中越貿易が5ヶ月で1,230億ドル突破!脱中国の嘘と次世代チャイナプラスワン(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/7/1)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく「石黒が選ぶベトナムのニュース紹介」、第44回目。
今回は、ベトナム経済の心臓部であり、今やグローバル製造業の命運を握る「ベトナムと中国との貿易(二国間貿易)」にスポットを当てます。
世界的な地政学リスクやサプライチェーンの再編といったキーワードから、日本では「脱中国依存」なども叫ばれていますが、現実のベトナムと中国との結びつきは薄れるどころか、過去最高レベルの熱量で密接になっています。報じられた最新のデータから、そのリアルな裏側を読み解いていきましょう。
2026年6月30日のDoanh nghiệp và Tiếp thị の報道(原文はベトナム語)
ベトナム・中国の双方向貿易額が約1,230億ドルに達する
2026年6月30日のThương hiệu & Công luận Điện tửの報道(原文はベトナム語)
ベトナムと中国の貿易が加速し、貿易額は1230億ドル近くに達している
1. 継続して拡大を続ける中越間の貿易
ベトナム商工省輸出入局の発表によると、近年、ベトナムと中国との間の貿易額は驚異的な勢いで増加を続けています。
昨年2025年の通期におけるベトナムと中国の貿易実績は以下の通りでした。
◆中国への輸出額:693億6,000万ドル
(前年比80億ドル増加)
◆中国からの輸入額:1,825億8,000万ドル
(前年比385億ドル増加)
輸出入を合わせた2025年の貿易総額は約2,519億4,000万ドルに達し、2024年と比べて実に26.5%という成長を記録しました。
この貿易の圧倒的な活発さは、2026年に入ってからもさらに加速しています。直近の2026年1〜5月の5ヶ月間のデータを見ると、以下の驚くべき数字が報告されています。
◆中国への輸出額:301億ドル
(前年同期比で約67億4,000万ドル、28.2%増加)
◆中国からの輸入額:925億7,000万ドル
(前年同期比で約232億3,000万ドル、33.6%増加)
この5ヶ月間の輸出入を合わせた中越の貿易総額は、前年同期比で約300億ドルも増加し、約1,226億ドル(約20兆円)という規模に達しました。同じ期間におけるベトナムの全世界を相手にした全輸出入総額が約5,000億ドルですので、ベトナム全体の貿易の約4分の1(25%)は、中国1国が相手であるということになります。

しかし、この数字の内訳を見ると明確な特徴があります。それは、中国からの「輸入」が、ベトナムからの「輸出」の3倍超に達しているという点です。
ベトナム側から見ると、対中貿易においてわずか5ヶ月間で約624億ドル超という膨大な貿易赤字を抱えており、中国は圧倒的なトップの貿易赤字相手国となります。これは昨年2025年の1年間(年間で約1,132億ドルの赤字)から続く傾向です。
言い換えれば、中国の経済から見ると、ベトナムは莫大な黒字を安定して稼ぎ出してくれる、極めて重要で特別なお得意先国であると言えます。
2. ベトナムの対中貿易では何を輸出し、何を輸入しているのか?
では、両国の間では具体的にどういった製品がこれほど大量に取引されているのでしょうか。その品目の内訳を紐解いてみましょう。
2-1.中国への輸出(2026年1~5月)
ベトナムからの輸出品目で最も大きな割合を占めているのは、高度に工業化された「加工工業製品」です。
(1)コンピューター、電子製品、およびその部品:88億2,000万ドル(前年同期比33.4%増)
(2)スマートフォンなどの電話機およびその部品:57億8,000万ドル(前年同期比30.1%増)
(3)機械、設備、工具、スペアパーツ:26億2,000万ドル(前年同期比46.2%増)
(4)カメラ、ビデオカメラ、およびその部品:18億4,000万ドル(前年同期比22%増)
これら主要な加工工業製品だけで約190億ドルに達し、ベトナムからの輸出総額の約3分の2を占めています。さらに、近年の中国市場の旺盛な需要を背景に、以下のようなベトナムの豊かな自然から採れる「農産物・水産物・木材」の輸出も凄まじい勢いで伸びています。
(5)果物と野菜:14億2,000万ドル(前年同期比27.9%増)
(6)水産物:11億7,000万ドル(前年同期比41.7%増)
(7)木材および木製品:10億5,000万ドル(前年同期比49%増)
これらの一次産品を加えると、工業製品と合わせて計227億ドルとなり、中国への輸出全体の4分の3という大半のシェアを占める構造になっています。
2-2.中国からの輸入(2026年1~5月)
一方で、ベトナムが中国から怒涛の勢いで輸入している品目の中心は、「ベトナム国内で製品を生産(組み立て)するために絶対に必要な、機械、設備、電子部品、および原材料」です。
(1)コンピューター、電子製品、およびその部品:315億5,000万ドル(前年同期比65.4%という驚異的な増加※)
※この電子部品セグメント単体だけで、中国からの総輸入額の3分の1以上を占める巨大な規模です。
(2)機械、設備、工具、スペアパーツ:176億5,000万ドル(前年同期比22.4%増)
これら2つの主要ハイテク設備・部品に加え、プラスチック製品、プラスチック原料、化学薬品、鉄鋼製品といった、製造業の土台となる基礎原材料が輸入の大部分を占めています。
さらに見逃せない最新トレンドとして、中国からの「自動車部品の輸入が前年同期比106.9%増」、「完成車(CBU)の輸入が73.7%増」という猛烈なデータが報告されています。
これは、ベトナム国内における中国製の低価格でハイテクな「中国製EV(電気自動車)」の台数が急速に拡大している現状をリアルに裏付ける数字となっています。
3. ニュースの背景にある「ベトナムのリアルな事情」:
これほどまでに対中貿易が巨大化し、とりわけ中国からの輸入が爆発的に拡大している背景には、「ベトナムへの直接投資(FDI)において、実質的な主役に躍り出た中国企業の存在」があります。
ベトナム外国投資庁が発表した、昨年2025年の通期における「ベトナムへの国・地域別直接投資(FDI)」のデータ(2026年1月15日付のJETROビジネス短信より)を整理してみると、現地の圧倒的なリアルが見えてきます。
◆国・地域別の認可額
1位:シンガポール69億8,108万ドル(前年比22.0%減)
2位:中国51億9,174万ドル(30.7%増)
3位:韓国41億9,581万ドル(38.2%減)
4位:日本30億7,850万ドル(19.5%増)
5位:香港29億5,200万ドル(30.3%減)
6位:マレーシア18億3,500万ドル(約11倍)
7位:台湾13億9,100万ドル(24.2%減)
◆国・地域別の認可件数
1位:中国1,545件(30.4%増)
2位:シンガポール732件(13.7%増)
3位:韓国714件(6.2%減)
4位:香港648件(17%増)
5位:日本429件(3.4%減)
6位:台湾267件(11.9%減)
7位:マレーシア55件(8.3%減)
認可金額の単純な統計上ではシンガポールが1位となっていますが、シンガポールという国は、日本や欧米、そして中国など様々な国のグローバル企業が「投資のハブ(経由地)」として活用しているという背景があります。
そのため、純粋な国籍ベースの企業進出の熱量、そして「認可件数で他を圧倒する1,545件(2位シンガポールの2倍以上)」という圧倒的な数字を見れば、現在ベトナムで最もアグレッシブに工場を作っている実質的な主役は、間違いなく「中国企業」です。
こうしてベトナムへ怒涛の勢いで進出した中国企業が、現地での生産を開始するにあたり、母国にある親会社や中国国内の既存のサプライチェーンから、使い慣れた製造装置、電子部品、原材料をベトナムの自社工場へ大量に引っ張ってくる(輸入する)のは、ビジネスのロジックとして極めて自然な流れです。

また、ベトナムがこれらを中国から輸入せざるを得ない構造的な理由として、「ベトナム国内の裾野産業(下請けの部品・素材・金型産業)が、中国本土の圧倒的な集積度と比べると、まだ十分に育っていない」という厳然たる現地事情もあります。品質や調味料、コスト、納期をグローバル基準で満たそうとすると、どうしても現地調達ではなく、隣国である中国からの輸入に頼らざるを得ないのが実態です。
近年の中国と欧米(特に米国)との激しい貿易摩擦を踏まえ、「中国から直接欧米へ輸出しづらくなった中国企業が、原産地をベトナムに変えるためにベトナムで製造し、欧米へ『ベトナム製』として輸出する」。
しかし、そのモノづくりの心臓部である原材料やハイテク部品の調達先としては、依然として中国本土の巨大なエコシステムが不可欠である。これこそが、今回の中越貿易の爆発的拡大、そしてベトナムの巨額の対中貿易赤字が生み出されている背景ではないでしょうか。
4. 筆者(石黒)が注目したポイント:
今回の「5ヶ月で1,230億ドル突破」という中越貿易のニュースを見て私が強く感じたのは、日本企業が今後のベトナムビジネスやグローバルサプライチェーンを組み立てる上で、中国を単なる競合(ライバル)やリスクと捉えて完全に排除するのではなく、中越が国境を越えて構築したこの『巨大なサプライチェーン』を、自社の利益のためにどう賢く使い倒すか」という、逆転の発想が必要ではないかという点です。
地政学リスクや経済安全保障の観点から、日中間で直接取引を行うことや、中国国内に重要拠点を構え続けることには、反スパイ法のリスクや外交関係の冷え込みなど、多くの企業が頭を抱える深刻な不確実性が伴います。
しかし、これが「ベトナムという第三国を舞台にした取引」となった場合、環境は一変します。ベトナム市場においては、日系企業も中国企業もお互いに「外資(アウェイ)」という対等な立場になります。
また、万が一中国政府が極端な輸出規制などを仕掛けようとしても、それは「日本向け」ではなく「極めて良好な関係を保ち、中国にとって最大の黒字供給国であるベトナム向け」の物流を止めることになるため、中国側としても容易に規制の刃を振るうことはできません。つまり、日本と中国との間にベトナムという強力な「緩衝地帯(ワンクッション)」を挟むことで、地政学リスクを劇的に低減することが可能となるのではないでしょうか。

中国企業の中には、日系企業が舌を巻くほど圧倒的なスピード感と高い技術力、そしてコスト競争力を持つ優れたサプライヤーが数多く存在し、彼らは今、今回紹介したFDIデータの通り、続々とベトナム国内へ最先端の工場を建てています。
であれば、日本企業が脱中国という言葉の表面だけを真に受けて中国のテクノロジーから完全に目を背けるのではなく、ベトナム国内の工業団地や経済特区を舞台にして、現地に進出してきた優秀な中国のハイテック部品・原材料メーカーから優れたアセットを安値で安全に調達し、日系の厳格な品質管理(クオリティコントロール)のもとで最終製品へと仕上げて世界へ送り出す。あるいは、彼らの巨大な工場に向けて、日本企業が強みを持つ「技術力や製品」を現地で直接販売していくといったアプローチが考えられます。
現在のグローバル経済において、中国の製造エコシステムを完全に切り離してモノづくりを行うことは、コスト面でもスピード面でも事実上不可能と考えられます。だからこそ、リスクを最小限に抑えながらその恩恵を最大化できる「特等席」としてベトナムを定義する。
これこそが、単なる工場の引っ越しではない、これからの時代を生き抜く本当の意味での『チャイナ・プラス・ワン』の先進的なあり方なのではないか。そんなビジネスの次なる可能性を確信させてくれるニュースでした。

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