ベトナムは生成AI「Gemini」をどう使っているのか?Googleの公式レポートが語る東南アジア各国との違い(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/7/16)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく「石黒が選ぶベトナムのニュース紹介」、第55回目。
今回のテーマは、いまやグローバルで社会インフラとなっている先端テクノロジーGoogleのAI『Gemini』のベトナムでの利用について。
先日2026年第1四半期(1~3月)のデータを元にした「Gemini Report Southeast Asia 2026」が発表され、東南アジア各国におけるGemini利用について解説され、ベトナムの他国との違いなども明らかになりました。それについて紹介します。
2026年7月14日 How Gemini is speaking the language of Southeast Asia内にある「Gemini Report Southeast Asia 2026」
1. 数字で見る、東南アジアにおけるGemini・AI利用の「今」
Googleの「Gemini」は、2026年4月時点で全世界で9億人以上が利用する巨大なAIインフラサービスとなっています。
今回のレポートでは、ベトナム単体の具体的なアクティブユーザー数は非公開だったものの、過去1年間(2025年4月〜2026年3月)で、東南アジア主要6カ国(シンガポール、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム)の利用者は「2倍以上」に激増したことが報告されています。
そんな東南アジアの人々にとって、Geminiが日常でどのような役割(キャラクター)を担っているのかを可視化したのが以下のデータです。

◆Generative Collaborator(共同クリエイター):40%
画像生成、文章の執筆、プログラミングのコーディングなど、ゼロから新しいものを生み出す際のアシスタントとしての役割。
◆Research Assistant(リサーチ助手):20%
事実の調査や、複雑なトピックの要約など、必要な情報を効率よく収集する際の見習いとしての役割。
◆Thought Partner(思考の壁打ち相手):10%
誕生日のプレゼントのアイディア出しや、旅行先の選択肢の提案など、アドバイスや客観的な意見、推薦を求める役割。
◆Infinite Possibilities(無限の可能性):30%
日々のジョークの作成から、カレンダーへのイベント自動登録にいたるまで、多種多様な日常の雑務をサポートする役割。
では、東南アジアのユーザーはどのような「モダリティ(入力方法)」でAIに語りかけ、AIはどう返しているのでしょうか。その入力と出力のダイナミックな流れを表したのが以下のサンキー図です。

約6割弱がテキストであるものの、音声入力も12%あり、残りは画像やドキュメント、動画などで入力しています。
一方でGeminiからの出力では、テキストが77%と大半で画像が22%とこの2つで全体の99%を占めており入力方法との違い、入力方法の多様性が見て取れます。
2. 数字で見る、ベトナムにおけるGemini・AI利用の「際立つ特徴」
ここからが本題です。この急成長する東南アジア市場の中で、ベトナムは他の国とどのように異なっているのでしょうか。3つの明確なファクトが浮き彫りになっています。
2-1.Geminiを利用している「デバイス」の違い:新興国でダントツのPC利用率

東南アジアにおけるインターネット利用といえば、基本的にはスマートフォン(モバイル)が主役です。実際にインドネシアではユーザーの82%がスマホからGeminiを利用しています。一方で、最先進国で1人当たり所得の極めて高いシンガポールでは、PC(コンピューター)からの利用が58%と大半を占めます。
「所得の低い新興国ではPCを保有していないためスマホだけで完結し、所得の高い国ではオフィスや自宅のPCでじっくりAIを使う」という構造は非常にすんなりと理解できます。
しかし、ここで異彩を放っているのがベトナムです。
ベトナムは同じ新興国グループに属していながら、他の東南アジア新興国を遥かに凌駕する「32%」という高いPC(コンピューター)利用率を記録しています(これはインドネシアの実に2倍の数値です)。
この背景にあるのは、先週の記事でもご紹介した「パソコン保有率の高さ」に他なりません。各国の直近の国家統計データを並べてみると、その土壌の違いが一目瞭然です。
◆インドネシア(2024年):都市部25.23%、全土18.52%
◆ベトナム(2025年):都市部42.2%、全土27.4%
◆フィリピン(2024年):全土17.9%
※フィリピンは保有率ではなく利用率
データの引用元。ベトナム「ベトナム国家統計局KSMS2025、先日の2026/7/10の記事:政府データから読み解くベトナムの「本当の豊かさ」と現在地 でも紹介」。インドネシア「Percentage of Households Owns Computer by Urban Rural Classification, 2024」。フィリピン「Highlights of the 2024 National Information and Communications Technology Household Survey」より。
2-2.Geminiの「利用用途」の違い:『学術・教育目的』で東南アジア首位
PC利用率の高さがそのまま投影されているのが、ベトナム人のAIの「使い道(用途)」です。

ベトナムは「学術目的(Academic・緑色のセグメント)」の利用率が『17%』に達し、東南アジア地域でぶっちぎりのトップ(首位)を記録しました。
公式レポートによると、ベトナムでは毎月16万人以上の学生が、試験対策や自学自習のために「Gemini Canvas」をフル活用しています。特に「数学」分野でのAIへの質問数は東南アジアで最も多く、ベトナム人が入力する全プロンプトの5%が数学関連の問いで占められています。
さらに、ベトナムの国家的な強みでもあるソフトウェア開発の現場でも利用が猛烈に盛んであり、「コーディング(プログラミング)タスク」での利用率は東南アジア第2位(プロンプト全体の4%)をマークしています。
2-3. プロンプトの「言語」の違い:驚異の母国語率と、ラオカイのお茶農家の奇跡
さらに特徴的なのは、「何語でAIに指示を出しているか」という言語のデータです。

ベトナムのユーザーが「母国語(ベトナム語)」でプロンプトを書いている割合は、東南アジア地域でNo.1の『89%』に達しています。
この高い母国語率を支えているのが、ビジネスにおける「翻訳機能」としての圧倒的な活用度の高さです(これも地域1位)。
レポート内ではベトナムの実例として、「ベトナムの田舎であるラオカイ省の山奥でお茶を栽培している小規模農家」のストーリーが紹介されています。
この農家は、これまでの不透明な中間業者(ブローカー)に頼る古い商流から脱却するため、Geminiの翻訳機能を相棒に据え、自分たちのベトナム語の想いを正確な英語や欧州言語に翻訳して、ヨーロッパやアメリカのバイヤーと『直接ダイレクトに貿易取引』を成立させました。まさにAIが場所の格差を破壊し、世界への架け橋となった象徴的な事例としてグローバルに紹介されています。
3. 筆者(石黒)が注目したポイント:
今回のGoogleの公式グローバルレポートを見て私が最も興味深いと感じたのは、ベトナムの若者や労働者たちが、他の東南アジア諸国よりも「学術(勉強)やプログラミング、海外取引といった、極めて真面目で生産性の高い付加価値向上のためにGeminiを相棒として利用している」という点です。
AIの学習利用については、何でもAIに聞いてしまうことで思考力が育たないなどの課題も指摘されていますが、ベトナムでも学生時代からAIを利用してきたAIネイティブの世代の割合が今後高まっていきます。
このテクノロジーの民主化により、これまでのベトナムビジネスの定番であった「仕様書通りにコードを書くだけの低単価なオフショア開発」や「単なる言語の通訳者」といったレガシーな職職種は、その市場価値を失っています。
その一方で、レポートに登場したラオカイのお茶農家のように、「地方の一次産業のプレイヤーが、言語の壁という最大のソフト面の弱点をAIによって克服し、国境を越えて世界中の市場と直接つながっていく」という、これまでにない変化が発生し始めています。
ベトナム市場が持つ「変化の速さ・圧倒的なスピード感」を改めて感じた、そんなレポートでした。

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