デジタル化の光と影。ベトナムでも猛威を振るう「特殊詐欺」と国家の最新防衛網(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/5/8)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく、石黒が選ぶベトナムのニュース紹介、第6回目。
日本のニュースで連日報じられる「特殊詐欺(振り込め詐欺やフィッシング詐欺)」。実は、猛スピードで「完全キャッシュレス社会」へと突き進んでいるベトナムでも、まったく同じように、あるいはそれ以上に高度なデジタル特殊詐欺が社会問題となっています。
今回は、キャッシュレス化という光の裏にある「影」の部分と、それに対抗するためにベトナム国家が打ち出した強力な防衛システムに関するニュースを紹介します。
2026/5/6のCafefニュース (原文はベトナム語)
人々の現金離れが進み、ATMの数が徐々に減少
1. 急増するデジタル犯罪と、国家主導の防衛システム「SIMO」
今回のニュースは、ベトナム国家銀行(中央銀行)が発表したDX(デジタルトランスフォーメーション)に関するレポートを報じたものです。
記事の前半では、「デジタル化の成功」が語られています。
例えば、2026年の最初の3か月間は、2025年の同時期と比較して、
・非現金決済取引は、件数が37.98%、金額が14.22%増加
・インターネット経由の取引は、件数が65.68%、金額が28.85%増加
・携帯電話経由の取引は、件数が33.22%、金額が8.35%増加
・QRコード経由の取引は、件数が16.43%、金額が52.4%増加
・キャッシュレス決済の総額はGDPの約28倍に達すると予想されている
といった点です。

これによる現金取引の減少は、ATMに及んでおり
・ATM取引件数は、2025年の同時期と比較して9.29%減少
・ATMの台数は、20,699台と2025年3月末と比べて3.01%減少
とあります。
既にベトナムの多くの金融機関が取引の90%以上をデジタルチャネルを通じて行っているとあり、QRコード決済をはじめとするキャッシュレス決済が爆発的に増加しているという様子が伺えます。
しかし、後半で非常に重要なポイントとして「ハイテク犯罪の防止・対策における成果」が強調されています。
現金を使わなくなったことで、詐欺師たちのターゲットも完全にデジタル空間へと移行しました。これに対抗するため、ベトナム国家銀行は「顧客リスク管理・監視・予防支援情報システム(System of Information Monitoring Online=SIMO)」という強力なプラットフォームを展開したとあります。

SIMOは、加盟する金融機関が「疑わしい口座」を発見した際、即座にその情報をシステム上で共有できる中央集中型のデータベースです。このデータに基づき、各銀行はオンライン取引の前にリアルタイムで取引をブロックしたり、追加の本人確認を要求したりすることができます。
記事によると、4月27日時点でSIMOは149の機関に導入され、なんと380万件以上の顧客に警告を発し、そのうち120万件以上の取引が一時停止またはキャンセルされたとあります。これにより、被害を未然に防いだ取引総額は4兆3,000億ドン(約260億円)以上になるとも報告されています。
2. ニュースの背景にある「ベトナムのリアルな事情」
なぜ、国家主導でここまで強力なシステムを急ピッチで導入しなければならなかったのでしょうか。現地にいるからこそ肌で感じる3つのポイントを紹介します。
2-1. ベトナム版「特殊詐欺」の高度化
日本で「オレオレ詐欺」や「還付金詐欺」が問題になっているのと同様、ベトナムでも警察や政府機関を騙る電話、偽の投資アプリ、あるいはAIのディープフェイクを使った「家族からのビデオ通話による送金依頼」など、非常に巧妙な特殊詐欺が猛威を振るっています。

デジタルリテラシーがまだ十分でない高齢者だけでなく、スマホを使いこなす若者であっても、一瞬の隙を突かれて全財産をオンラインで送金させられてしまう事件が後を絶ちません。
2-2. 急激すぎるキャッシュレス化の「歪み」
ベトナムは、クレジットカードの普及期を経ずに、いきなり「スマホの銀行アプリで直接送金」というリープフロッグ(カエル跳び)現象を起こしました。
これは利便性が高い反面、「一度送金ボタンを押したら、即座に相手の口座に着金し、すぐに別の口座へ資金洗浄されてしまう」という、詐欺師にとって非常に都合の良い環境でもあります。
2-3. ベトナム版マイナンバー(CCCD)と生体認証による「徹底的な口座浄化」
SIMOの導入と並行して、ベトナム政府は凄まじい荒療治を行っています。ICチップ付きの国民身分証明書(CCCD)と顔認証(生体認証)を銀行口座と強制的に紐づけさせたのです。

この記事にもある通り、すでに1億5,660万件(個人顧客1億5450万件以上、法人顧客213万件以上)の顧客プロファイルが生体認証で照合されました。
これにより、詐欺グループが「架空口座」や「他人の名義を買い取った口座(飛ばし口座)」を使いづらくなり、SIMOによる監視がより正確に機能するようになったとあります。
3. 筆者(石黒)が注目したポイント
このニュースから見えてくるのは、「ベトナムの社会課題の解決スピードの速さ」と「サイバーセキュリティ分野におけるビジネスチャンス-日本への反映」です。
日本では、長年、特殊詐欺やフィッシング詐欺に苦しんでいますが、各銀行のシステムが独立していたり、プライバシー保護の観点から口座情報の強力な一元管理が難しかったりします。
ようやく最近、金融庁から2026年3月23日に「預貯金口座不正利用対策高度化推進事業」に係る補助事業者を決定したという発表があったほどです。(アクセスFSA2026年4月号「預金取扱金融機関間の不正利用口座情報共有枠組みの創設について」)
しかしベトナムは、国家主導で全金融機関を横断する監視システム(SIMO)を構築し、国民の生体認証データと組み合わせて、力技で一気に詐欺口座を封じ込めるという「トップダウンのスピード感」を持っています。

これは、日本のセキュリティ系企業やフィンテック企業にとって非常に魅力的な市場ともいえます。例えば、以下の様なサービスへの需要です。
◆不正検知AIシステム:
取引の振る舞いから詐欺をリアルタイムで検知するAI技術。
◆生体認証・サイバーセキュリティ技術:
急速なデジタル化に伴い、金融機関や企業が求める強固なセキュリティソリューション。
◆啓発・教育コンテンツ:
従業員や顧客向けのセキュリティ教育プログラム。
ベトナムという「急成長するデジタル大国」は、同時に「最先端のサイバー犯罪の主戦場」でもあります。ベトナムが直面しているこの「特殊詐欺」という課題に対して、日本企業が培ってきた安心・安全を守る技術とノウハウを提供し現地で収益を得る。
さらにそれにとどまらず、ベトナムで試験・実施を通じて培った経験を逆に日本へと持ち帰り、日本での安心や安全へと反映させる・・・そんなチャンスがある様に感じます。
デジタル化の光だけでなく、こうした「影」への対策にも目を向けることで、新たな進出のヒントが見えてくる、そんなニュースでした。
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現地の「今」を肌で捉え、確実な事業戦略を描くために
今回ご紹介した内容だけでなく、ベトナム市場にはインターネット上の情報だけでは見えてこない「リアルなビジネスチャンス」と「新興国特有の落とし穴」が無数に存在します。
自社の技術やサービスをベトナムでどう展開すべきか?開発拠点や販売拠点を設立するには何から着手すべきか?
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【開催スケジュール(2026年)】
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