ベトナム医療DXの最新動向!国家アプリVNeIDと電子健康記録が作る未来(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/6/29)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく「石黒が選ぶベトナムのニュース紹介」、第42回目。
今回のテーマは、ベトナムの医療・ヘルスケア分野におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)
現在ベトナム政府が推し進めている国民ID管理アプリ「VNeID」を使って「全国民のデジタル健康管理計画」が始動したと報じられており、それについて紹介します。
2026年6月22日の Bao Dau tu の報道(原文はベトナム語)
「VNeIDを接続し、全人民のための電子健康記録を構築する」
1. 2030年までに構築!全国民の健康を生涯管理する国家システム
ベトナム保健省は、2026年から2035年までの「ヘルスケア・人口・開発に関する国家目標プログラム」(第1709/QD-BYT号)を承認しました(第1段階:2026年〜2030年)。
このプログラムにおいて、もっとも市場の注目を集めているマイルストーンが、「2030年までに、全国民に対して電子健康記録を作成し、生涯にわたる健康管理を行う」という極めて野心的な目標です。

具体的には、全スマートフォンの所有者が導入している国家身分証明書(デジタル身分証明)アプリである「VNeID」の中にある電子健康手帳機能と、中央の電子健康記録プラットフォーム内に保存された国民一人ひとりの電子健康記録とを紐づける形です。
これによりVNeIDアプリを使って常に電子健康記録や変化が確認できるようになります。
さらにインフラ面でも、2030年までに全国のすべての地域医療機関がこのプラットフォームに参加して、人々の健康状態をデジタルで記録していくと報じられています。またネットに接続したスマート医療機器も活用し、在宅医療を通じた健康状態のモニタリングとケアも行う予定です。
2. ニュースの背景にある「ベトナムのリアルな事情」
ベトナムの公立医療といえば、「病院で何時間も並び、大量の紙のカルテや書類を持ち歩く」という状況でしたが一気にDXが進むことになります。
その背景にあるのは、現在のベトナムが抱える3つのリアルな事情です。
2-1. 都市部と地方・過疎地における圧倒的な「医療格差」の解消
ベトナムは経済が急成長している一方で、高度な医療設備や優秀な医師の多くがハノイやホーチミンといった大都市圏に集中しています。
地方や山岳地帯、離島などの過疎地に暮らす人々は、専門的な治療を受けるために数十キロメートル以上も離れた都市部の病院まで移動しなければならず、これが経済的にも身体的にも大きな負担となっていました。

「スマホ一つで、いつでも都市部の医師と繋がれる遠隔医療」と「すべての医療機関で即座に同期される電子カルテ」の構築は、この慢性的な地域間格差をテクノロジーで一気に解決する手段となります。
2-2. 国家インフラ×民間企業による経済成長
この国家的な大号令に合わせ、ベトナムの民間大企業も医療DX市場へと参入しています。
その筆頭が、IT最大手FPTグループ傘下で、ベトナム最大級の薬局チェーンを展開する「FPT Long Châu(ロンチャウ)」の動きです。

彼らは保健省の計画と足並みを揃え、すでに自社のシステムを国家インフラである「VNeID」と連携させています。これにより医療履歴、処方箋や医薬品購入履歴と紐づくことになり、各個人の健康管理や新たな薬の購入、医療機関での受診にあたっては、診断にあたって役立つ情報となります。
そして今後は、他の薬局や民間の医療機関なども同様の動きをしていくと考えられます。
国がインフラ(プラットフォーム)を作ることで、民間がそれと連携したサービスを社会実装してDXが進み、結果、経済発展へと繋がる。それを見越して、今回のような政策を進めています。
2-3. 急速な高齢者増加
以前の記事「高齢者向け住宅プロジェクト発表から見えてくるものとは?(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/5/4)」でも取り上げたように、ベトナムの60歳以上の人口は、2024年時点で1,420万人ですが、わずか10年後の2034年には約2,090万人へと急増すると予測されています。
若者よりも高齢者のほうが医療サービスを使う機会が多いことから、各自の健康状態を効率的に管理確認できるようにして、医療費の削減や、医療インフラの有効活用に役立てようという意図があります。
3. 筆者(石黒)が注目したポイント:
ベトナムは社会主義国ということもあり、医療については(その経済発展度合いに対して)比較的整備されているものの、その質やサービスについては、先進国と比べて差が大きいという点や、農村や山岳地帯といった地方と都市部とで差が大きいことが問題点として指摘されていました。
そこで今回のVNeIDと紐づけた仕組みが広がることで、上記問題点の解消にもつながっていくものと考えられます。
そしてこの医療xIT「ヘルステック(HealthTech)」分野は、ベトナムで有望な市場ともいわれている分野です。2026年6月23日のVnEconomyでの報道によるとベトナムの医療情報技術市場は、2025年から2033年に年平均成長率13.06%で成長し、2033年には44億ドルに達すると予測されています。
そんなベトナムのヘルステックに参入する際に欠かせないインフラとなるのが、今回の国家IDアプリ「VNeID」になります。もちろん外資系企業である場合、実際問題としてどこまでVNeIDを活用できるのかという点はありますが、検討にあたっては欠かせない要素でしょう。
国が強力に推し進めるインフラをどう活用してビジネスへと繋げていくのか、そんなことを感じたニュースです。

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