バイク大国で進む「デジタルマップ依存」とその背景とは?(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/5/14)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく、石黒が選ぶベトナムのニュース紹介、第10回目。
皆さんは「ベトナムの交通事情」と聞くと、どのような光景を思い浮かべるでしょうか?「道路を埋め尽くす無数のバイク」「クラクションが鳴り響く混沌とした交差点」といったイメージを持つ方が多いかもしれません。
そんなバイク社会のおいて現在、彼らの運転スタイルには劇的な変化が起きています。それは「スマートフォンのナビゲーション(デジタルマップ)への強い依存」です。今回は、最新の調査データから見えてくる、ベトナム特有のモビリティ事情と新たなビジネスチャンスについて紹介します。
2026年5月12日のBao Tin Tucニュース(原文はベトナム語)
ベトナム人はバイクに乗る際、ますますデジタルマップに依存するようになっている
1. 日本を大きく上回るベトナムのバイクでの「ナビ活用度」と満足度
この報道の裏付けとなるのが、位置情報技術の世界的企業であるHERE Technologies社が2026年5月11日に発表した、APAC(アジア太平洋地域)の二輪車事情に関する調査レポート「Inside the Two-Wheeler Landscape in APAC」です 。
この調査結果によると、ベトナムのバイクライダーの実に50%が「頻繁に、または常にナビゲーションを使用している」と回答しています 。また、ナビゲーションに対する平均満足度は10点満点中7.95点と高く、39%が「非常に満足」と答えています 。

面白いのは日本との比較です。日本のバイクライダーのナビ使用率は30%にとどまり 、満足度はAPAC地域で最低の6.38点(非常に満足はわずか8%)でした 。
日本のバイクライダーは、整備された道路網や(自動車などでの)精度の高いカーナビ利用経験という環境下で、精度や予測可能性に対して非常に厳格な基準を持っており、ナビの間違いなどに不満を抱きやすい傾向にあります 。
一方でベトナムのバイクライダーにとって、未整備も含めた複雑な道路網をスムーズに移動し、日々の生活や仕事を管理するために使い、安価に使えることが求められる常用品として深く根付いているため、多少の間違いなどであれば許容する、そんな違いが見て取れます。
2. ニュースの背景にある「ベトナムのリアルな事情」
なぜ、ベトナムでここまでデジタルマップが重宝されているのでしょうか。現地にいるからこそ肌で感じる、他国とは異なる3つのポイントを紹介します。
2-1. 迷路のような路地(ヘム)と複雑な住所
ベトナムの都市部は世界で最も混雑している地域の一つともいわれています 。その象徴が、大通りから一歩入ると現れる「ヘム(Hẻm)」と呼ばれる迷路のような細い路地網の広がりです。

配達員(ギグワーカー)にとって、建物の入り口を見つけることの難しさや、不適切なルート案内による遅延は最大の課題として挙げられています 。
そのため、ルート最適化機能(62%が最も価値ある機能と回答)や、音声ナビゲーション機能(60%)が非常に重視されています 。
2-2. 危険と隣り合わせの交通環境
ベトナムの道路事情は、場所にもよりますが決して良好とは言えません。調査でも、ライダーの67%が「突然のポットホール(道路の穴)や路面の破損」に不安を感じており、66%が「大型トラックやバス」を重大なリスクと認識しています 。

激しい雨や冠水といった急激な道路状況の変化に直面することも多いため、天候やハザード情報の更新を重視するライダーも43%に上ります 。
彼らにとってナビは、危険を回避し安全を確保するための命綱でもあるといえます 。
2-3. ギグエコノミーとEV化の波
ベトナムではGrabなどに代表される配車・デリバリーワーカーが社会インフラとなっています。
同じニュース記事でも、「ベトナムのバイクドライバーの32%が収入源としてバイクを利用しており、これはアジア太平洋地域平均の2倍に相当する」とありました。

配達員にとって、不正確な到着予想時間(ETA)や質の悪いルート案内は、収入の減少や顧客からのクレームに直結します。
また調査対象者の31%がすでに電動バイク(EV)や電動スクーターを所有しているという驚きのデータがあり、今後、航続距離を意識したルート案内や充電スポットへの誘導、充電互換性の確認機能がますます求められるようになっています 。
3. 筆者(石黒)が注目したポイント
このニュースと調査データから見えてくるのは、「高度なモビリティ・サービス(MaaS)」や「次世代の地図・ナビゲーションビジネス」におけるベトナム市場のポテンシャルです。
日本のように道路標識や区画が整っている国とは異なり、ベトナムは「混沌とした環境とインフラの未整備を、テクノロジーでいかに乗り切るか」という切実な実用性が求められています。
そういった動きの中で出てきているのが、今回のニュース記事でも取り上げられていた用途別の複数アプリ利用です。ニュースでは、
「多くの配車サービス運転手は、ルートを比較するために複数の地図アプリを同時に使用する傾向がある。Googleマップは場所やレストランを探すのによく使われる一方、Vietmapのような地域密着型のアプリは、より正確な速度制限警告や交通カメラ情報を提供している。」
とあり、ベトナム人がベトナム人のために開発した画期的なソリューションといわれる「Vietmap」というアプリの利用についても紹介されています。

地図アプリといえば、新興国では無料のGoogleでというイメージの方も多いですが、こういった現地事情に合わせた独自の有料サービスも登場している点が興味深いです。
そしてVietmapは、これらで培った技術をもとに
2025/9/12 ベトナムの電気自動車大手のVINFASTと提携
2026/3/10 アメリカのフォードとも提携
といった形でビジネスを広げています。
例えば今後、以下の様な点においてもベトナムでのニーズは、より高まると考えられます。
◆超高精度な地図データとAIルーティング:
細い路地(ヘム)や建物の正確な入り口まで網羅したデータ構築や 、二輪車専用の抜け道や渋滞回避を提案するアルゴリズムの開発 。
◆リアルタイムの危険予測システム:
冠水情報、道路の陥没、大型車両の通行情報などをリアルタイムで通知し、安全なルートを再計算する支援サービス 。
◆EV向けインフラ統合サービス:
急速に普及する電動バイク向けに、充電スタンドの空き状況やバッテリー残量を考慮したナビゲーションシステムの構築 。
「道路インフラの未整備」を「デジタルの力」でカエル跳び(リープフロッグ)のように飛び越えようとしているベトナム。
日本の高度な測位技術やデータ処理ノウハウを、この熱気あふれる市場に掛け合わせることで、東南アジア全域に展開できる新たなモビリティビジネスが生まれるのではないかと感じさせるニュースでした。
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現地の「今」を肌で捉え、確実な事業戦略を描くために
今回ご紹介した内容だけでなく、ベトナム市場にはインターネット上の情報だけでは見えてこない「リアルなビジネスチャンス」と「新興国特有の落とし穴」が無数に存在します。
自社の技術やサービスをベトナムでどう展開すべきか?開発拠点や販売拠点を設立するには何から着手すべきか?
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