観光客数と観光収入の「大きなギャップ」から見えてくるものとは?(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/5/7)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく、石黒が選ぶベトナムのニュース紹介、第5回目。
皆さんは、ゴールデンウィークをどのように過ごしましたか?
実は、ベトナムでも日本より短い連休が、毎年4月末と5月初頭にあります。それがベトナム戦争の終結(サイゴン陥落)にちなんだ「南部解放記念日(4/30)」と「メーデー(5/1)」そして両日に続く土日をいれた4連休。
さらに今年は、毎年日が変わる「フンヴオン王の記念日(建国祖先の命日)」が4/27(月)であったこともあり、間に2日間の平日があったものの、もし休みを取ることができる人であれば、日本の様な長期連休となりました。
この期間、ベトナム中の観光地は大変な賑わいを見せましたが、今年の連休の「観光データ」を読み解くと、ベトナム市場における消費の二極化という、新しいビジネスのヒントとなる大変興味深い事実が見えてきます。今回は、そんなベトナムの観光動向に関するニュースを紹介します。
2026/5/4のLao Dong(労働)ニュース (原文はベトナム語)
インフォグラフィック:2つの休暇期間中に観光収入が最も高かった上位10の州と都市。
1. 「一番人が集まる場所」が「一番儲かる場所」ではない?
今回のニュースは、2026年の大型連休における各都市の「観光客数」と「観光収入」のランキング結果を報じたものです。
記事によると、連休中の全国の観光客数は約1,200万人に達し、前年同期比で14.2%増加しました。しかし、ここで非常に面白い逆転現象が起きています。
全国で「最も多くの観光客(約237万人)」を集めたのは、世界遺産チャンアンなどで有名な北部のニンビン省でした。しかし、ニンビン省の観光収入は約3兆5,690億ドン(約210億円)にとどまりました。

一方で、「最も高い観光収入(約8兆7,000億ドン=約520億円)」を叩き出したのは、観光客数では約169万人のホーチミン市でした。さらに、リゾート地であるダナン市は、約146万人の観光客で約5兆7,270億ドン(約340億円)もの収入を得ています。
つまり、「人をたくさん集めた地域」よりも、「客数は少なくても、一人当たりの消費額(客単価)が圧倒的に高い地域」が、観光ビジネスとしてより大きな成功を収めているという結果がデータとして明確に表れたのです。

記事内の表より。左が都市や地域名、その隣の青い表記が観光収入。(8.700tiとは、8兆7,000億ドンという意味)。オレンジの表記が来訪観光客の内、外国人の割合(TP.HCM=ホーチミンは11%)、一番右が観光客数で、1,69は、169万人を意味する。
2. ニュースの背景にある「ベトナムのリアルな事情」
なぜ、ここまで観光客数と観光収入に大きなギャップが生まれたのでしょうか。
2-1. 外国人観光客(インバウンド)の圧倒的な消費力
ホーチミンやハノイ、特にダナンが高い観光収入を上げた最大の理由は、「外国人観光客」の多さです。ダナンに至っては、観光客全体の約43%(約62万人)が外国人でした。
彼らは、比較的高級なホテルに滞在し、比較的高価なレストランで食事をし、エンターテインメントにお金を落とします。航空便(直行便)の拡充により、こうした「高単価なインバウンド客」をうまく取り込めた都市が観光収入を向上させました。
2-2. 国内客に広がる「マイクロ・ホリデー(近場・短期間)」トレンド
一方で観光客数で237万人と最大であったニンビン省や、避暑地であるサパ(ラオカイ省)、ダラット(ラムドン省)などは、自然や景観を楽しむ目的の国内客が大半を占めました。
最近のベトナムの若者や家族連れの間では、物価高や混雑を避けるために、あえて近場で短期間の旅行(マイクロ・ホリデー)を安価に楽しむというトレンドが広がっています。
そのため、人数は多くても一人当たりの宿泊費や飲食費が伸びず、それが観光客数の割に観光収入がそこまで伸びなかった理由とも考えられます。
2-3. 「割引キャンペーン」のジレンマ
また、記事でも触れられていますが多くの地方自治体や企業が国内客を誘致するために、最大40%オフなどの大規模な割引キャンペーンや格安のコンボツアーを打ち出しました。
これにより客数は劇的に伸びたものの、結果として「客単価の下落」を招き、利益率を圧迫するという薄利多売のジレンマに陥っている側面もあります。
3. 筆者(石黒)が注目したポイント
こういうデータは、記事だけにとどまらず過去データと比較してみることでより深い実情が見えてきます。
そこで2年前の2024年のGW連休、1年前の2025年のGW連休のデータを見つけ出しました。

これに記載された内容を元に3年間連続でトップ10に入っている地域だけを抜き出し、観光収入を観光客数で割り算して1人当たりの観光支出(単位はベトナムドン)を算出し2024年比での1人当たり観光支出の伸び、及び観光客数の伸びを出したのが、下記データです。

上記表から観光客数自体は、ダナンが4倍超へと大きく伸びていますが、1人当たりの支出は減っています。支出が高いはずの外国人客が約43%も占めていたはずなのに、1人当たりの支出が減っているという事は、観光客には支出が少ない観光客がかなりいたことを意味しています。
一方で注目すべきはホーチミン(TP.HCM)です。観光客も1.7倍に増えていますし、1人当たりの観光支出が1.5倍にもなっています。実はホーチミンでもその期間中、様々な割引キャンペーンなどを実施していたのにもかかわらずです。
この背景を調べてみると、宿泊、グルメ、ヘルスケア、体験を組み合わせた「付加価値の高いコンボが推進されていたことが分かります。
ホーチミン市では、4月30日から5月1日までの連休期間中、多くの観光振興プログラムが実施される。(ベトナム語の報道)
ホーチミン市:4月30日から5月1日の連休には、魅力的な旅行プログラムが多数用意されています。(英語の報道)
観光客誘致の効果を高め、持続可能な観光を発展させるため、ビーチ観光と文化観光、祭り、グルメ、スポーツ、体験型観光を結びつけることに重点を置いた、多様な観光プログラムとモデルを展開している。中でも注目すべきは、従来の海水浴にとどまらず、景観、史跡、観光空間の価値を活用することを目的とした、試験的な体験型ツアー「光の旅」である。同時に、「海と都市」「漁師文化」「ナイトライフと健康」といった商品群を効果的に活用することに注力し、史跡、祭り、沿岸文化空間のシステムを推進
といった取り組みが紹介されています。
他にもサイゴン川でのディナークルーズ、芸術鑑賞、花火観賞や、ごく一部ではありますがヘリコプターによる空からの観光なども実施されていました。こういった点が、観光客の滞在時間の延長と消費額の増加に貢献したとあります。
また同じ連休期間中に、大規模なMICE(会議、報奨研修、国際会議、展示会などの企業系イベント)の団体客を再び呼び込むことにも成功したとあります。実際に連休中、890人のインドネシアからの観光団を受け入れたという報道もありました。

これらのニュースから見えてくるのは、今後のベトナム市場でビジネスを展開する上で不可欠な「量から質への転換(ターゲットの明確化)」という教訓です。
人口が1億人を突破し、中間層が拡大し続けているベトナムですが、もはや「人が多いから、安くすれば売れる(薄利多売)」という単純な市場ではありません。消費者のニーズは多様化し、「安く賢く済ませたい層」と「素晴らしい体験になら糸目をつけずにお金を払う層(外国人客+地元の富裕層)」に明確に分かれ始めています。
これは日本でもよく言われている消費の2極化、このビジネス経験をベトナムでも活用できることを意味しているのではないでしょうか。
「数を追うビジネス」から「質と体験を提供するビジネス」へ。 今回の観光収入のギャップは、ベトナム市場が次のステージへと移行しつつあることを如実に物語っています。
日本の企業も、自社の持つ「高品質なサービスや体験」を、ベトナムのどの層に、どうやって届けるべきか。そんな戦略を練る上で、非常に示唆に富むニュースだと感じました。
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現地の「今」を肌で捉え、確実な事業戦略を描くために
今回ご紹介した内容だけでなく、ベトナム市場にはインターネット上の情報だけでは見えてこない「リアルなビジネスチャンス」と「新興国特有の落とし穴」が無数に存在します。
自社の技術やサービスをベトナムでどう展開すべきか?開発拠点や販売拠点を設立するには何から着手すべきか?
そうした課題を解決し、ベトナム出張を「確かな成果(実践プラン)」へと繋げるための特別なプログラムが開催されます。

「Ăng-Ten(アンテン、ベトナム語でアンテナを意味)」は、ベトナム最大の経済都市・ホーチミン市を実際に訪れ、現地で長年ビジネスを営む7名の専門家と直接つながる、2泊3日の密度の高いビジネス出張ツアーです。
💡 本ツアーで得られる3つの価値
- 誰に会うべきかが見える:法務(弁護士)・採用・金融(銀行)・BtoB営業・不動産など、現地で接点を持つべきスペシャリストと直接議論ができます。※弊社バイタリフィ アジアのDirector 石黒も、オフショア開発の専門家(講師)として本ツアーに登壇いたします!
- 何から着手すべきかが整理される:すべて日本語での実践講義を通じて、拠点設立に必要な実務の順番と、見落としやすい注意点(成功例・失敗例)をまとめて持ち帰れます。
- 帰国後の相談先(人脈)が確保できる:質疑応答や後日の個別面談を通じて、自社の悩みを直接ぶつけることができ、帰国後すぐに動ける体制が整います。
【開催スケジュール(2026年)】
- 第1回目:5月27日(水)〜5月29日(金)
- 第2回目:6月17日(水)〜6月19日(金)
- 第3回目:7月15日(水)〜7月17日(金)
※オプションで航空券の手配や延泊(観光・ゴルフ等)のご相談も可能です。
急成長するベトナム市場への進出や、新規事業の拠点設立をミッションとして任された皆様。事前情報だけで判断するのではなく、ぜひ現地の最前線を自分の目で確かめに来てください。ホーチミンでお会いできることを楽しみにしています!
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