市場に潜む影。急成長の裏で深刻化する「偽造医薬品・違法化粧品」問題とブランド防衛戦略(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/6/19)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく「石黒が選ぶベトナムのニュース紹介」、第36回目。
今回は、ベトナムの消費者の「健康」と「安全」を脅かしている「偽造医薬品・違法化粧品」の流通問題にスポットを当てます。
EC(電子商取引)やライブコマースが爆発的に普及し、市場が急速に豊かになる一方で、そのインフラを悪用した違法製品の流通が後を絶ちません。現地の最新の報道から、この問題の背景とビジネスへの影響を読み解いていきましょう。
2026年6月16日VietTimesの報道(原文はベトナム語)
偽造医薬品や違反化粧品が依然として市場に紛れ込んでいる
1. 依然として市場に蔓延る「偽造医薬品・違法化粧品」の生々しい現状
ベトナムの経済紙「VietTimes」の報道によると、保健省や市場管理総局などの関係当局による断続的な取り締まりが行われているにもかかわらず、偽造医薬品や偽造化粧品、品質基準を満たさない違法化粧品が、依然として巧妙な手口で市場に深く入り込んでいます。
2026年上半期だけでも、ベトナム医薬品管理局は全国に40の事後検査チームを派遣し、違反行為に対して総額55億ベトナムドン(約3,300万円)の罰金を科しました。

しかし、いくら取り締まりを行っても、次から次へと後を絶たないのが現状です。特に問題視されているのが、パッケージやホログラムシールまで本物そっくりに模倣された高額な治療薬や、海外の人気ブランドを騙った機能性化粧品(ドクターズコスメなど)です。
例えば、2026年4月15日、ホーチミン市警察は規制されていない成分を混ぜたり、さらにはパラセタモール(アセトアミノフェン、解熱鎮痛剤)を混入させたりした偽造漢方薬を製造する組織を摘発しました。
押収品には、完成した医薬品4,000箱以上、錠剤やカプセル約800kg、その他製造に使用される様々な機械や設備、印刷済みの包装材などが含まれていました。
犯人らは、マレーシアや香港といった外国産地を示す偽の情報を記載したパッケージやラベルを印刷し、製品の効能を謳う魅力的な広告文を掲載。伝統医学に対する人々の嗜好と、輸入品への高い信頼につけ込んで販売を行っていました。

また、2026年3月末には、同じくホーチミン市で自家製の美白クリームを「輸入化粧品」と偽って販売する密造工場を運営していた5人が起訴されています。

VietTimesの報道では、なぜ偽造医薬品や偽造化粧品の撲滅がここまで難しいのか、その理由として以下の3つの特徴を挙げています。
(1)比較的高価な商品であること
(2)サイズが小さく輸送が容易であること
(3)隠匿(隠すことが)しやすいこと
さらにベトナムは南北に細長い国土であるため、長い国境線を有しており密輸の取り締まりが構造的に難しく、近隣諸国からも偽造品が流入しやすい環境にあるという点も指摘されています。
これらの商品は、実店舗だけでなく、消費者が購入前に本物かどうかを判別しにくい「オンラインの世界」で広く、そして急速に拡散しています。
2. ニュースの背景にある「ベトナムのリアルな事情」:デジタルシフトの光と影
以前のブログでもご紹介した通り、現在のベトナムはShopeeやTikTok ShopなどのEC、そしてライブコマースが爆発的な熱気を見せています。誰もがスマホ一つで全国にモノを売れる時代になりましたが、残念ながらこの「販売ハードルの低下」と「物流の高速化」が、違法製品の流通を加速させる温床にもなっています。
例えば、先ほど挙げた偽造美白クリームの事件。犯人らはソーシャルメディアの力を最大限に悪用し、偽名のFacebookアカウントや、勝手に高そうな店名を名付けたTikTokアカウントを作成して、卸売販売の宣伝やライブ配信を行っていました。また関係者間の資金取引は、税務当局や市場規制当局の監視を逃れるため、すべて個人の銀行口座を通じて行われていたとのことです。

このようにオンライン販売では、売り手は偽の名前や使い捨てのアカウントを使い、倉庫の場所をカモフラージュしながら、SNSのライブ配信やECプラットフォームを通じて「海外からの直輸入」「数量限定の破格セール」といった魅力的な謳い文句で消費者を誘惑します。
ベトナムの消費者の間で「美容や健康、QOL(生活の質)への投資」というプレミアム化への意識が急激に高まっているからこそ、「より効果のあるものを、少しでも安く手に入れたい」という心理が裏目に出てしまい、巧妙に作られた偽物を掴まされてしまうという、市場の過渡期特有の「歪み」がここに現れています。
3. 筆者(石黒)が注目したポイント:中国の先進事例に学ぶ、ベトナムでの「ブランド防衛戦略」
今回のニュースを見て私が最も興味深いと思った点は、これからのベトナム市場において、企業は単に「良い製品を作って売る」だけでなく、「その製品が間違いなく本物(正規品)であるという安心感を、いかに消費者に証明するか」という点です。
当局も必死になって取り締まっていますが、先述したような背景もあり、偽造品を根絶するのは一筋縄ではいきません。
そこで、私たちが今後のベトナム市場で参考としたいのが、かつてベトナム以上に偽造品問題に悩まされ、それをテクノロジーで克服していった「中国の先進事例」です。ECプラットフォーム運営会社がAIを活用して偽造品を早期発見する取り組みはもちろんですが、ブランドを持つ個々の企業も非常にユニークな試みを行っています。
例えば、1本数万円から数十万円以上もする高級中国酒の「貴州茅台酒」は、偽造品と戦うため、ボトルのキャップ部分に独自のNFCチップを埋め込みました。工場出荷時に製造ライン、出荷日、流通ルートなどのデータをブロックチェーン上に記録したトレーサビリティシステムを構築したのです。

消費者は、専用スマホアプリを使ってボトルにスマホをかざすだけで、ブロックチェーンに刻まれた「本物の証明」を瞬時に確認できる仕組みです。また、「一度開封するとチップの回路が壊れる(Tag-Tamper技術)」ため、中身を偽物に入れ替えてボトルを再利用する悪質な手口(リフィリング)も完全に防止しています。
一方で、単価が安いために高価なNFCチップを埋め込むことができない食品や一般の化粧品などでは、「一物一碼(1品1コード)」と呼ばれる対策が非常に効果を発揮しています。
これは、商品パッケージの一点一点に、それぞれ異なる独自の暗号化されたURLが含まれるQRコードを印刷する手法です。消費者がスマホでスキャンすると、ブランドの公式認証ページに飛び、その商品の「全履歴(生産地、加工工場、税関の通過日など)」が表示されます。

興味深いポイントは、同じ商品であっても商品ごとにQRコードのデータが異なるため、アクセスした画面上で「そのQRコードが過去に何回スキャンされたか」のカウントが表示される点です。
これにより、もし偽造業者が本物のQRコードを1つだけコピーして1万個の偽物に貼り付けたとしても、2人目以降の消費者がスキャンした際には画面に「このコードはすでに〇月〇日にスキャンされています。偽物の可能性があります」と警告が出ます。この仕様により、コピーによる大量模倣を完全に行き詰まらせることに成功しました。
日本企業が今後ベトナムで自社製品を販売していくにあたって、単価の高い高級品であれば前者(NFCなどを組み込んだ専用容器)を利用し、一般的な価格帯の商品であれば後者(固有QRコードによる回数管理)を取り入れるといったアプローチは非常に現実的です。
「良いものを作れば売れる」という時代から、デジタルを駆使して「本物である信頼を担保する」時代へ。中国のタフな市場環境で磨かれた先進事例に学び、それをこれからのベトナム市場の開拓・ブランド防衛にあたって先んじて活用していく。そんな、一歩進んだハイテクなビジネス展開の可能性を感じさせてくれたニュースでした。

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