AIによってベトナムの雇用は減るのか?

先日、ベトナムの人材企業様より、Vitalify Asia COOの加藤へ「AIによってベトナムの雇用は減るのか?」というテーマで記事執筆の依頼がありました。
以下に加藤の寄稿内容を転載します。
1. ベトナムシステム開発業界の動向
不確実性が高すぎて未来を断言することに意味を感じません。私が注視しているのは、単なるDXではなく「組織としてのROI最大化」への再構築です。これまでの「数」を売る労働集約型は、AIにトドメを刺されました。例えばオフショアの単価競争は、もう議論にならなくなりつつあります。
当然悪意を持った人々もAIを手に入れており、脆弱性の解析スピードが今までと比べものになりません。セキュリティリスクが常態化する中で、いかに「攻め」と同時に「守り」を含めたAI環境を構築できるかというフェーズに入っています。
2. AI導入状況
今はブラウザでAI Chatと相談するだけでなく、手元のラップトップの中でIDEや社内サーバーに組み込まれたエージェントが裏側でタスクをこなす段階に入っています。問題は「誰がその環境を品質ごと維持するか」が今までの概念のままでは対応しきれないこと。AIで作られた野良ソースコードやアプリケーションがそこら中に乱立し、会社の公式な管理ツールに入り込み、セキュリティホールが日常化するフェーズが、すでに始まっています。
社員にアカウントと利用ルールを渡すだけでは足りない時代です。リスクに対応するフロー・ツール・共有環境を整備しながら、圧倒的なスピードで変化し続けるAI環境をメンテナンスし続ける。そういう難易度の高い仕事が必要になっています。
3. 実際に減った業務
「仕様書が不完全だからバグが出た」と言い訳するエンジニア、その伝言に終始するBridge担当など、情報の非対称性や環境要因で高い給与を得ていた中間業務が真っ先に価値を失いつつあります。完璧な仕様書という存在しないものを期待して待つだけなら、人間を介在させる意味はありません。もしそんな魔法の紙があるなら、数百ドルのAIに食わせれば即プロダクトになる。「わざわざ高いコストを払って、なぜ人間が必要なのか」というROIの問いに答えられないルーチンワークの価値は、すでに削ぎ落とされつつあります。
4. 逆に増えた業務
逆に価値が上がったのは、「仕様以前」の仕事です。市場の変化が速すぎて、完璧な仕様を定義すること自体がもはや不可能になっています。だからこそ、現場のペインポイントを掴み、アイデアに変換し、仕様に落とし込む人間の判断に価値がある。さらにAIによって、そのアイデアをプロトタイプとして即日検証できるようになった。構想から検証までのサイクルが桁違いに短くなり、「考える密度」と「動かす速度」その両方を同時に求められる仕事が、急増しています。
5. AIでは代替できない部分
AIが出すアイデアは「正解らしいがどこかで見たことある」ものばかりです。既存パターンの最適解は出せても、「なぜこれが面白いのか」という根拠のない確信は持てない。その確信の正体は、経験と失敗から体に染み込んだ美意識です。責任も同様で、不確かな賭けに「これでいく」と舵を切れるのは、今も人間だけです。
6. 今後3〜5年の予測
予測そのものが無意味だと思っています。今のAIすらもすぐに全く別の姿になっているでしょう。ただ、ベトナムを物理的に守っていた壁がなくなり、世界中のチームと完全に横並びで評価される時代が来るのは楽しみです。少数精鋭が巨大組織を圧倒する光景は当たり前になりえると思います。
ベトナム・オフショアという環境は、地理的・文化的な距離が「言い訳」として機能する世界でもありました。その壁が機能しなくなりつつある今、気づけば世界と同じ土俵に立たされています。「不確実性への耐性」を組織に実装できるかどうか。今後の明暗は、そこで分かれます。
7. 必要になる人材像
「自らの仕事をAIで自動化し続ける、自己破壊的な好奇心を持つ人材」です。これは私が社内で定義し続けていることですが、特定のスキルや職域に固執せず、ビジネス・技術・AIを横断して結合できる人材。AIに仕事を奪われる人は、変化を"損失"として処理する人です。奪われることを楽しめる人が、次の時代を作ります。
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