Gaussian Splattingとは何か - 3Dメッシュやフォトグラメトリとの違いを解説

最近、3D技術やXR界隈で「3D Gaussian Splatting(3DGS)」という言葉を耳にする機会が爆発的に増えました。しかし、「魔法のようにリアルな3Dが作れる」と言われても、「そもそもGaussian Splattingって何?」「なぜわざわざ"3D"って付いてるの?」と疑問に思う方も多いはずです。
本題に入る前に、まずは予備知識の全くない方でも分かるようにこの技術の正体を紐解いてみましょう。
そもそも「Gaussian Splatting」とは?
「Gaussian Splatting」を直訳すると、「ガウス分布(Gaussian)の飛び散り(Splatting)」となります。もっと直感的に言うと、「半透明な色付きの絵の具(ガウス粒子)をペチャッ、ペチャッと無数にぶちまけて、風景を再現する技術」です。
細かい点(ピクセルやポリゴン)を綺麗に並べるのではなく、モヤッとした楕円形の絵の具の玉を何百万個も重ね合わせることで、写真のようなリアルな質感を表現しています。


なぜ「3D」がつくのか?「2D」もあるのか?
では、なぜわざわざ「3D」と呼ぶのでしょうか? それは、空間にばらまく絵の具の玉(ガウス粒子)の形が、「立体的な球体(あるいはラグビーボールのような楕円体)だから」です。奥行きを持った3D空間の中に、立体的な(3Dの)粒子を配置して現実世界を再現するから「3D Gaussian Splatting」と呼ばれます。
※ちなみに最近では、「2D Gaussian Splatting」という最新技術も論文で発表されています。名前から「平面の画像を作るための古い技術?」と誤解されがちですが、実は3DGSよりも後から登場した派生技術です。 これは「3D空間の中に、あえて平べったい円盤状(2D)の絵の具を配置する」というアプローチです。立体(3D)の粒子だと、ツルツルした壁や机の表面などを平らに表現するのが苦手だったため、空間にペタペタと平らな(2D)粒子を貼り付けることで、より正確な形状を作ろうとしています。
従来の「3Dメッシュ」や「フォトグラメトリ」との違いは?
「写真から3Dを作る」と聞くと、これまで主流だった「フォトグラメトリ」を思い浮かべる方もいるかもしれません。 フォトグラメトリは、写真から形状を計算して三角形の面(ポリゴン)をつなぎ合わせ、「3Dメッシュ」と呼ばれる"表面の殻"を作り、そこに写真の模様を貼り付ける手法です。例えるなら、「立体の骨組みに、写真のシールを綺麗に貼り付けた張り子」のようなものです。

一方、3DGSは「面(ポリゴン)」を一切持ちません。先ほど説明した通り、空間に浮かぶ無数の絵の具の玉(ガウス粒子)の集合体です。 面ではなくモヤッとした粒子の集まりであるため、ガラスの反射や、木の葉の隙間、自転車のスポーク、ふわふわした毛並みなど、従来のポリゴン(3Dメッシュ)では形を作るのが難しかった複雑な形状や半透明な質感も、まるで空間をそのまま切り取ったかのようにリアルに再現できるのが決定的な違いです。
では、フォトグラメトリはもう古い技術なのでしょうか? 決してそんなことはありません。現在でもプロの現場でバリバリ使われている主流の技術です。 実は、3DGSは「モヤッとした絵の具の集まり」であるため、建物、車、家具といった「カッチリした直線や平面、シャープな角」を表現するのは少し苦手です(どうしてもエッジがボヤけたり、表面がわずかに波打って見えたりすることがあります)。 対してフォトグラメトリは「面(ポリゴン)」で構成されるため、そうした硬くて滑らかな人工物や鋭いエッジを正確に作るのには圧倒的に軍配が上がります。また、後から形を修正したり、ゲーム内で「壁にぶつかる」といった物理判定(当たり判定)を行ったりするのもポリゴンの方がはるかに扱いやすいです。
つまり現在の3D業界では、「モフモフ・半透明・複雑な自然物 = 3DGS」「カッチリした人工物・後で形状を編集したいもの = フォトグラメトリ」という明確な使い分けがされているのです。
少し前のトレンド「NeRF」との違いは?
「AIを使って写真から3Dを作る」技術として、3DGSの少し前に「NeRF(ナーフ:Neural Radiance Fields)」という技術が話題になりました。これも聞いたことがあるかもしれません。
NeRFは、空間の光や色を「AI(ニューラルネットワーク)の脳の中に数式として記憶させる」という手法です。非常に綺麗ですが、「見る角度を変えるたびにAIが光の計算をやり直す」必要があるため、描画がめちゃくちゃ重い(時間がかかる)のが最大の弱点でした。
一方、3DGSは「AIの脳」に記憶させるのではなく、先ほど説明した「絵の具の玉(ガウス粒子)」を物理的なデータとして空間に直接置いてしまいます。一度配置してしまえば、あとは従来のゲームと同じような仕組み(GPUが得意な計算)でサクサク描画できるため、スマホやWebブラウザでもリアルタイムでグリグリ動かせる圧倒的な「軽さ」を実現しました。これが、3DGSがNeRFを置き換える勢いで覇権を握った理由です。
3D Gaussian Splatting(以下、3DGS)の登場により、私たちは現実空間を写真のようにリアルな3Dデータとして保存できるようになりました。しかし、この魔法のような技術にも、クリエイターを悩ませる「致命的な弱点」が存在します。
それが「光源の焼き付き(Baked Lighting)」です。
ゲームエンジンに3DGSのデータを持っていき、新しい太陽の光を当てたり、夜のシーンに変えようとしても、元のデータに焼き付いた「撮影時の影とハイライト」が邪魔をして、不自然に浮いてしまいます。
論文レベルでは「Relightable 3DGS(光源分離)」の研究が発表されているにもかかわらず、なぜ未だに実用化のハードルが高いのか。そして、現在業界を牽引するツール(Postshot、PlayCanvasなど)は、この問題を「どうやって回避している」のか。
各社の公式ドキュメントや開発者ブログの言葉を紐解きながら、現在の3DGSを取り巻くリアルな実情とハック術を解説します。
1. なぜ3DGSの「再照明(光の当て直し)」は今でも難しいのか?
現在の標準的な3DGSは、空間に配置した数百万のガウス粒子に「球面調和関数(Spherical Harmonics)」を持たせています。これは「見る角度によって色や反射がどう変わるか」を記録するものですが、あくまで「撮影時の光の環境が固定されていること」が前提です。
これを後から自由に変更するためには、写真のピクセルから「物体の本来の色(アルベド)」「表面の材質」「環境光」の3つを逆算して切り離す「逆レンダリング(Inverse Rendering)」という超高負荷な計算が必要です。
- 計算コストの爆発: 逆レンダリングを行うと、生成時間が数分から数時間に跳ね上がり、SaaSとしての採算が合いません。
- 野生のデータ(In-the-wild)への脆弱性: ユーザーがスマホで撮ったノイズだらけの動画では、AIが「これは影なのか、それとも黒い模様なのか?」の判別に失敗し、3D空間が破綻してしまいます。
そのため、「なんでも自動で光を分離できるAI」は、未だ巨大テクノロジー企業にとっても「死の谷」となっているのです。
2. 実用ツールは「光の分離」を諦め、どう乗り越えたのか?
では、私たちが普段目にする高品質な3DGS作品は、どのようにしてこの問題をクリアしているのでしょうか?実は、各サービスは真正面から光を分離するのではなく、「極めて賢いハック(見せ方の工夫)」でこの壁を迂回しています。
アプローチ①:長時間露光として「光ごと焼き付ける」
(Jawset Postshot の場合)

ローカルPCで超高品質な3DGSを爆速生成できるプロ向けツール「Postshot」は、公式ドキュメントでハッキリとこう宣言しています。
"Avoid moving objects, lights and shadows... Regarding motion, capture shots are somewhat similar to long exposure photography." (動く物体、光、影を避けてください… 動きに関して言えば、キャプチャは長時間露光写真のようなものです)(引用:Postshot User Guide)
彼らのアプローチは「光を後からいじるな」です。 映像制作やVFXの現場では、AIの不確実な光源分離によるノイズを嫌います。そのため、あえて光を完全に焼き付け(Bake)、「その場の空気感をフリーズドライした最高画質の背景素材」として割り切って使うことを公式が推奨しています。
アプローチ②:周囲のCGを「3DGSの光」に馴染ませる
(PlayCanvas / SuperSplat の場合)


Webブラウザ上で3DGSを扱う最先端プラットフォームであるPlayCanvasは、「3DGSの中に別のCGキャラクターを違和感なく立たせる」という魔法のようなデモを公開しました。しかし、これも3DGS自体の光を分離したわけではありません。
"Splats carry their lighting baked into every Gaussian. I didn't want to re-light the splat." (スプラットはすべてのガウス粒子に照明が焼き付けられています。私はスプラットを再照明(リライト)したくはありませんでした。)(引用:PlayCanvas Blog 'Turning a Gaussian Splat Into a Videogame')
彼らが開発したのは「Lightness Grid」と呼ばれる仕組みです。3DGSの空間内に見えない「明るさセンサー」を配置し、「キャラクター側が、3DGSの焼き付いた暗さ/明るさに合わせて自分の色を変える」という逆転の発想を用いました。
さらに、銃のフラッシュなどは「元の色の上に光を足し算(Additive Blending)する」だけで表現し、計算コストを最小限に抑えつつ「リライティングできているように見せる」超絶技巧のフェイクを実現しています。
アプローチ③:物理的な「無影空間」を作ってから撮る
(ハイエンド・スキャンスタジオの場合)
ソフトウェア(AI)で影を消せないなら、現実世界で影を消してから撮影すればいい。これがトッププロの回答です。
- 巨大なディフューザーで全方位から均一な光を当てる(フラットライティング)。
- クロス偏光(Cross Polarization)フィルターで表面のテカリを物理的に消し去る。
この状態で撮影された3DGSは、影もハイライトもない「純粋なベースカラー(アルベド)」の塊になります。これをゲームエンジンに持ち込めば、後から自由に光を当てても一切矛盾が生じません。「AIの限界を、物理的な職人技でねじ伏せる」という、究極の力技です。
おわりに:「魔法」を待つか、「ツルハシ」を作るか
「どんな写真からでも、AIが完璧に光と影を分離して動かせるようになる」という未来は、おそらく数年以内にBig Tech企業が実現するでしょう。
しかし、現在現場で利益を生み出しているのは、その魔法を待っている企業ではなく、「光が焼き付くという現在の仕様を逆手に取り、ゲームエンジンでの見せ方や、物理的な撮影環境に特化したパイプラインを構築したプレイヤーたち」です。
AIの進化は目覚ましいですが、常に「実用化」と「研究」の間には深い溝があります。PostshotやPlayCanvasのように、現在の技術の「限界」を正しく理解し、既存のオープンソースを賢く繋ぎ合わせたプロダクトこそが、この3D生成AI黎明期における勝者となるのかもしれません。
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