感じた点は、ベトナムの都市管理が「新興国特有のどんぶり勘定」から、「デジタル化してインフラから収入を生み出す」ことへとシフトしている状況です。
過去には何度も「歩道の露店を一斉強制撤去する」という強硬なクリーンアップ作戦を行ってきましたが、そのたびに市民の猛反発やそこでビジネスをしている人の生活の問題にも直面し、数ヶ月で元のカオスに戻るという失敗を繰り返してきました。
そこでデジタルを活用し「アメとムチ」を使い分けることで腐敗の温床からも脱却をしようとする。
もちろんこれがどの程度、実用的なものなのかは、今後の試験導入を経て評価されることになりますが、都市(地方政府)であってもこういう試みをしていこうとしている点は、新たなビジネスチャンスをも感じさせる興味深いニュースだと思いました。

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