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ISO 19650 Part 2徹底解説:設計・施工フェーズにおける実務プロセスと重要文書(EIR・BEP・MIDP)

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Toshihiko Nagaoka2026/08/24
ISO 19650 Part 2徹底解説:設計・施工フェーズにおける実務プロセスと重要文書(EIR・BEP・MIDP)

前回の連載第2回では、ISO 19650の「憲法」にあたるPart 1(概念と原則)について、共通データ環境(CDE:Common Data Environment)の4つの状態や、ファイル一意のIDとメタデータ属性の完全分離といった本質的な思想を徹底解説しました。

連載第3回となる今回は、実際の設計・施工実務にフォーカスした「Part 2:資産のデリバリーフェーズ」を取り上げます。
実務において最も重要な「発注仕様書(EIR)」から、受注側が提出する「BIM実行計画書(BEP)」、そして具体的な配信計画である「TIDP/MIDP」まで、BIMプロジェクトを成功に導くための具体的な実務プロセスと契約ドキュメントの連動フローを徹底的に解き明かします。


ISO 19650 Part 2の全体像と「3つの関係主体」

Part 2は、建築プロジェクトの「設計から竣工」に至る情報管理の実務を規定しています。ここを正しく理解するための第1歩は、プロジェクトに関わるプレイヤーを規格上の「3つのアクター(関係主体)」と「3つのチーム」に明確に整理することです。

① 3つの関係主体と情報交換における役割

ISO 19650-2規格では、契約上の立場や情報の流通経路に基づいて、すべての関係者を以下の3つの関係主体に分類します。

発注者(Appointing Party)
仕事を依頼し、情報要求を提示する主体。一般的にはクライアントや資産オーナー、デベロッパーを指します。情報交換のサイクルにおいては、情報の最終的な「受け手(Receiver)」となります。

リード任命受託者(Lead Appointed Party)
発注者と直接契約を交わし、プロジェクト全体の情報管理や共同作業の取りまとめを担当する代表組織。ゼネコン、組織設計事務所、あるいはBIM統括PMコンサルタントなどがこれに該当します。発注者に対しては、情報の「送り手(Provider)」です。

任命受託者(Appointed Party)
リード任命受託者の傘下で、具体的なタスク(詳細設計、構造解析、設備モデリング、特定の建材・部材供給など)を請け負う組織やサブコン、専門設計事務所。リード任命受託者に対して情報の「送り手(Provider)」となります。

契約(Appointment:任命)関係は、常に「発注者 ⇔ リード任命受託者」の間、および「リード任命受託者 ⇔ 各任命受託者」の間で結ばれます。

② 情報マネジメントを機能させる3つのチーム

実務においては、上記の3者が孤立して作業するのではなく、以下のような階層的なチーム体制を構築して協調します。

プロジェクトチーム(Project Team)
発注者、すべてのリード任命受託者、すべての任命受託者を含む、プロジェクトに関わる「すべての関係者の集合体」です。プロジェクトにつき1つだけ存在します。

デリバリーチーム(Delivery Team)
1つの「リード任命受託者」と、その傘下にいる「すべての任命受託者」で構成されるチーム。リード任命受託者が、デリバリーチーム内の情報モデルが発注者の要求(EIR)に合致するよう取りまとめます。
プロジェクト内に複数のデリバリーチーム(例:設計デリバリーチーム、施工デリバリーチームなど)が並存することが一般的です。

タスクチーム(Task Team)
特定の専門タスクを実行する最小単位の作業者集団。通常、意匠設計、構造設計、空調設備、電気設備といった専門分野ごとに組織されます。


情報マネジメントを推進する「8つの実務プロセス」

ISO 19650-2は、プロジェクトの始まりから終わりまでを「8つの段階的ステップ」に沿って進めるよう定めています。
このプロセスは、発注者側のアクティビティと、受注側の入札・デリバリープロセスが論理的に統合されたものです。

 [1. 評価とニーズ] (プロジェクト全体ルール策定)
       │
       ▼
 [2. 入札招請] (発注者のEIR提示)
       │
       ▼
 [3. 入札応答] (Pre-BEPの提案、能力評価)
       │
       ▼
 [4. 任命/契約] (BEPの確定、MIDP/TIDPの契約化)
       │
       ▼
 [5. 準備・立ち上げ] (CDEのテスト、トレーニング)
       │
       ▼
 [6. 情報の共同生産] (WIP ⇔ Shared のモデリング実務)
       │
       ▼
 [7. 情報モデルの配信] (Leadによる承認 ⇔ 発注者による受領プロセス)
       │
       ▼
 [8. プロジェクト閉会] (AIMへの移行、 lessons learned の記録)

この8つのプロセスは、新しい契約が発生するたびに、2〜7のサイクルが繰り返されます。

ステップ1:評価とニーズ
プロジェクト発足時、実際の入札が始まる前に、発注者が「プロジェクト情報要求(PIR)」、全体の「プロジェクト情報基準」、「プロジェクト情報生産方法および手順」、そして「情報プロトコル」を策定します。

ステップ2:入札招請
発注者が、特定の契約パッケージに対応する「情報交換要求(EIR)」を整理し、入札時の評価基準やテンプレート等とともに、入札候補者に提示します。

ステップ3:入札応答
入札に参加する候補者は、自チームの「能力およびキャパシティ」を自己評価した結果、情報管理上の「リスクレジスター」、準備計画を示した「モビライゼーション計画」、そして最も重要な契約前提案書である「契約前BIM実行計画書(Pre-appointment BEP)」を作成し、技術提案書の一部として提出します。

ステップ4:任命/契約
発注者は提案を評価し、特定のリード任命受託者をアサイン(契約)します。この際、契約前のPre-appointment BEPをベースに詳細を詰め、実務の運用ツールとして合意された「契約後BIM実行計画書(Post-appointment BEP)」および具体的な図書提出計画書である「マスター情報配信計画(MIDP:Master Information Delivery Plan)」を契約図書の一部として合意・署名します。

ステップ5:準備・立ち上げ
実際のモデリング作業や作図を開始する前の「助走・準備期間」です。リード任命受託者が中心となり、デリバリーチーム内のITインフラ(CDEの接続、ソフトウェアのバージョン整合)を設定し、テスト走行を行い、チーム内の教育やトレーニングを実施します。

ステップ6:情報の共同生産
実際の設計・施工業務、モデリング実務の期間です。
各タスクチームはそれぞれの作業中(WIP)状態の領域でBIMデータを組み立て、QAチェックと技術レビューを繰り返しながら、共有(Shared)状態へと情報を昇格させ、他チームと設計調整を行います。

ステップ7:情報モデルの配信
マイルストーンごとに、各タスクチームは完成した情報モデルをリード任命受託者に提出し、認証(S6/S7ステータス)を求めます。リード任命受託者はそれをチェックし、OKであれば発注者に提出します。
発注者がそれをレビューして最終受領すると、その情報は「公開(Published:Aステータス)」へと遷移します。

ステップ8:プロジェクト閉会
デリバリー段階の終了時、蓄積されたプロジェクト情報モデル(PIM)は安全にアーカイブされ、維持管理段階の「資産情報モデル(AIM:Asset Information Model)」へと引き継がれます。
また、プロジェクト内の「教訓(Lessons learned)」を整理し、次のプロジェクトへ役立てます。


入札から契約をコントロールする「BIM実行計画書(BEP)」の極意

実務において、発注者の「EIR(情報交換要求)」という仕様書に対し、受注側のデリバリーチームが「私たちはこのプロジェクトでこのようにBIMを運用し、要求を満たします」とコミットするルールブックがBEP(BIM Execution Plan:BIM実行計画書)です。

ISO 19650-2規格において、BEPは作成されるフェーズが入札時か契約確定時かによって、明確に2つの異なるバージョンを持ちます。

① 契約前BIM実行計画書(Pre-appointment BEP)

入札パッケージに対する提案書として、候補のリード任命受託者が作成・提出するものです。
発注者に対して、「私たちはISO 19650を理解しており、あなた方のEIRを確実にクリアする技術とプロセスを持っています」とエビデンス提示することが主な目的です。

規格では、この契約前BEPにおいて、少なくとも以下の7つの主要論点を検討・定義して提案することを推奨しています。

情報マネジメント機能を担う個人の詳細
プロジェクトの情報管理をリードする責任者(BIMマネージャーなど)の役職・氏名・専門スキルを明らかにし、体制を担保します。

提案する情報配信戦略(Information delivery strategy)
EIRをどのように満たすかの大枠、LOIN(情報の必要レベル)へのアプローチ、および成果物の受け渡し予定日。

提案するフェデレーション戦略(Federation strategy)
膨大かつ複雑なBIMモデルを、どのような単位(ゾーン別、レベル別、システム別など)で情報コンテナに分解・分割して統合(連動)管理するかのルール。

プロジェクト情報基準への追加・修正提案
発注者の情報基準に対し、受注者側の実務に適したコード体系や部屋名などの追加ルールを提案。

プロジェクト情報生産方法および手順への追加・修正提案
発注者の手順に対し、受注者側が得意とする干渉チェックフローや、既存建物レーザースキャンの方法、セキュリティプロトコルなどの改善提案。

ソフトウェア、ハードウェア、およびITインフラの提案スケジュール
デリバリーチーム全体で使用するBIMソフトの種類やバージョン(例:Revit 2026)、使用するローカルCDEやファイル転送方法の一覧。

デリバリーチームの組織構造と役割分担
どの会社が、どのディシプリンの「タスクチーム」を組織するのかの相関図。

② 契約後BIM実行計画書(Post-appointment BEP)

入札評価が終わり、正式な任命(Appointment:契約)を交わす段階で、リード任命受託者が各タスクチームと共同で最終調整して合意する、実務運用のための決定版ルールブックです。

契約前のPre-appointment BEPが「提案」であったのに対し、Post-appointment BEPは「契約上の義務」となります。
この段階で、ITツールのスケジュールや責任者の名前が「確定」され、後述する詳細な責任マトリクス、MIDP(マスター情報配信計画)などが統合され、契約書に組み込まれます。
プロジェクト中にタスクチームが追加されたり体制が変わったりした場合は、フォーマルな変更管理プロセスを経て、常に最新の状態にアップデートし続けなければなりません。


誰がいつ何を出すかを約束する「TIDP」と「MIDP」

BIM実行計画書(BEP)がプロジェクト全体の「BIM運用ルール」であるのに対し、「具体的に、いつ、誰が、どのファイルを、どの形式で、誰に提出するか」をマイルストーンと紐づけて一覧化した「情報配信スケジュール表」が、TIDPMIDPです。

① タスク情報配信計画(TIDP:Task Information Delivery Plan)

各タスクチーム(例:意匠設計チーム、空調設備チームなど)のリーダーが、自分たちが生産するすべての成果物(情報コンテナ:3Dモデルファイル、図面、計算書、報告書など)を1行ずつリスト化した、極めて具体的な配信スケジュール表です。

TIDPには、各情報コンテナについて以下の項目が緻密に書き込まれます。

  • 一意のID(ファイル名)
  • 担当者(作成者)
  • 成果物のステータス(適合性コード。例:設計調整用のS1)
  • 想定されるLOIN(幾何情報、属性情報、添付書類の粒度)
  • 他チームへの共有予定日、および発注者への配信予定日
  • 情報コンテナ間の論理的な依存関係

② マスター情報配信計画(MIDP:Master Information Delivery Plan)

デリバリーチームのリーダーである「リード任命受託者」が、傘下のすべてのタスクチームから提出された「TIDP」を回収・チェックし、1つのマスター計画に統合(マージ)した統合スケジュール表です。

リード任命受託者は、単にTIDPをガッチャンコするだけでなく、「情報コンテナ間の論理的な整合性や制作の前後関係」を検証し、スケジュール全体のボトルネックや不整合を調整します。

実務における論理的依存関係の例
建築(意匠・構造)タスクチームが「構造柱・梁モデル」を共有しなければ、設備タスクチームは空調ダクトの干渉チェックを行うことができません。また、建具タスクチームがドアの属性データを確定しなければ、意匠チームは最終的な建具図面を公開できません。

このように、成果物の前後関係を可視化し、プロジェクト全体の進捗管理を行うコントロールタワーとなるのが、MIDPの本来の役割です。


設計・施工を劇的に変える「モビライゼーション」

PAS 1192-2からISO 19650に引き継がれた最も実用的で重要な思想の1つが、「モビライゼーション(Mobilization:準備・立ち上げフェーズ)」のプロセスです。

従来のBIMプロジェクトでは、契約成立と同時に、あるいは前倒しで、いきなり各メンバーが「見切り発車」でモデリングを開始してしまうことが多々ありました。その結果、数週間後に「ソフトのバージョンが違ってファイルが開けない」「座標軸がずれて重ね合わせられない」「命名規則がバラバラでCDEへのアップロードが拒否された」といった致命的な手戻りが多発していました。

ISO 19650では、「実作業の前に、必ず1つのステップとしてモビライゼーションを設け、すべてをテスト・検証する」ことを原則化しています。

モビライゼーションにおける極めて重要な実務アクティビティ

情報技術の立ち上げ
発注者CDEと受託者CDEが論理的につながり、メタデータ属性の転送やマッピングが自動(またはマニュアル)でエラーなく行えるか、アクセス権限(Read/Write/No Access)がセキュリティ基準通りに稼働するかを実環境でテストします。

生産方法・プロセスのプレテスト
各タスクチームの担当者が、設定された「プロジェクト情報生産方法および手順」に従って、少量の「テストモデル」や「ダミーファイル」を作成し、CDEを通じて共有状態に昇格させ、重ね合わせや干渉チェックを実行できるかを事前に確認(ドライラン)します。

スキル・容量の教育とトレーニング
事前の能力評価で判明したチーム内のスキルギャップを埋めるため、CDEの使い方、共通データ標準、命名規則に関する研修やワークショップを実施し、すべてのチームメンバーの理解度を一律に引き上げます。

このモビライゼーションという「事前のテスト走行」を経てから初めて、ステップ6(情報の共同生産)としての本格的なモデリング実務へ移行します。これが、ISO 19650が誇る「手戻りゼロ」を実現する鉄則です。


まとめ:Part 2が実務にもたらす「信頼のゴールデンスレッド」

ISO 19650 Part 2のプロセスは、一見すると「多くの書類と手続きに縛られた、厳格すぎる管理フロー」のように見えるかもしれません。しかし、これらはすべて、プロジェクトのライフサイクルを通じて、必要な情報を必要な人が確実に受け取り、無駄な意思決定や手戻りを排除するための合理的なシステムです。

  1. 発注者の要求(EIR)に基づいて、
  2. 受注者の対応方針(BEP)を契約で約束し、
  3. 詳細な提出スケジュール(TIDP/MIDP)で役割と前後関係を明確化し、
  4. モビライゼーションでの実機テストを経てから、
  5. CDE上で安全かつ整合した情報モデルを共同で生産する。

このプロセスの連動(ゴールデンスレッド:黄金の糸)を実務にビルトインすることこそが、BIMマネージャーが真に果たすべき役割です。

次回連載第4回では、設計・施工フェーズを終えた先の、建物の維持管理・運営を見据えた「ISO 19650 Part 3:資産の運用フェーズ(Operational phase of assets)」の実務ルールについて徹底解説します。PIMからAIMへのデータ引き継ぎの壁をどのように乗り越えるか、ぜひお楽しみに!

※本記事は、一般に公開されている情報をもとに、ISOについて学べる内容を整理したものです。正式な仕様や要件については、ISO規格本文をご確認ください。

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