10年ぶりの衝撃!ベトナムが2026年の5ヶ月間で「貿易赤字」に転落した理由と為替レート安定の理由(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/6/10)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく、石黒が選ぶベトナムのニュース紹介、第29回目。
昔は貿易赤字が続き、為替レートも下落するなど経済面での脆弱性の1つとして指摘されることが多かったベトナムの貿易収支ですが、2016年以降は、2025年まで10年連続で貿易黒字を計上するなど他の新興国(特にフラジャイル5と呼ばれた脆弱な新興国5カ国)との違いを見せていました。
しかし2026年の最初の5ヶ月間で、ベトナム経済が約10年ぶりに「輸入超過(貿易赤字)」に転じます。ここにはどのような背景があるのか、今回は、ベトナムの貿易構造の変化に関するニュースを紹介します。
2026年6月8日のCafefニュース(原文はベトナム語)
約10年間連続で貿易黒字を計上していたベトナムは、2026年の最初の5ヶ月間で約140億ドルの貿易赤字を計上しました。その理由は一体何だったのでしょうか?
1. 年初5ヶ月で約138億ドルの貿易赤字
今回取り上げるのは、ベトナム計画投資庁統計総局(GSO)の最新データを元に報じられた、ベトナムの最新の貿易収支に関するニュースです。
2026年の1~5月におけるベトナムの貿易赤字は138億ドルに達したとあり、前年2025年の同期間の貿易黒字51億ドルから、大きく変化しました。貿易収支が189億ドルも悪化したことになります。その詳細を見ていくと以下の通りです。
2026年1~5月の輸出入を合計した総額は、4,451億2000万ドルと前年同期比25.0%増で貿易自体は活発であったことが伺えます。しかし期間中、
・輸出額:2,156億6,000万ドル、前年同期比19.5%増
・輸入額:2,294億6,000万ドル、前年同期比30.8%増
と輸入の伸びがより大きかったことが、貿易赤字に繋がりました。
5月の単月で見ても輸出入を合計した総額は、990億7000万ドルと前月比3.2%増、前年同期比25.8%増と引き続き貿易自体は活発であったのに対し、
・輸出額:469億3,000万ドル、前月比2.1%増、前年同期比18%増
・輸入額:521億4,000万ドル、前月比4.3%増、前年同期比33.8%増
と前月比及び前年比で見ても輸入の伸びの方が大きい状況で、単月で52億1,000万ドルの赤字となり、これが1~5月の赤字額拡大の大きな要因であったことが分かります。
2. ニュースの背景にある「ベトナムのリアルな事情」
なぜこのような貿易赤字の状態となったのでしょうか?
2-1.貿易赤字の3つの要因
BIDV経済研究所のカン・ヴァン・ルック博士と研究チームによる報告書では、主に3つの理由から生じていると分析しています。
(A)企業はリスクの高まりを受けて原材料や投入資材の備蓄を増やすため、輸入を増やしている
(B)多く輸入品において、特にエネルギー、肥料、電子・電気部品、生産設備などの価格が上昇している
(C)国内経済部門における赤字状態の継続
上記の内(A)と(B)は、2月末から始まったイランとの戦争によってホルムズ海峡が封鎖され、サプライチェーンが寸断されて原材料が入りにくくなったことで、在庫を増やし、また供給ショックで価格が高騰したという要因です。
ベトナムでは2月にちょうど旧正月(テト連休)もあって工場が休みとなり生産が減った直後に、戦争が始まったという点も輸出が季節要因でそこまで伸びず、一方で輸入が大きく伸び、貿易赤字の拡大に寄与したと考えられます。

そして(C)の点ですが、これは構造的な問題でもあります。同じ記事内では、輸出入ともに「国内経済部門」と「外資部門(原油を含む)」それぞれの数字データも載っていましたのでそれを抜粋しますと以下の通りです。
<5月の輸出>
国内経済部門:90億5,000万ドル 前月比4.1%減、前年同期比3.5%増
外資部門:378億8,000万ドル、前月比3.6%増、前年同期比22%増
<5月の輸入>
国内経済部門:131億7,000万ドル、前月比10.8%減、22.2%増
外資部門:389億7,000万ドル、前月比10.7%増、前年同期比38.2%増
<1~5月の輸出総額>
国内経済部門:435億ドル、前年同期比2.5%増(輸出総額の20.2%)
外資系部門:1,721億6,000万ドル、前年同期比24.7%増(輸出総額の79.8%)
<1~5月の輸入総額>
国内経済部門:642億6,000万ドル、前年同期比22.7%増
外資部門:1,652億ドル、前年同期比34.3%増
<部門ごとの1~5月の貿易収支>
国内経済部門:207億6,000万ドルの赤字
外資部門:69億6,000万ドルの黒字
上記データから読み取れるのは、ベトナムの経済構造において、輸出は主に外資部門=海外直接投資(FDI)企業に依存しているという状況です。
具体的には、2026年1~5月でみると輸出総額の約80%、輸入総額の約72%を占めているのが外資部門(FDI企業)となります。

そして外資部門は、常に貿易黒字を維持している一方で、国内経済部門は一貫して貿易赤字を抱えている状況とも書かれていました。例えば2026年の1~5月においても外資部門は、約70億ドルの貿易黒字ですが、国内経済部門は約208億ドルの貿易赤字という状況です。
今回の1~5月の様に国内経済部門で輸出が前年同期比2.5%しか伸びず、一方で輸入が22.7%も増えると赤字額が大きくなり、外資部門の黒字では補えなくなって、全体として貿易赤字に影響したと考えられます。
2-2.貿易赤字なのに通貨が大きく下落しなかった理由
では今年に入ってから5ヶ月間の通貨ベトナムドンの動きはどうだったのでしょうか?

上記チャートの通り1月以降ほとんど変わっていません。2月の旧正月頃(凹んでいる時期)は若干ドン高であった時期となります。
報道では、2026年1~5月に銀行間為替レートは、前年同期比でわずか0.06%上昇(1ドルあたりのドンの価値なので、対ドルに対してドンが0.06%下落したという意味)とあり、これは2025年の同時期における2.1%の上昇よりも低いとあります。
ベトナムの様な新興国で貿易赤字が続くようであれば、通常であればドン売り圧力が高まって通貨が下落するはずですが、あまり落ちていない(変動が小さい)理由を3つ報じられており、筆者による補足も入れると以下の様になります。
(1)金利差
現在ドンの方が金利が高く、ドルの方が金利が低いため両通貨の金利差によってベトナムへ外貨(ドル)が流れ込み、外貨収支が支えられ外貨流出が減少したこと。
(2)金(ゴールド)価格差
ベトナム国内での金(ゴールド)価格は国際的な取引価格よりも割高である為、隣国で買い付けた金をベトナムに持ち込んで利益を得る、違法な金密輸がしばしば行われて事件となっていますが、国内の金価格が下がってこの内外価格差が縮小した結果、金の密輸が減少したこと。
なお金の密輸には外貨ドルが必要である為、密輸が減ると闇市場(自由市場)でのドル買い需要が減り、闇市場(自由市場)における為替レート=ブラックマーケットレートが安定します。
この国内外との金価格差と、為替レートの銀行レートと闇レートとの差には、相関関係があると2024年4月11日のMayBank IBGの調査結果で報じられています

実際に2026年5月12日の報道では、ベトナム国内金価格と国際金価格の差が最低水準になっていることが報じられていました。

過去多かったのは、為替のブラックマーケットレートが大きく下落し、それに引きずられる形で銀行間レートが下落するという流れであった為、それが発生しなかったことも、(銀行間)為替レートが安定した要因と考えられます。
(3)貿易以外での穴埋め
外国からの直接投資(FDI)、国外にいる親族からの送金、国際観光収支などが黒字方向で増加したことで穴埋めに繋がり、為替レートが中央銀行によって管理された範囲内で推移するのに役立ったとあります。
3. 筆者(石黒)が注目したポイント
このニュースを見て私が興味深いと感じたのは、ベトナムの貿易黒字が依然として外資(特にサムスンをはじめとする電子製品の輸出)に支えられていて、全体としてみると国内企業で継続的に黒字を稼ぐ構造にはまだなっていないという点です。
今回の輸入増加は、ホルムズ海峡封鎖によるサプライチェーンの混乱を避けるため、原材料の輸入増加という一時的な要因による点が大きいですが、今後もこの状況が続いた場合、ベトナムに進出している外資企業(製造業)が想定したように輸出できず、貿易収支への影響が継続する可能性もあります。
ただ一方でこういった混乱が早く収束すれば、輸出して稼げる土台は既に存在しているので、貿易赤字は改善していくと考えられます。
ただ長期的に見ると、外資企業(直接投資をして進出してきたFDI企業)だけでなく、ベトナムの企業もより高い付加価値の製品を作り輸出して黒字を稼げるようになっていかないといけない。そんな一面も浮き彫りにしたのが、今回の貿易赤字についてのニュースだと感じました。

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