好調な水産物輸出と漁業現場においても進むデジタル化、その背景にあるものとは?(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/5/20)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく、石黒が選ぶベトナムのニュース紹介、第14回目。
皆さんは「ベトナムの輸出産業」と聞くと、どのようなものを思い浮かべるでしょうか? スマートフォンや衣類などの製造業をイメージする方が多いと思いますが、実は「水産物」もベトナム経済を支える柱の1つとなりつつあります。
今回は、そんなベトナムにおける水産物輸出の動向と、その裏側で現在猛スピードで進められている「漁業のデジタル化(DX)」に関するニュースをご紹介します。
2026年5月18日のBao Tin Tucニュース(原文はベトナム語)
2026年の海産物輸出は、大きな成長の可能性を秘めている。
2026年5月12日のVOV Giao Thongニュース(原文はベトナム語)
ラムドン省の漁師たちは、港での手続きをデジタル化している。
1. 絶好調な水産物輸出と、立ちはだかる「IUU」の壁
1つ目の記事は、ベトナム水産物輸出加工協会(VASEP)が発表した2026年序盤の輸出実績に関するものです。 報道によると、2026年1〜4月の水産物輸出額は約37億ドル(約5,550億円)に達し、前年同期比で15%近くも増加しました。
エビ類(約10億ドル超、水産物の輸出総額の40%以上)やパンガシウス(約5億1400万ドルで16.8%増加)が主力であり、イカ、タコ、貝類、カニ、ロブスターなども好調な伸びを示しました

輸出先では、中国・香港向けが49%増と爆発的に成長しており、ロブスター、カニなどの生鮮品や高級品の分野で顕著な伸びであったとのことです。
2026年に8~10%の成長目標を達成して輸出額を120億米ドル超とするなどしていますが、達成の可能性は十分に高いとのことです。
しかし、この明るいニュースの裏で、ベトナム水産業界は「IUU(違法・無報告・無規制な漁業)」という極めて深刻な問題に直面しています。 実はベトナムは2017年、欧州委員会(EC)からIUU漁業に対する「イエローカード(警告)」を突きつけられています。
これが「レッドカード」に格下げされると、EUへの水産物輸出が全面的に禁止されるという致命的な事態になります。そのためベトナム政府は、このイエローカードの解除を国家の最重要課題の一つとして位置づけ、漁業管理の厳格化を急務としています。
2. ニュースの背景にある「ベトナムのリアルな事情」
このIUU問題を解決するために導入されたのが、2つ目の記事で報じられている「漁業現場のデジタル化」です。報道されている具体的な変化を3つ紹介します。
2-1. スマホアプリ「電子操業日誌(e-Logbook)」の導入
かつて、ベトナムの漁師たちは「どこで、いつ、何を獲ったか」を紙のノート(操業日誌)に手書きしていました。しかし現在、沿岸部の港(ファンティエットやラジなど)では、漁船の船長に対しスマートフォンのアプリを通じた「電子操業日誌(e-Logbook)」の入力が義務付けられつつあります。

音声入力も可能で、港に戻る前に獲った魚のデータを送信することで、水産物の「出どころ」を透明化しています。
2-2. 国家データベース「VNFishbase」とマイナンバー連携
さらに驚くべきは、このシステムが国家規模で統合されている点です。記事によると、数千隻の漁船のデータが「VNFishbase(ベトナム国家漁業データベース)」に登録され、さらにそれが船長・船員の「VNeID(国民ID・マイナンバーアプリ)」と紐づけられています。

誰が、どの船で、どの海域で漁をしたかが国家レベルでリアルタイムに追跡・照合できる仕組みが構築されつつあるといえます。
2-3. VMS(船舶モニタリングシステム)による24時間監視
これに加えて、一定サイズ以上の漁船にはVMS(船舶モニタリングシステム)の設置が義務付けられています。

もし漁船が他国の海域に侵入したり、VMSの電源を切ったりすると、即座に国境警備隊のアラートが鳴り、港への入港や水産物の荷揚げが禁止されるという厳しい措置が取られているとあります。
3. 筆者(石黒)が注目したポイント
このニュースから見えてくるのは、一次産業である漁業、一見デジタル化と遠い分野においても急速にデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいるベトナムの状況です。
IUUのイエローカード解除を目指すベトナム政府の強い意志は、そのまま「追跡システムや品質管理インフラへの巨額の投資」を実現しています。
また水産物においてもトレーサビリティを実現することで、出所を気にする国外の消費者のニーズに応えることができ、より高い価格での販売へと繋げようとしています。

昔ながらの木造船に乗る漁師がスマホアプリと国民IDデータベースを駆使して欧米向けの輸出基準を守ろうとしている、労働集約型だったベトナムの一次産業においても一気にデジタル・データ駆動型へと進化しようとしている。
こういった状況の変化は、まだ注目されていないベトナムの産業においても様々なビジネスチャンスが眠っているのでは・・・と感じさせる、そんなニュースだと思いました。
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