「役所への賄賂は10%の市民が必要と回答」!? 不都合な真実をあえて公表するベトナム政府の狙いとは(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/5/25)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく、石黒が選ぶベトナムのニュース紹介、第17回目。
皆さんは、ベトナムの公的機関や公務員に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか? 「手続きがなかなか進まない」「役所の窓口で手続きをスムーズにするために、非公式な費用(いわゆる賄賂やチップ)を要求されるのではないか」といった、イメージを思い浮かべる方が多いかもしれません。
実際に非政府組織であるTransparency Internationalが毎年調査して発表している、世界181の国または地域における「腐敗認識指数」の最新版(2025年版)によると、ベトナムは、スコア41で世界81位です。
18位の日本(スコア71)よりもだいぶ下となり、76位の中国(スコア41)よりも低かったりします。ただし109位のインドネシア(スコア31)、116位のタイ(スコア33)、120位のフィリピン(スコア32)よりは上位=クリーンと言えます。
ではベトナムの市民はどのくらいの割合で公務員へ賄賂を払わざる得ないと感じているのか?実はこの数字をベトナム政府(内務省)が市民のリアルな声を集めた市民満足度調査(SIPAS)で公表しているのでそれを紹介します。
2026年5月11日のDantriニュース(原文はベトナム語)
約90%の公務員が住民に嫌がらせや迷惑行為を行わなかった
1. 2025年にベトナムで「公務員から嫌がらせを受ける」「賄賂が必要」と答えた市民の割合
今回取り上げるのは、ベトナム内務省が公表した最新の「SIPAS 2025(行政サービスに対する市民・組織の満足度指数)」および「PAR INDEX 2025(行政改革指数)」のレポートに関するニュースです。この調査は、実際に役所で行政手続きを行った膨大な数の市民や企業を対象に、不満や不正がなかったかを国が直接吸い上げる非常に影響力の大きいものです。
そして興味深いのは、行政手続きを行った市民や組織のうち「公務員が嫌がらせや迷惑行為を行っている」「市民は公務員に仕事をしてもらうために非公式の賄賂を支払う必要がある」という回答者の割合も明記されていることです。
報道によると調査参加者の内
・嫌がらせや迷惑行為をする公務員はいない:89.09%
・一部の公務員が嫌がらせや迷惑行為を行っている:11.05%
・多くの公務員が嫌がらせや迷惑行為を行っている:0.96%
でした。そして市民は公務員に仕事をしてもらうために
・非公式の賄賂を支払う必要はない:89.49%
・賄賂を支払わなければならなかった:8.88%
という数字データも出ています。では2025年のこの数値は過去と比べて高いのでしょうか、それとも低いのでしょうか?
2. 過去10年分の推移でみる公務員の嫌がらせと賄賂要求の割合
こういったデータは、過去と比較しその推移を見ることで、より理解が進みます。
そこで今回、報道の一次ソースであるベトナムの内務省が運営する国家行政改革に関するウェブサイト内にあるベトナム語で書かれた「政府満足度レポートの過去10年分(2015~2025。2016のみ欠落)」の計10点を全てダウンロードして、それぞれ該当項目の数値データを見つけだし、その推移を調べてみました。
2-1.「公務員による嫌がらせや脅迫・迷惑行為がある」と回答した割合の推移
該当データがあった2017年から2021年までの調査では選択肢が細分化されておらず、単に「公務員から嫌がらせや脅迫・迷惑行為があった」という回答者の割合が載っていました。

2017年: 3.35%
2018年: 2.45%
2019年: 1.41%
2020年: 1.23%
2021年: 0.45%
と減少傾向です。
2022年から質問や回答方法が変わり「公務員の中には一部、嫌がらせや迷惑行為を行っている」「嫌がらせや迷惑行為を行う公務員は数多く存在する」と回答した市民の割合の推移は、以下の通りです。

2022年: 一部の公務員:12.28%、多くの公務員:1.33%、合計13.61%
2023年: 一部の公務員:9.97%、多くの公務員:1.15%、合計11.12%
2024年: 一部の公務員:8.98%、多くの公務員:0.96%、合計9.94%
2025年: 一部の公務員:11.05%、多くの公務員:0.96%、合計12.01%
質問が変わったので、2021年と2022年との間に連続性が無く一気に数値が上がっていますが、ここ4年ほどで見てみると2024年までの減少が反転して2025年は、増加に転じていることがわかります。
2-2.「公務員への非公式の賄賂がある」と回答した割合の推移
こちらも2017年から2021年までの調査では、単純に「公務員から規定外の金銭(追加料金)を要求された・支払う必要があった」と回答した割合として集計されています。

2017年: 1.85%
2018年: 1.42%
2019年: 0.47%
2020年: 0.59%
2021年: 0.14%
と同じ様に減少傾向でした。
そして2022年から質問や回答方法が変わり「一部の人が公務員へ規定外の金銭を支払う必要がある」および「多くの人が公務員へ規定外の金銭を支払う必要がある」と選択肢が細分化されました。それぞれの回答者の割合は以下の通りです。

2022年: 一部の市民:10.05%、多くの市民:1.77%、合計11.82%
2023年: 一部の市民:8.28%、多くの市民:1.73%、合計10.01%
2024年: 一部の市民:7.30%、多くの市民:1.60%、合計8.9%
2025年: 一部の市民:8.88%、多くの市民:1.63%、合計10.51%
となります。
つまり、ここ4年ほどで見ても約10%前後のベトナム市民が「公務員に仕事をしてもらうために何らかの賄賂が必要な場合がある」と認識しているという事になり、大きくは変わっていないとなります。
3. ニュースの背景にある「ベトナムのリアルな事情」
一方でベトナム政府としては、より清潔な状況に持っていこうとしており、それが最初にあげた腐敗認識指数でフィリピンやインドネシア、タイなどを上回る結果へと繋がっています。3つのポイントを紹介します。
3-1. 妥協なき国家のクリーン化運動「燃える薪(反汚職キャンペーン)」
ベトナムでは、国家トップであった故グエン・フー・チョン書記長が率いた「燃える薪(Đốt lò)」と呼ばれる大規模な反汚職運動が長年強力に推進されてきました。

ベトナム語ン報道より「燃える炉」キャンペーンとは、党指導部が開始した大規模な反腐敗キャンペーンであり、当初の目的は腐敗や不正行為を防止・撲滅し、党内の組織を浄化することであった」
これは大企業のトップや政治家といった「大物」だけでなく、市民の生活に直結する窓口公務員の「小規模な汚職(末端での袖の下要求)」に対しても徹底的な取り締まりが行われました。
それによって全て解消したわけではないものの、ある程度、清潔になってきたと言えます。
3-2. 窓口を介さない「行政の完全デジタル化(VNeIDとオンライン申請)」
心理的な抑止力だけでなく、物理的に「賄賂を渡せない仕組み」が作られたことも大きな要因と考えられます。
現在のベトナムでは、パスポートの申請、住民票の手続き、各種企業の許認可の多くが、スマホアプリ(VNeID)や政府のオンラインポータルを通じて完結するようになってきています。

「人間(公務員)の窓口を通さない=袖の下を要求する機会そのものがシステム的に消滅する」というアプローチが、非公式コストの削減に決定的な役割を果たしています。
3-3. 市民の意識向上と「スマホ(SNS)による監視」
かつてのベトナム市民は「役所の言うことは絶対」「早く済むならチップを払うのが合理的」と諦めていましたが、経済成長とともに若者を中心に「正当な行政サービスを透明に受ける権利」の意識が非常に高まりました。
もし窓口で不当な引き延ばしや嫌がらせを受ければ、その場でスマホで録音・録画され、SNSや政府の告発窓口に通報されるリスクがあるため、公務員側が市民の目を極めて恐れるようになっています。
4. 筆者(石黒)が注目したポイント
今回このニュースで興味深いのは、ベトナム政府(内務省)自らが、こういった都合の悪い数値データさえも公表しているという点です。
一般的に考えるなら「公務員による嫌がらせや脅迫・迷惑行為を感じている市民の割合」や「市民のうちどのくらいが公務員へ賄賂を払わないとならないと感じているのか」といった都合の悪いデータは、あえて集計したり公表しなくても良いものですが、そういった不都合な事実さえも表に出している。
前回のニュース(地方競争力指数:PCI 2.0)でも見たように、現在のベトナムは行政の透明性を徹底的に「数値化」して地方自治体同士を競争させ、国を挙げて不透明なコストを根絶しようとしています。
もちろん腐敗認識指数にある様に、先進国と比較したらまだ腐敗している方に該当してしまいますが、それを是正しようとしている姿勢や取り組みについては、認識していくべきポイントだと考えています。
この心強い変化は、日本企業がべトナムへのビジネス進出先(投資先)を考えるうえで、大きな追い風になるのではないかと感じさせるニュースです。
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