株価の6.7倍の配当を出す会社!知られざるベトナムの葬儀ビジネスと闇(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/7/15)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく「石黒が選ぶベトナムのニュース紹介」、第54回目。
今回取り上げるのは、ベトナムで株式公開している唯一の葬儀会社。なんと今年2026年5月には、株価の6.7倍もの配当金を出した会社です。彼らはどこで儲けているのか。日本ではあまり知られていないベトナムの葬儀ビジネスの裏側について紹介します。
2026年4月30日のベトナムメディアcafefの報道より
葬儀会社が巨額の現金配当を支払っている
1. 数字で見る、世にも奇妙な「葬儀会社」の超高配当利回り
ベトナム北部にあるハイフォン市で葬儀や墓地管理、火葬サービスをワンストップで展開するハイフォン葬儀株式会社(Mai táng Hải Phòng)があります。
この会社の株式は、ハノイ証券取引所が運営する未上場公開株取引市場であるUPCoM(Unlisted Public Company Market)に登録されている会社(銘柄コード:CPH)ですが、今年4月に驚きの配当額を発表しました。
配当は、1株当たり2,022ドン。一方で株価は、1株300ドン。よって配当は、株価の6.74倍にもなります。配当利回りに換算すると、前代未聞の「674%」という驚異的な数値です。
これを見て、「今すぐこの会社の株を買い占めたい!」と思った投資家も多いはずですが、現実はそう甘くありません。同社の売買取引高は、市場では「ずっとゼロ」のままです。

つまり、UPCoM市場に名前こそ登録されているものの、大株主がガッチリとホールドしているため流動性は皆無であり、一般の個人投資家が市場から購入することは事実上不可能な「幻の超高配当株」となっています。
1-1.ハイフォン葬儀株式会社は、どういう会社なのか
事業としては、埋葬、再埋葬、火葬、葬儀用搬送、墓地管理、葬儀に必要な物品およびサービスの提供など、葬儀サービスに関する管理および組織運営業務を行っている会社です。
元々は、国が100%保有する国有企業でしたが、2015年5月21日付のハイフォン市人民委員会の決定第1068/QD-UBND号に基づき、2015年6月2日以降、複数の株主がいる株式会社へと変更されました。
現在の株主は、ハイフォン市人民委員会が64.5%を保有し、第2位の株主はホアンファット建設貿易投資有限会社で10%、取締役会長のグエン・ホン・レ氏も5.33%保有し、この3者で株式の約8割、残りを個人株主が持っており、発行済み株式数は440万株あるものの、市場でほぼ取引のない会社になります。

葬儀という一見目立たない事業ですが、2018年以降、売上高が1,000億ドン(約6億円)を超え、税引き後利益は毎年約100億ドン(約6,000万円)で推移。
2025年の売上高は前年2024年と変わらず1,510億ドン、税引き後利益は110億ドンで、今回の配当では、利益の大半である90億ドンを株主還元した形となります。
2026年の計画では、売上高1,300億ドン、税引き後利益100億ドンと見込んでおり、売上は下がるものの利益額は維持する計画となっています。
そして興味深いのは、事業部門ごとの利益構造です。
・葬儀サービス部門:売上656億ドン(粗利率4.1%)
・物品(骨壺、棺、墓石)の販売部門:売上840億ドン(粗利率45%)
・完成品製造(墓石建設)部門:売上15億6000万ドン(粗利率64%)
葬儀自体は、あまり儲かっていませんが、葬儀に付随する物品などで儲けており、それが配当の高さへと繋がっています。
2. ニュースの背景にある「ベトナムのリアルな事情」
ハイフォン葬儀株式会社で粗利率が高い分野「物品販売」ですが、実はベトナムの葬儀業界における闇の深い部分でもあります。
2026年4月9日のPhunu Vietnam紙が報じた「ハノイの公営葬儀サービスにおける「秘密の独占」疑惑」。記者の方が実際に訪問して調べた調査報道によると、以下の通りです。
ハノイ市葬儀サービス委員会傘下のカウザイ葬儀場では、葬儀を行う場合、同機関が提供または推奨するサービスを利用せざるを得ず、拒否した場合は、そこで葬儀を行うことが許可されないとあります。
例えば遺族が棺(棺桶)を外部で購入してこの葬儀場に持ち込むことができないことや、遺族が式典(葬式)だけをその葬儀場で行い、火葬は別の場所で行うことはできず、全て一貫してこの葬儀場で行わざるを得ないとあります。
極めつけは、詳細な価格表を求めても葬儀場の担当者から「価格表はありません」と回答され、「(葬儀場利用の)契約書に署名した時点で初めて提供する」という回答があった点です。つまり利用確定後に言い値でいくらでも請求できることになります。

同じハノイ市葬儀サービス委員会傘下にある別のタイントリ葬儀場でも、「棺(棺桶)は外部で購入できず指定のものを買わざるを得ない」という回答であったことが報じられています。
これはハノイの葬儀場に限った事ではなく、ホアビン省やフートー省などの他の火葬場でも発生しています。
そこでは、外部で購入した小型の棺や骨壺を持ち込めないことや、骨壺を持ち込むには300万~500万ドンの手数料が必要となるといった独自ルールが適用されており、取材に対して葬儀場は、「他の場所でも、どこでもやっている」「費用が高すぎると感じるなら、他の場所を利用すればよい」と回答しています。
そしてこの件を地域行政に連絡しても地区代表者からは「この問題は地区の管轄外であり。労働・傷病兵・社会問題省または内務省に連絡して対応してください」と回答されてしまうなど解決できず、たらい回しになっています。(2025年4月11日のLAODONG紙の報道より)
今回取り上げたハイフォンの状況は分かりませんが、葬儀場における粗利率が高い分野「物品(骨壺、棺、墓石)の販売」については、上記のような点が指摘されている分野でもあるのが、ベトナムのリアルな一面です。
3. 筆者(石黒)が注目したポイント:
物品販売の強制という闇は別として、ベトナムの葬儀という分野自体は、今後需要が大きく伸びていく分野と考えられます。
その背景にあるのは、死亡者の継続的な増加です。実際に人口1000人当たりのベトナムの死亡者数推移を見ると1990年代から継続的に減っていたものが、2008年を底にして継続的に増えています。

この理由の主には、高齢者が寿命や病気などで亡くなったことによるものです。そして今後も高齢化が進むベトナムでは、それに合わせて亡くなる人も増えていくのが確定した未来でもあります。
よって葬儀分野は需要が伸びるという意味では魅力的な分野であるものの、一方で法規制などから外資が簡単に参入できるような分野ではないでしょう。

ただ今回のニュースを見ていて思ったのは、世の中で注目を集める分野ではない、葬儀の様な一見地味に見える分野の中にも実は有望なビジネスの種が隠れているという点です。
それをどのように見つけ出して、利用者も喜ぶ真っ当な形で事業を営んでいくのか。そんなことを考えさせられたニュースでした。

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