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政府データから読み解くベトナムの「本当の豊かさ」と現在地(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/7/10)

政府データから読み解くベトナムの「本当の豊かさ」と現在地(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/7/10)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく「石黒が選ぶベトナムのニュース紹介」、第51回目。

今回は、現在のベトナム人の「本当の豊かさ」を測る上で重要な一次資料「2025年世帯生活水準調査(KSMS 2025)」の結果にスポットを当てます。

ベトナム政府が全国46,995世帯を対象に実施したこの大規模な国家調査データを読み解くことで、平均所得の向上、核家族化、デジタル化、そして格差の本質といったベトナム市場の「リアルな現在地」が浮き彫りになります。詳細な数値データを交えながら、詳しく紹介していきましょう。

ベトナム財務省 国家統計局 2026年7月3日発表資料
2025年世帯生活水準調査の結果に関するプレスリリース

1. 所得と格差:地方の底上げと、データが証明する「女性の経済力」

まずは、市場の購買力を示す直接的な指標である「1人当たりの月間平均所得」です。(※大体の目安として、100万ドン=約6,000円で日本円換算するとイメージしやすいと思います。)

◆全国:600万ドン(前年比10.9%増加)
※2023年から2024年にかけての伸び率(9.1%)よりもさらに成長が加速しています。

◆都市部:740万ドン(前年比6.7%増加)
◆農村部:520万ドン(前年比14.5%増加)

⼀⼈当たりの⽉平均所得の2016年から2025年にかけての推移グラフ。都市部(赤色)、農村部(緑色)、全国平均(靑色)で単位は、千ドンなので6005は、600万5,000ドンの意味となります。

上記のグラフが示す通り、コロナ禍のロックダウンによる一時的な停滞期を除けば、10年スパンでベトナム人の所得は右肩上がりで着実に増え続けています。

特筆すべきは農村部の爆発的な伸び(14.5%増)であり、これによって都市と農村の所得格差は2024年の1.5倍から「1.42倍」へと縮小しました。 しかし、エリア別・地域別に見ると、依然として以下のような大きな経済格差が残っているのもベトナムの現実です。

都市部/農村部および地域別に分類した1人当たり月平均所得の明細表

◆最も所得の高い地域(南東部/ホーチミン商圏等):月平均 約750万4,000ドン
◆最も所得の低い地域(北部ミッドランズ・山岳地帯など):月平均 約415万2,000ドン

さらに、国全体の「稼ぐ人」と「稼げない人(貧困層)」の格差は5.6倍となっています。

◆所得の上位20%(グループ5):月平均 1,182万2,000ドン
◆所得の下位20%(グループ1):月平均 213万ドン

2025年の月平均1人当たり所得。5つの所得グループ別の分類明細データ

このグループ別の明細表をさらに細かく読み解くと、非常に興味深い事実が見えてきます。

それは、どの所得グループ(1〜5)においても、男性が世帯主の世帯より「女性が世帯主の世帯」の方が一貫して1人当たりの所得が高いという点です。ベトナムは伝統的に「女性が強く、実質的にビジネスや家計の主導権を握って稼ぐ国(かかあ天下の国)」と言われますが、まさにそれを国家の数字データが完璧に裏付けています。

また給与所得及び農業や漁業など全収入を全国民で割って、所得の構成を見た時に、どういった所得が多いのかについて10年間の推移も開示されていました。

1人当たり月平均所得のソース(原資)別の構成比推移グラフ

グラフの最下層である「給与・賃金所得の割合は、2016年の48.0%から2025年には57.4%へと大きく上昇。一方で、グレーの「農業・林業・漁業」の割合は16.5%から10.7%へと減少しています。第一次産業中心の社会から、企業に雇用されて安定した給与をもらう「近代的な労働者社会」へと国全体がシフトしていることが分かります。

2. 世帯規模

ベトナムといえば「おじいちゃんおばあちゃんも含めて、みんなで暮らす大家族」という伝統的なイメージがありますが、実際の世帯構成人数の推移を見ると、その常識も覆りつつあります。

1世帯当たりの平均人数、就労年齢人数、扶養倍率の推移グラフ

◆1世帯当たりの平均構成人数(グラフ一番上のグレーの縦棒):
2016年の3.8人から、2025年には3.5人へと減少。

◆1世帯当たりの就労可能(労働年齢)人数(オレンジの縦棒):
2.3人から2.1人へと減少。

このデータから、ベトナムでも都市部を中心に急速に「核家族化」が進行している様子がはっきりと伺えます。

また、赤線で示された「扶養倍率(労働人数1人に対して、子供や高齢者の扶養対象が何人いるか)」は、2025年時点で0.66倍(労働者2.1人に対して扶養が1.386人)となっています。

この扶養の負担は2023年をピークに減少に転じていますが、地域別に見ると農村部の0.69倍に対して、都市部は0.63倍と明らかに低くなっています。都市部における少子化の進展が、すでにこの国家統計の扶養データにも影響を及ぼし始めていると推測することができます。

3. デジタル社会:スマホ普及率8割・SNS利用率8割

現在のベトナムビジネスを語る上で欠かせない、インターネットやスマートフォンの普及率のデータも非常にエキサイティングです。

2024年と2025年における情報通信アクセスの主要指標比較グラフ

2024年と2025年の1年間を比較するだけでも、驚くべきスピードでデジタル化が浸透しています。グラフの左から紹介すると

◆PCを所有する世帯の割合:23.4%⇒27.4%
◆個人の携帯電話使用率※:84.8% ⇒ 87.3%
◆個人のインターネット利用率:84.2% ⇒ 87.1%
◆インターネット接続のある世帯の割合:92.5% ⇒ 93.3%
◆個人のSNS(ソーシャルメディア)利用率:76.5% ⇒ 80.3%
◆ITスキルを持つ人の割合:46.8%⇒49%

※このうち、人口の80.3%が「スマートフォン」を利用しており、従来のガラケー利用はわずか8.5%にまで縮小しています。

インフラとしてのネットやスマホは全国民に行き渡りましたが、一方で「パソコン(PC)の所有率(27.4%)」に関しては、依然として以下のような強烈な格差が存在しています。

◆都市部のPC保有率:42.2% / 農村部:17.6%
◆所得最上位20%(グループ5)のPC保有率:46.8% / 最下位20%(グループ1):5.9%

また、ネットやSNSの利用率は、年齢層によっても興味深い特徴があります。

都市部/農村部、年齢層別のソーシャルメディア利用者割合の明細データ

20代〜30代の若者・現役世代のSNS利用率が97%〜98%超と、ほぼ「全員が常時接続している」のは当然ですが、注目すべきは60歳以上のシニア層のSNS利用率が57.2%に達し、わずか1年で「+7.2%」も爆発的に増加している点です。ベトナムでは高齢者層までもが、急速にデジタル空間へと巻き込まれています。

なお、これに比例して「ITスキルを持つ人の割合」も49.0%(約2人に1人)にまで上昇しています。

4. 住環境

生活の基礎となる住環境の改善も劇的です。2025年の1人当たり平均居住面積は「29.3平米」となり、前年から+0.3平米拡大しています。

居住面積に関する詳細データの明細表

通常であれば、過密な都市部よりも広大な土地のある農村(田舎)の方が1人当たりの居住面積が広そうに思えますが、ベトナムの統計では都市部(30.6平米)の方が、田舎(28.5平米)よりも広いという面白い逆転現象が起きています。

これは、1世帯当たりの平均人数が、都市部(3.4人)、田舎(3.6人)と少ない事も影響していますが、所得グループ別の居住面積を見ても分かる通り、所得の高いグループほど圧倒的に広い家に住んでいるという「経済力の差」が住居の広さにそのまま投影されているためと考えられます。

5. 多次元貧困率

国連開発計画(UNDP)が提唱する単に収入の少なさだけでなく、栄養状態の悪さや乳幼児死亡率の高さ、就学年数、電気や安全な飲み水、衛生環境といった生活水準など、複数の項目を基にして「人間の尊厳に関わる要素が満たされていない状態」を計測した指標「多次元貧困率」があります。

多次元貧困に該当する世帯について、どういった項目が満たされていないのかが、グラフ化されていました。

2025年における多次元貧困指標を満たさない世帯の割合のレーダーチャート(日本語訳したもの)

このレーダーチャートの数字を見ると、貧困世帯において「まだ改善が必要(満たされていない)な項目」の上位は、
1位:雇用や適切な仕事(38.8%)
2位:成人の教育水準(31.4%)
3位:栄養バランス(21.3%)
となっています。

逆に、「衛生的な水」や「トイレ」「電気通信サービス」といった基礎インフラの項目は軒並み数値が極めて低く、現在のベトナムの貧困の課題は、日本人がイメージしがちな途上国の「不衛生なスラム街」のような状態ではなく、「教育や適切な職、栄養のアンバランスといった、より高度で内面的なクオリティの課題」へとシフトしていることが分かります。

なお多次元貧困に該当する世帯の割合は、北部の山岳地帯などで4.9%、南東部では0.1%と地域差があり、国全体では1.3%でした。2020年は国全体で4.8%もあったので大きく改善しています。

6. ジニ係数

最後に不平等を計測する指標としてジニ係数(0が完全な平等、1が完全な不平等)があります。2025年は、0.323と2024年0.372から低下しています。

こちらも地域差を見てみると興味深いことが分かります。

エリア・地域別のジニ係数詳細データ表

ここでも面白い逆説があり、一般的なイメージ(都市部は格差が大きく不平等で、田舎はみんな同じだから平等)とは真逆に、ベトナムでは一貫して「都市部(0.293)」の方がジニ係数が小さく平等であり、「田舎(0.321)」の方が格差が大きくて不平等であるという現実が、2020年から現在にいたるまで一貫して示されています。これは、経済成長の恩恵が都市部において非常に公平に行き渡っていることを表す、極めて興味深いデータです。

7. 筆者(石黒)が注目したポイント:全国平均という「錯覚」を捨て、精緻なローカルデータでターゲットを絞る重要性

今回の政府による最大級の発表データを見て私が最も強く感じたのは、これからのベトナムビジネスや内需を狙った参入を検討する上で、単に「ベトナムの全国平均」という大雑把なフィルターだけで国をジャッジすることの危うさと、地域・年齢・性別ごとの差異を立体的に見ていくことの重要性です。

日本でもよく「東京一極集中と地方の格差」が議論されますが、ベトナムもまた、1つの国でありながらエリアによって全く異なる顔を持っています。

例えば、平均月収が750万ドンに達し、日本ブランドへの信頼がブレずに最も高い南部(ホーチミン商圏)を攻めるのか、あるいは、PC保有率はまだ低いものの、今まさに世帯の「新規購入(初めての家電やサービス購入)」の波が他地域を圧倒する勢いで急増している中部(ダナン等の地方成長エリア)を狙うのか。はたまた、57%以上が日常的にSNSに浸り始めた「アクティブなデジタルシニア層(60歳以上)」にフォーカスした健康・ウェルネスサービスを開発するのか。

「ベトナムは成長しているからチャンスがある」という一歩引いたマクロのキーワードだけで飛び込むのではなく、「自社の製品やサービスの真のターゲットは、どの地域の、どの所得層の、どの年齢層なのか」。

国が総力を挙げて開示したこれら膨大な一次統計データを経営の羅針盤(エビデンス)とし、精緻なターゲット戦略を組み立てていくことこそが、これからの成熟するベトナム市場での成功確率を最大化させる唯一無二の鍵になる。

そんな、新興国マーケティングの次なる次元の面白さと戦略の重要性を、改めて深く確信させてくれる素晴らしい調査データでした。

実践型ビジネス出張ツアー「Ăng-Ten(アンテン)」

ベトナム拠点・IT開発センター設立の実践視察ツアー【Ăng-Ten】
現地プロ7社とのアポ調整・ホテル・移動がすべて完了。ベトナム出張が決まった新規事業担当者へ向けた、確かな判断材料を持ち帰るための超実践的ビジネスツアー。

「Ăng-Ten(アンテン、ベトナム語でアンテナを意味)」は、ベトナム最大の経済都市・ホーチミン市を実際に訪れ、現地で長年ビジネスを営む7名の専門家と直接つながる、2泊3日の密度の高いビジネス出張ツアーです。

💡 本ツアーで得られる3つの価値

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【開催スケジュール(2026年)】

  • 第4回目:8月19日(水)〜8月21日(金)
  • 第5回目:9月9日(水)〜9月11日(金)
  • 第6回目:10月14日(水)〜10月16日(金)

※オプションで航空券の手配や延泊(観光・ゴルフ等)のご相談も可能です。

急成長するベトナム市場への進出や、新規事業の拠点設立をミッションとして任された皆様。事前情報だけで判断するのではなく、ぜひ現地の最前線を自分の目で確かめに来てください。ホーチミンでお会いできることを楽しみにしています!

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