ベトナムのレアアース市場の現実!米国超えの埋蔵量と崩壊する採掘現場(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/7/6)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく「石黒が選ぶベトナムのニュース紹介」、第47回目。
今回のテーマは、半導体や電気自動車(EV)、クリーンエネルギー、さらには軍事産業の未来をも左右する戦略物資となった「レアアース(希少土類)」のベトナムにおける状況です。
世界的なサプライチェーンの再編が進むなか、日本を含めた先進国から「次なる巨大供給源」として絶大な期待を寄せられているベトナム。しかし、現地の報道を深掘りしていくと、マクロな期待とはあまりにもかけ離れた「現場の残酷な現実」が見えてきました。
IEA(国際エネルギー機関)の最新データや、地場有力企業の動向から、そのリアルな実態を読み解いていきましょう。
2026年5月18日 Soha(Market Times転載)の報道(原文はベトナム語)
ベトナムのレアアース埋蔵量は350万トンで、米国の埋蔵量を上回る。これは鉱業と鉱業会社にとって厳しい現実だ。
1. 米国を凌駕する「埋蔵量350万トン」という圧倒的なポテンシャル
国際エネルギー機関(IEA)が発表した最新の報告書「元素レアアース2026」のデータによると、ベトナムのレアアース埋蔵量(希土類酸化物換算)は、350万トンに達しており、アメリカ(190万トン)を大きく上回る世界6位の「地下の宝庫」となっています。
世界全体の既知のレアアース埋蔵量と埋蔵量のシェアを見ると、以下の通りです。
1位:中国(4,400万トン / シェア約48.9%)
2位:ブラジル(2,100万トン / シェア23.3%)
3位:インド(720万トン / シェア8%)
4位:オーストラリア(630万トン / シェア7%)
5位:ロシア(380万トン / シェア4.2%)
6位:ベトナム(350万トン / シェア3.9%)
7位:アメリカ(190万トン / シェア2.1%)
なおミャンマーもレアアース埋蔵量が多い国といわれていますが、国土の一部が内戦状態であり、信頼できるデータが不足しているため、IEAの分析には含まれていません。
レアアースは、EVや風力発電のタービン、電子機器のリチウムイオン電池、微細な半導体チップや軍事用レーダーなど、先端テクノロジーに代替不可能な役割を果たす17の元素の総称となります。
2050年のクリーンエネルギー社会に向けて世界的な需要の爆発的増加が予測されるなか、埋蔵量で市場シェアの半分を占める中国が政治的な理由で輸出規制を繰り返しており、日本や欧米諸国などでは中国に代わる調達先を探している状況です。
そのような中、世界6位の埋蔵量があるとされるのがベトナムです。特に西北部(ライチャウ、イエンバイ省など)に経済的価値が極めて高いとされる主要鉱山が多数集中しており、資源を求める国々やグローバル企業から注目されています。
2. ニュースの背景にある「ベトナムのリアルな事情」:
しかし、これほどの国家的なポテンシャルを有していながら、ベトナム国内における実際の採掘・加工現場は機能不全、あるいは深刻なトラブルに直面しています。
報道された地場有力企業4社の最新動向から、その生々しい実態(歪み)が見えてきます。
2-1. 国内最大の「ドンパオ(Đông Pao)鉱山」:プロジェクトの活動停止処分
ベトナム最大級のレアアース埋蔵量を誇るライチャウ省の「ドンパオ鉱山」(面積11km2以上、酸化物埋蔵量500万トン以上)は、国営の鉱山総公社(Vimico / KSV)傘下のライチャウ・レアアース(Lavreco)が管理しています。

早期の商業稼働が期待されていましたが、「世界市場の動向」「高度な精製加工技術の不足」「資金調達の難航」という高い壁に阻まれ、長年にわたり採掘ができない状態が続いていました。
さらに、親会社KSVの2025年財務諸表の解釈情報によると、同社はついに投資認証を回収(取り消し)され、ドンパオ鉱山の採掘・加工プロジェクトそのものが活動停止処分(終了)を受けたことが明らかになりました。ベトナム最大の拠点が、事実上の白紙に戻ってしまった形です。
2-2. 「ナムナムセ・バクナムセ(Nam/Bắc Nậm Xe)鉱山」:進まぬ探査と手続き
民間大手のフンハイ建設(Hưng Hải)が管理するライチャウ省の鉱山群も停滞しています。

バクナムセ鉱山(総埋蔵量750万トン以上)は環境影響評価のプロセスまで進んでいるものの、隣接するナムナムセ鉱山は2012年に探査期限が切れて以降、未だに政府からの正式な埋蔵量承認が下りていません。
2026年1月には企業の筆頭株主の構成が変更されるなど、実際の安定操業ラインの構築にはほど遠いのが現状です。
2-3. 「イエンフー(Yên Phú)鉱山」:大規模な不法密売による経営陣の逮捕
イエンバイ省のイエンフー鉱山を運営していたタイズオン・グループ(Thái Dương Group)は、2018年にいち早く稼働を開始した国内の「成功例」とされていました。

しかし、公安部による大規模な捜査が入り事態は一変しました。経営陣が政府の管理や会計監査の目を盗み、1,100万kg以上のレアアース、および1.53億kgの鉄鉱石、合わせて総額で約6,320億ドン(約40億円相当)を不法に採掘・密売し、莫大な裏金を隠匿していたことが発覚。
法廷にて同社の会長(Đoàn Văn Huấn)に対し、資源探査・開発に関する規制違反で懲役6年、重大な結果を招く会計規制違反で懲役4年6ヶ月、環境汚染を引き起こした罪で懲役4年という判決がでて、合計で懲役14年6ヶ月と重い判決となりました。
2-4. 国内唯一の精製工場「ベトナムレアアース(VTRE)」:密輸でトップが懲役16年
ベトナムで唯一、レアアースを高度に分離精製できる近代的な精選工場を運営していた会社が、ベトナムレアアース株式会社(VTRE)です。
同社は、オーストラリアとロシアから年間約1,000トンの精製希土類元素(純度99%まで)を輸入して加工していました。この理由は、ベトナム国内で採掘できる希土類鉱山が存在しないため、原材料を100%海外から輸入する必要があったためです。
しかし、前述のタイズオン社から違法に採掘されたTREO(Total Rare Earth Oxides、鉱石や製品の中に含まれる17種類の希土類元素(レアアースの量を酸化物に換算したもの)の含有量18~20%の希土類鉱石を合計350万キログラム以上購入し、中国から密輸入した炭酸塩(carbonate塩)を混入させてTREO含有量が95%を超える総希土類酸化物482,000kgを処理しました。

こうして精製した計47万3,000kgの酸化レアアースを、日本、オーストリア、中国などの海外企業に向けて総額約3,800億ドン相当を商品コードを虚偽申告するなどして違法に輸出(密輸)し、後に摘発・逮捕されました。
裁判で、会長(Lưu Anh Tuấn)に対し「密輸」および「重大な結果を招く会計規則違反」の罪で、裁判所から懲役16年の判決が言い渡され、ベトナムの精製会社も停止する結果となりました。
3. 筆者(石黒)が注目したポイント:
レアアースはその採掘や精製のプロセスにおいて、極めて深刻な放射性物質や強酸による環境汚染を引き起こすリスクをはらんでおり、これこそが「政府の方針次第で環境負荷をいくらでも許容できる中国」に世界のサプライチェーンが過度に依存してしまった最大の原因とも言われています 。
ベトナムにおいて、これほどの鉱山がありながら開発が長年進まなかったり、裏で当局の目を盗んだ違法採掘や不法精製が横行してしまった背景には、中国のように環境負荷を無視して強引にプロジェクトを推し進めることができないという、新興国ならではのジレンマがあると考えられます 。
つまり今回の報道から見えてきたのは、「『ハード(埋蔵量)』は世界有数であっても、それをクリーンなビジネスとして成り立たせる『ソフト(法律に準拠し、環境負荷に配慮した採掘・高度加工技術)』が致命的に不足している」という構造的な歪みそのものです 。
実際に、2026年6月3日の政府系メディア NhanDan の報道でも、「ベトナムのレアアース産業は、最重要資源として認識されているにもかかわらず、その潜在能力を十分に発揮できていない。最大の制約は、高度加工率の圧倒的な低さにある」と明確に指摘されています 。
一方で、この現状を打破しようとする新しい動きも始まっています。
先月6月にフォーチュン誌が選ぶ「東南アジアの500社ランキング」で148位に選ばれた、従業員2万人を擁する巨大国有企業ベトナム化学公社(ビナケム、Vinachem)は、レアアースの鉱業および高度加工分野への本格参画を目指し、研究開発(R&D)を強力に推進していく方針を発表しており、国家として何とかこの状況を抜本的に変えていこうという強い意志が見られます 。

実は、ベトナムのレアアース開発の歴史を紐解くと、日本とベトナムは深い絆で結ばれています。両国は綿密な共同調査を経て、2011年にライチャウ省ドンパオ鉱床の共同開発で正式に合意しました 。
当時、日本企業も現地に進出して開発や精製事業に乗り出そうとしましたが、当時は採掘・環境対策コストが想定以上に高く、さらには安価な中国産レアアースによる激しいダンピング(価格破壊)の波に直面したため、最終的に採算が取れず事業化を断念せざるを得なかったという苦い経緯があります(2026年5月2日の共同通信社のニュースより)
しかし、当時とは世界の前提条件が完全に変わりました 。現在の日本、そして欧米の先進国にとって、経済安全保障の観点から「中国への資源依存」をこのまま放置し続けることはもはや絶対に不可能です 。
グレーな地場資本や不法な海外ルートが政府の厳格なメスによって一掃され、巨大国有企業が動き出した今だからこそ 、日本はベトナム政府と真摯に協力し、「日本が持つ高度な環境負荷低減テクノロジーと厳格なガバナンスをテコにして、どうやって採掘から高度精製までをビジネスとして持続可能な形で川上から共同再構築していくか」を本気で考えて取り組むべき、絶好の構造転換期が訪れていると感じます 。
ベトナムの持つ地下の底力と、これからの日越の戦略的パートナーシップのあり方を改めて深く考えさせられるニュースでした 。

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【開催スケジュール(2026年)】
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- 第4回目:8月19日(水)〜8月21日(金)
- 第5回目:9月9日(水)〜9月11日(金)
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急成長するベトナム市場への進出や、新規事業の拠点設立をミッションとして任された皆様。事前情報だけで判断するのではなく、ぜひ現地の最前線を自分の目で確かめに来てください。ホーチミンでお会いできることを楽しみにしています!
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