1キロ300円が売れ残り3000円だと即完売?ドリアン市場の二極化から見えるものとは?(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/5/13)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく、石黒が選ぶベトナムのニュース紹介、第9回目。
日本の皆さんは「ベトナムのフルーツ」と聞くと、何を思い浮かべますか?
マンゴーやパパイヤなど、南国のフルーツが市場で山積みになって、安く味わえるといったイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。
そんなベトナムのフルーツ市場において、「フルーツの王様」と呼ばれるドリアンでは、これまでの常識を覆すような価格の二極化と、最新テクノロジーの導入が進んでいます。今回は、ベトナムの農業と消費者の劇的な変化を象徴するニュースを紹介します。
2026年5月9日のCafefニュース(原文はベトナム語)
1キロ5万ドンのドリアンは売れ行きが芳しくなく、1キロ50万ドンの品種は完売している
1. 安いドリアンが売れ残り、10倍の価格の高級品が即完売する異常事態
今回取り上げるのは、ベトナムのドリアン。強烈な臭いがある一方で、その甘さや味わいなどから多くのファンがいるフルーツです。

報道によると、現在ホーチミン市の路上や市場では、一般的な品種(Ri6など)のドリアンが1キロあたり約4万5,000〜6万ドン(約270〜360円)という過去最低レベルにまで値下がりしています。それでも客足は鈍く、以前よりも販売完了までに時間がかかる状況です。
さらに低価格であっても、販売業者は「満足保証」まで求められていると報じられています。例えば、顧客がドリアンを切って味が悪かった場合、交換したり、何らかの対応をしたりする必要がある・・・そういった条件付きで売らざるを得ないとのことです。

高級ドリアンMusangKing販売店より。調査時点で価格146万ドン(約8760円)
しかしその一方で、専門店で扱われている「ムサンキング(MusangKing)」や「ブラックソーン(Blackthorn)」といった高級品種は、皮付きの丸ごとで1キロ40万〜50万ドン(約2,400〜3,000円)、皮をとった果肉だけなら1キロ160万〜180万ドン(約1万円以上)という、一般品種の約10倍の価格であるにもかかわらず、連日「即完売」するほどの人気を集めているとあります。
単に安いフルーツを求めるのではなく、「安全で、確実に美味しく、特別な体験(贈答用など)ができるもの」に対しては、一切糸目をつけずにお金を支払っている、そんな消費者もベトナムにはいる様子が伺えます。
2. ニュースの背景にある「ベトナムのリアルな事情」
なぜ、フルーツ市場でここまで極端な現象が起きているのでしょうか?現地にいるからこそ見えてくる3つの事実を紹介します。
2-1. 消費者の「食の安全」に対する強烈な意識の変化
かつてのベトナムでは「質より量(安さ)」がほとんどでした。
しかし近年、残留農薬や、早く熟れさせるための違法な化学物質の使用などが社会問題化しています。その結果、中間層から富裕層にかけて「出どころの分からない安いフルーツは買わない」という意識を持つ人たちや、それを可能とする所得水準の人々も増えました。

ブランドがあり、美味しいことが保証され(or 美味しいと話題となっており)、品質も保証されている商品なら絶対に欲しい・・・そういう「食体験」にはお金を払いたい・・・という行動変容が起きています。
そしてそれを実現する技術の導入も進んでいます。
2-2. 7月1日から義務化される「トレーサビリティ(追跡)システム」
ベトナム農業農村開発省は、2026年7月1日からドリアン業界において「トレーサビリティ(生産履歴の追跡)システム」を正式に導入します。
2026年5月12日のCafefニュース(原文はベトナム語)
ドリアンのトレーサビリティ(生産履歴の追跡)不可避のステップ
これは、生産地(農園)から収穫、加工、輸送、そして消費者の手に渡るまでの全プロセスをデータ化し、可視化するものです。店頭に並んだドリアンに貼られたQRコードをスマホで読み取るだけで、消費者は「どこの農園で、どんな肥料を使って、いつ収穫されたか」などを簡単に確認できるようになります。
2-3. 強力なライバル国と、莫大な「輸出市場(中国)」の存在
実は、このQRコード追跡システムの導入は、国内の消費者向けだけではありません。最大の理由は「輸出」です。
ベトナムにとってドリアンは、中国向けを中心に年間数千億円を稼ぎ出す「農業の最大の稼ぎ頭」です。(ベトナムのドリアン輸出は、中国へが全体の9割以上を占めており、2025年も38億6000万ドルに達する見込みと報道されています)。しかし近年、中国側の検疫(カドミウムなどの基準)が非常に厳格化しています。
さらに、最大のライバルであるタイやマレーシアのドリアン業界は、すでに「果実1つ1つにQRコードを貼るシステム」を構築し、ブランド力で先行しています。

マレーシアペナン島での「ドリアンにQRコードを付けたトレーサビリティ」の報道より
こういった動きは、ベトナムのニュースでも取り上げられています。
2026年5月12日のCafefニュース(原文はベトナム語)
ベトナム産ドリアンの競合企業が大きな動きを見せている。それは、ドリアン一つひとつにQRコードシステムを導入し、消費者が簡単に産地や栽培農園を確認できるようにするというものだ。
ベトナムも国を挙げてこの「農業DX(デジタルトランスフォーメーション)」を推し進めなければ、国際市場で生き残れないという強い危機感があるといえます。
3. 筆者(石黒)が注目したポイント
これらのニュースから見えてくるのは、ベトナムが「安い農産物だけを大量に作る国」から、「テクノロジーを駆使して、高付加価値で安全な食品を管理・流通させる国」へと急激にシフトしている、その方向へと突き進んでいるという事実です。
ここに、日本企業にとっての大きなビジネスチャンスが隠されています。なぜなら日本は長年、「食の安全・安心」や「ブランド農産物の育成」において世界トップクラスのノウハウを持っているからです。例えば、
◆アグリテック(農業IT):
農薬や肥料の散布を最適化するセンサー技術や、ブロックチェーンを活用した改ざん不可能なトレーサビリティ・システム。
◆コールドチェーン(低温物流):
高級フルーツの鮮度を落とさずに国内外へ輸送する方法、日本の高品質な冷蔵・冷凍物流ソリューション。
◆食品検査・品質管理技術:
輸出基準を満たすための、迅速かつ高精度な残留農薬・重金属の検査機器やコンサルティング。
「1キロ300円が売れ残るのに、3000円のものは、即完売する」。
この強烈な事実こそが、現在ベトナムの中間層や富裕層が求めている「価値観のアップデート」を物語っています。
そしてベトナムの農業や小売市場を見つめる際、日本の高度な品質管理技術やITソリューションが彼らの課題を解決する強力な武器にもなりえる。そんなワクワクするような可能性を感じさせるニュースでした。
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現地の「今」を肌で捉え、確実な事業戦略を描くために
今回ご紹介した内容だけでなく、ベトナム市場にはインターネット上の情報だけでは見えてこない「リアルなビジネスチャンス」と「新興国特有の落とし穴」が無数に存在します。
自社の技術やサービスをベトナムでどう展開すべきか?開発拠点や販売拠点を設立するには何から着手すべきか?
そうした課題を解決し、ベトナム出張を「確かな成果(実践プラン)」へと繋げるための特別なプログラムが開催されます。

「Ăng-Ten(アンテン、ベトナム語でアンテナを意味)」は、ベトナム最大の経済都市・ホーチミン市を実際に訪れ、現地で長年ビジネスを営む7名の専門家と直接つながる、2泊3日の密度の高いビジネス出張ツアーです。
💡 本ツアーで得られる3つの価値
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- 何から着手すべきかが整理される:すべて日本語での実践講義を通じて、拠点設立に必要な実務の順番と、見落としやすい注意点(成功例・失敗例)をまとめて持ち帰れます。
- 帰国後の相談先(人脈)が確保できる:質疑応答や後日の個別面談を通じて、自社の悩みを直接ぶつけることができ、帰国後すぐに動ける体制が整います。
【開催スケジュール(2026年)】
- 第1回目:5月27日(水)〜5月29日(金)
- 第2回目:6月17日(水)〜6月19日(金)
- 第3回目:7月15日(水)〜7月17日(金)
※オプションで航空券の手配や延泊(観光・ゴルフ等)のご相談も可能です。
急成長するベトナム市場への進出や、新規事業の拠点設立をミッションとして任された皆様。事前情報だけで判断するのではなく、ぜひ現地の最前線を自分の目で確かめに来てください。ホーチミンでお会いできることを楽しみにしています!
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