ベトナムのドラッグストア市場と急拡大するチェーン店舗の裏側(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/7/9)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく「石黒が選ぶベトナムのニュース紹介」、おかげさまで今回で50回目の大節目を迎えました。
今回のテーマは、ベトナムの国内消費を象徴する小売り市場において、最も激しい火花が散っているともされる医薬品小売(ドラッグストア)チェーン業界について。
長年、街にある個人経営のパパママ薬局がほとんどであったベトナムですが、ここ数年で近代的なチェーン店が急拡大しています。現地経済メディアの報道から、その驚進のリアルを読み解いていきます。
2026年7月ベトナムメディアcafef e-Magazine
誰が優位に立っているのか?100億ドル規模の医薬品市場を巡る競争
1. 高成長を続けるベトナムの医薬品市場
ベトナムの医薬品市場規模ですが、調査機関によってばらつきがあります。
Fortune Business Insightsによるベトナム医薬品市場調査のデータによると2024年には79億4000万ドル、2025年には85億8000万ドルに達し、2032年には160億3000万ドルに達する可能性があると推定しています。これが実現した場合の年平均成長率(CAGR)は約9.33%にもなります。(ベトナム語の報道TheLeaderより)
一方、経済メディアcafef e-Magazineでは、SHSリサーチのレポートを引用し医薬品市場(ワクチンを除く)は、2025年時点で約214兆ドン(約82億ドル)、2026年には約100億ドルに達すると予測しており、過去2020年から2025年にかけての年平均成長率(CAGR)は10%相当であったと報じています。
いずれにせよ、日本円で1兆円を超え、成長率も高い魅力的な市場です。
現在の医薬品の売上構造(チャネル別)で見ると、以下のようになっています。
・医療用医薬品(病院等で処方される薬 / ETC):70%(成長率 CAGR:12%)
・一般用医薬品(薬局等で買える市販薬 / OTC):30%(成長率 CAGR:8%)
※ETC=Ethical pharmaceuticals、OTC=Over The Counte

現在、これら医薬品を販売する卸売業者は全国に約8,000社、小売店は実に95,000店舗存在するとされています。しかし、近代的なドラッグストアチェーンが占める割合は16〜19%に過ぎず、市場の大半(約8割超)は、いまだに従来型の個人経営のパパママ薬局です。だからこそ、メガチェーン店にとって今後の拡大余地(白地)が非常に大きい市場として熱い視線が注がれています。
では、ベトナムの医薬品小売チェーン店には、どのような会社があるのか、3大メガチェーンの足元の勢力図を比較してみます。
1-1.FPT Long Châu(FPTロングチャウ)
以前の記事「2026/6/29:ベトナム医療DXの最新動向!国家アプリVNeIDと電子健康記録が作る未来」でも取り上げたIT最大手FPTグループ傘下の薬局チェーンです。
2025年時点の店舗数は2,417店舗に達しており、業界不動のトップ企業となっています
。最大の強みは、1店舗あたりの月間平均売上高が12億7,000万ドン(約785万円)と、競合チェーンの2倍以上という圧倒的な高効率を叩き出している点です。

上の店舗数推移グラフ(オレンジ色のライン)を見ると一目瞭然ですが、FPT Long Châuは2017年時点ではわずか8店舗しかなく業界2位でした。そこから親会社FPTの圧倒的なIT技術力(在庫最適化DX)と潤沢な資本力を武器に爆速で出店を重ね、現在では圧倒的なNo.1チェーンへ登り詰めました。

2025年の通期売上高(推定)は34兆5,010億ドン(約2,131億円)、前年比36%増と信じられないスピードで成長しています。さらに今後は、全土で併設を進めるワクチンセンター事業のマネタイズや、地方都市へのさらなる深耕によって高成長が続く見込みです。
1-2.Pharmacity(ファーマシティ)
2011年に設立された、ベトナムにおける近代的ドラッグストアチェーンの元祖(パイオニア)です。2025年時点の店舗数は1,040店舗で業界2位となっています。

1店舗あたりの月間平均売上高は約5億4,600万ドン(約337万円)で、欧米風のドラッグストアを模して医薬品だけでなく、日用消費財(FMCG)やパーソナルケア・コスメ製品の物販に強みを持っています。
1-3.An Khang(アンカン)
ベトナムの小売・家電最大手グループであるモバイルワールド社(Thế Giới Di Động / MWG)が展開するチェーンです。同じグループ会社には、以前の記事「2026/6/4:店舗数拡大の限界を超える!ベトナム家電小売最大手の大型IPOと彼らが持つ2つの金鉱とは?」取り上げた白物家電などを販売するディエンマイサイン(Điện Máy Xanh)もあります。

2025年時点の店舗数は382店舗、1店舗あたりの月間売上高は Pharmacity と同水準と予想されています。
国内トップの小売りグループが持つ強力な出店余力、高度な在庫管理システム、および確立された物流ノウハウをそのまま横展開して効率化を進めています。
2. ニュースの背景にある「ベトナムのリアルな事情」:
新興国のベトナムで、なぜこれほどまでに医薬品小売り市場が急拡大しているのか、背景にある2つのリアルな社会情勢を見ていきましょう。
2-1. 今後も拡大を決定づける3つのマクロトレンド
(1)人口の急速な高齢化と慢性疾患(心血管疾患、糖尿病、がんなど)の増加
ベトナム保健省(医薬品管理局)の報告によると、ベトナムの一人当たりの平均医療費は2025年時点で78.3ドル(約12,700円)とされていますが、今後の高齢化にともない急激に増加し続けると予測されています。

ベトナムの高齢化スピードは日本以上の速度で進んでおり、さらに経済発展による都市部の「生活習慣の変化」が原因で、心血管疾患、糖尿病、がんなどの慢性疾患が急増。これが医薬品への持続的な需要を底上げしています。(ベトナム語の報道TheLeaderより)
なお高齢化と都市部での生活習慣(食生活)の変化については、過去Blog記事でも取り上げていますのでご興味があればご覧ください。
「2026/6/30:ベトナム成人の4割超が肥満!?食生活の変化とヘルスケア市場のビジネスチャンス」
「2026/5/4:高齢者向け住宅プロジェクト発表から見えてくるものとは?」
(2)コロナ禍を経た健康意識の上昇
世界を混乱させたコロナ禍において、ベトナムは非常に厳しい都市封鎖(ロックダウン)を経験しました。
この原体験から人々の予防医療への関心が劇的に高まり、病気になってから薬を飲むだけでなく、日頃から予防医療製品、ビタミン剤や栄養補助食品、サプリメントを購入して自己防衛する文化が定着しました。

これを支えているのが、近年の経済成長による国民の所得向上です。
(3)国の国産優遇政策と製薬会社のグローバル化
ベトナム政府は現在、医療への公的投資の増加や健康保険の適用拡大を進めると同時に、「公立病院ではベトナム国産の医薬品の使用を優先する」という国策を打ち出しています。
これに呼応するように地場の製薬メーカーの技術が向上。
特に特許切れ医薬品のジェネリックやバイオシミラーの分野において、国際基準である「EU-GMP」に準拠した高度な工場を新設し、高品質な薬を安価に供給し始めています。
2-2. 拡大を裏から後押しする「オンライン流通(ヘルステック)」の台頭
ベトナム全土での5Gをはじめとする高速ネット回線とスマートフォンの100%近い普及により、医薬品の「オンライン流通(EC)」が次の巨大市場として注目を集めており、その市場規模はすでに1億3,000万ドル(約211億円)に達していると言われています。
例えば、Medigo、Jio Health、MyPharmaといった新興ヘルステック企業は、「24時間365日のオンライン遠隔診療 ➔ 電子処方箋の発行 ➔ 自宅への即時スピード配送」という一気通貫のサービスで、医療アクセスを激変させています。

さらに、Shopee HealthやLazada Healthといった大手ECプラットフォームもこの領域へ雪崩れ込み、消費者向け医療機器やサプリの販路を拡大しています。
これに対し、FPT Long Châu や Pharmacity といったリアル大手のメガチェーンも、Viettel(通信最大手)や Med Group などのテック企業と戦略的アライアンスを組み、ネットで予約して店舗で受け取る、あるいは店舗のデータをネットで管理する「O2O(Online to Offline)」の仕組みを急速に構築し、顧客の囲い込みを強化しています。
3. 筆者(石黒)が注目したポイント:
今回のベトナムの医薬品小売りを巡る報道を見て非常に興味深いと感じたのは、伸びている巨大市場であっても、一筋縄ではいかない状況です。
ベトナムの近代的な薬局チェーンにおいて、最初に圧倒的な店舗数で市場をリードしていたのは、先駆者である「Pharmacity」でした。彼らは欧米のコンビニ型ドラッグストアをお手本にし、日用品やコスメなどの華やかな物販を充実させて多店舗展開を行いました。
しかし、ベトナムの消費者が薬局チェーンに対して真に求めた本質は、コンビニのような便利さではなく、「病院の処方箋の薬が、どこよりも正確に、安く、確実にすべて揃うこと(高機能な医療インフラ)」でした。
この本質を突いたのがIT最大手グループの「FPT Long Châu」です。彼らは親会社の圧倒的なIT技術力(ビッグデータ分析)を駆使して全国の処方薬の在庫をリアルタイムで最適化し、「Long Châuに行けば絶対に薬がある」という信頼を勝ち得て、わずか数年で先行者を一気に抜き去り、王座を奪って独走状態へ入りました。このIT企業が薬局の王者になるという構造は、非常にベトナム市場らしくてエキサイティングです。
そんなガリバーFPT Long Châuであってもオンラインでの流通という市場に乗り遅れまいと新たな取り組みをしている。

ベトナムの医薬品小売市場には、日本のマツモトキヨシや、ツルハ薬局なども進出しており、今後もさらにドラッグストアチェーンが参入してくると考えられます。
しかし市場が伸びているからといって、日本で成功したドラッグストアのモデルをそのまま持ち込むだけではPharmacityの例にある様に難しいかもしれません。
自社の日本での強みをベースにしながら、ベトナムの消費者が求めているニーズをつかみ、現地流の勝ち方をデジタルを絡めていかに再設計していけるか。市場の変化の早さとビジネスの可能性を感じさせる、そんなニュースでした。

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