銀行の不良債権が急増!3ヶ月で11%=28兆ドン(1692億円)増加から見えてくること(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/5/19)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく、石黒が選ぶベトナムのニュース紹介、第13回目。
皆さんは「ベトナムの銀行」と聞くと、どのようなイメージをお持ちでしょうか?
「高い経済成長を受けてこれからどんどん大きくなっていく」もしくは、「新興国であるがゆえに日本の銀行と比べると安全性に不安がある」といった考えの人とも多いでしょう。
では実際のところはどうなのか?ちょうどベトナムの銀行における不良債権の報道があったのでそれについて紹介します。
2026年5月18日のCafefニュース(原文はベトナム語)
多くの銀行で不良債権が急増:2つの銀行で不良債権残高が40兆ドン(約2,411億円)を突破
1. 銀行セクターを覆う「不良債権(NPL)急増」の波
今回取り上げるのは、ベトナムの銀行業界で急速に増加している「不良債権(NPL:Non-Performing Loan)」に関するニュースです。
報道によると、ベトナムで上場している銀行27行の財務報告において、2026年3月31日時点の不良債権総額は292兆1600億ベトナムドン(約1.76兆円)に達し、2025年末と比較して28兆650億ベトナムドン(1,692億円)増加、すなわち3ヶ月で11%の増加となったとのことです。
問題は、多くの商業銀行で不良債権が大幅に増加していることで、不良債権が減ったというのは27銀行中のわずか3銀行(VietinBank、NamABank、ABBank)でした。

不良債権の絶対額が一番大きいのは、国が大株主の四大銀行の1つBIDV銀行ですが、中堅・中小規模の銀行の中には、前期比で不良債権が64%〜68%も急増したところ(BacA BankやPGBankなど)もあります。
さらに衝撃的なのは、2つの大手銀行(BIDVとSacombank)において、不良債権の残高がそれぞれ40兆ドン(約2,411億円)を突破し、不良債権増加額もBIDVが7兆6,780億ドン(約463億円)増えた点です。

一部の銀行(VietinBankやNamABankなど)は不良債権を減少させているものの、業界全体としては明らかに「不良債権の処理」が急務となっています。ベトナム国家銀行(SBV)はシステム全体の安全性を維持するために不良債権比率を厳しく監視していますが、金額ベースで見ると、これまでにない規模で不良債権が積み上がっていることが分かります。
2. ニュースの背景にある「ベトナムのリアルな事情」
なぜ今、ベトナムの銀行でこれほどまでに不良債権が急増しているのでしょうか?現地にいるからこそ肌で感じる、3つの事実を紹介します。
2-1. 不動産市場の冷え込みと「担保の塩漬け」
ベトナムの銀行融資において、最も一般的な担保は「不動産」です。しかし、3~4年前の政府による社債市場の規制強化や許認可の遅れにより、ベトナムの不動産市場(不動産デベロッパー)は、深刻な資金繰り悪化と冷え込みを経験しました。

開発がストップした巨大プロジェクトや、売れ残った物件を抱える不動産デベロッパーが返済不能に陥り、それがそのまま銀行の不良債権として跳ね返ってきているのです。
2-2. 過去のコロナ禍時の「返済猶予措置」の期限切れ
ベトナム中央銀行は、コロナ禍やその後の経済減速に苦しむ企業を救済するため、債務の返済期限を延長し、不良債権としての分類を免除する特別措置(通達02号など)を実施していました。
しかし、これらの「猶予期間」が次々と期限を迎え、これまで隠れていた「実質的な不良債権」が、ついにバランスシート上に表面化し始めたという背景があります。
2-3. 企業の業績回復の遅れ
ベトナム経済全体で見ると一見、2025年は8.02%成長、2026年の世界銀行予想は6.8%と高成長であり、ベトナムの株式指数も過去最高値圏(VNindexで1,921)と一見好調ですが、輸出主導型の製造業や一部のサービス業において、世界的な需要の波やコスト高、最近のイランでの戦争や資源価格高騰の影響を受け、業績の回復が遅れている企業が少なくありません。

また個人向けの消費者金融やクレジットカードのローンを含め、インフレによる生活コスト上昇が返済能力を圧迫していることも、不良債権増加の一因となっていると言われています。
3. 筆者(石黒)が注目したポイント
今回このニュースを取り上げたのは、この不良債権の増加だけを見て、ベトナムの銀行がやばいとか、ベトナムで金融危機が迫っているとか、そういうことを言いたいのではありません。
私は、逆に不良債権が存在しても表に出てこない状態の方が怖いと考えており、こうやって表に出てきている状態は、少しでも健全に近づいている状態でもあると考えています。
またベトナムでは過去、多額の不良債権を抱えた銀行を国の特別管理下(事実上の国有化)におき、一定期間を経た後、他の銀行と合併させています。

例えば、GPBankはVPBankへ、DongABankはHDBankへ、CBBankはVietcombankへ、OceanBankは、MilitaryBank(MB Bank)へといった事例があります。また経済事件のあったSaigon Commercial Bankも政府の管理下に置かれており、今後同様の道をたどるでしょう。
こういった措置によって預金は守られており、今後も銀行を潰して社会不安やそれが波及して政府への抗議行動を招くような事態、例えばペイオフなどは、行わないとも考えられます。
そして今後もおそらく高い経済成長が続くという前提であるうちは、銀行自体の収益や担保価値の上昇により、一時的に不良債権が増加することがあっても、よほどのことが無い限りは、金融機関の収益の中で吸収(償却)可能と考えられます。

しかし本当に懸念すべきは、こういった高成長が続けられなくなったときです。かつて日本でも高い成長が続いているうちは、悪化した金融機関があっても他行と合併させるなどして金融システム不安を防いでいました。(例えば、80年代中盤の平和相互銀行を住友銀行に吸収合併させたケースなど)
しかし経済全体がそれまでの様に成長しなくなり、不良債権償却の前提であった担保資産価値が時間とともに増加する状況が変わった時、過去の様に処理することができなくなり、バブル崩壊後の金融危機(90年代末から2000年代初頭)と呼ばれる状態を招くことになります。
ベトナムでもその人口動態(人口ボーナス)などを考えれば、永遠にこの高成長を続けられるわけではありません。
本当に懸念すべきは、「成長が鈍化し、資産価値が右肩上がりでなくなった時(=いつか来る時)」です。その「いつか来る時」までに、不良債権を迅速に明らかにして処理できる健全な金融システムを構築できるのか?
今回の報道は、そんなことを強く感じさせるニュースだと考えています。
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