デジタルスレッドとは何か
デジタルスレッド(Digital Thread)は、製品や設備について、企画・設計・製造・検査・運用・保守など各段階で生まれる情報を、同じ対象に関する情報としてつなぎ、ライフサイクルを横断して追跡できるようにする考え方です。本記事では、データ統合やトレーサビリティとの違い、PLM・ERP・MES・IoTとの関係、デジタルツインとの違いと組み合わせ方を解説します。

目次
デジタルツインについて調べていると、「デジタルスレッド(Digital Thread)」という言葉が出てくることがあります。
Digital Threadを直訳すれば「デジタルな糸」です。少し変わった名前ですが、考え方そのものはそれほど難しくありません。
簡単に言えば、ある製品や設備などについて、ライフサイクルのさまざまな段階で作られた情報を、同じ対象に関する情報としてつなげておく仕組みや考え方です。
たとえば製品であれば、企画、要求仕様、設計、製造、検査、販売、運用、保守、廃棄といった段階があります。それぞれの段階で異なる情報が作られます。
設計部門にはCADデータがあり、製造部門には製造記録があり、品質管理部門には検査記録があり、保守部門には修理履歴があります。
これらがそれぞれ独立して存在しているだけでは、「この製品についての情報」が分断されています。
そこで、製品や部品などの対象を軸にして、それぞれの情報の関係を追跡できるようにします。これがDigital Threadの基本的な考え方です。
それって、データ統合やトレーサビリティと何が違うのか?
ここで疑問が出てきます。
「それは結局、データ統合やトレーサビリティではないのか?」
実際、かなり近い概念です。
Digital Threadは、まったく新しい技術を意味する言葉ではありません。データベースやAPI、PLM、ERP、MES、IoTなど、既存のさまざまな仕組みを使って実現されることもあります。
違いがあるとすれば、単純にデータを一か所へ集めることよりも、ライフサイクルをまたいで情報同士の関係を維持し、追跡できるようにすることに重点がある点です。
たとえば、ある製品に使われている部品について、
- この部品はどの設計から生まれたのか
- どの製造ロットで作られたのか
- どの製品に組み込まれたのか
- どの検査を受けたのか
- これまでどのような保守を受けたのか
といった情報をたどれるとします。
単に大量のデータを保存しているだけではなく、「この情報とあの情報は、同じ製品・部品についての情報である」という関係が保たれています。
このようなつながりを、製品ライフサイクル全体に伸ばしていくという発想がDigital Threadです。
デジタルスレッドは大量のIoTデータを意味するわけではない
Digital Threadについて説明するとき、CAD、CAE、IoT、リアルタイムデータなどが並べられることがあります。
確かに、これらはDigital Threadを構成する重要な情報になり得ます。
しかし、Digital Threadだから必ず3D CADやリアルタイムIoTデータを扱う、というわけではありません。
たとえば、製品の設計情報と製造記録、検査記録、保守履歴を関連付けて追跡できるだけでも、Digital Threadの考え方に当てはまります。
重要なのはデータの大きさやリアルタイム性ではなく、異なる工程・システム・組織に存在する情報が、対象との関係を保ったままつながっていることです。
そのため、「巨大なIoTデータ基盤=Digital Thread」と考えるのは適切ではありません。
デジタルツインとの関係
では、Digital ThreadとDigital Twinはどう違うのでしょうか。
この二つは関連していますが、同じものではありません。
Digital Twinは、現実世界に存在する製品、設備、建物、都市などと、そのデジタル上の表現との関係に注目する概念です。
一方、Digital Threadは、その対象についてライフサイクルを通じて発生するさまざまな情報のつながりに注目します。
たとえば工場の設備を考えてみます。
設備の現在の状態をセンサーから取得し、デジタル上でその設備の状態を確認できるようにすれば、Digital Twinの一つの構成になります。
その設備について、さらに、
設計図
→ 製造記録
→ 設置記録
→ 試運転結果
→ センサーデータ
→ 故障履歴
→ 修理履歴
までがつながっていれば、そこにはDigital Threadの考え方があります。
したがって、Digital Twinが「現在の対象と、そのデジタル上の表現との関係」に重点を置くのに対して、Digital Threadは「対象に関する情報がライフサイクルを通じてどうつながっているか」に重点を置く、と考えると分かりやすいでしょう。
両者は組み合わせて利用できますが、どちらかがどちらかの必須条件というわけではありません。
なぜDigital Threadが必要なのか
Digital Threadが役立つのは、製品や設備が複雑になり、関係するシステムや組織が増えてきた場合です。
たとえば製造した製品に不具合が発生したとします。
そのとき、
- この製品はどの設計データをもとに作られたのか
- 使用されている部品はどのロットのものか
- 同じ部品を使っている製品はほかにどれか
- 過去にどのような検査を受けたのか
- 同じ部品で過去に問題が発生していないか
といった情報を追跡できれば、原因調査や影響範囲の特定が容易になります。
また、運用中の製品から得られた情報を設計や製造にフィードバックすることもできます。
つまり、Digital Threadは単なる「過去の履歴を見るための仕組み」ではありません。
ライフサイクルのある段階で生まれた情報を、別の段階でも利用できるようにすることで、設計、製造、運用、保守などの活動をつなぐことができます。
Digital Threadは新しいデータ形式なのか?
ここも誤解しやすいところです。
Digital Threadという名前から、何か特別なデータ形式やソフトウェア製品を想像してしまうかもしれません。
しかし、Digital Threadは基本的には特定の製品やデータ形式を指す言葉ではありません。
実際のシステムでは、PLM、ERP、MES、BIM、GIS、IoTプラットフォーム、データベースなど、さまざまなシステムが関係します。
重要なのは、それらを単純に一つへ統合することではありません。
異なるシステムに存在する情報について、「何についての情報なのか」「どの情報と関係するのか」を明確にし、必要なときにライフサイクルを横断して追跡できるようにすることです。
そのため、Digital Threadは「一つの巨大なデータベースを作る」という話とも少し違います。
デジタルツインの裏側にある考え方の一つ
Digital Threadという言葉を調べてみると、非常に大きな概念のように説明されていることがあります。
しかし、Digital ThreadをDigital Twinと同格の新しいDX概念として捉える必要はないでしょう。
Digital Twinが、現実世界の対象とデジタル上の情報を結びつける考え方だとすれば、Digital Threadは、その対象について蓄積されるさまざまな情報を、ライフサイクルを通じてつないでいく考え方です。
特に製造業やPLM、システムズエンジニアリングなどでは重要な概念ですが、Digital Twinほど広い分野で一般的に使われる言葉ではありません。
むしろDigital Twinについて調べているときに、
- そのデジタル上の対象には、どこから来たデータが入っているのか
- 設計時の情報と運用時の情報はどうつながっているのか
- この設備について、過去の情報をどこまで追跡できるのか
といった疑問が出てきたとき、その背景にある考え方としてDigital Threadを見ると分かりやすいでしょう。
結局のところ、Digital Threadの本質は「データを大量に集めること」ではありません。
一つの対象について、ライフサイクルのさまざまな場所で生まれた情報を、その対象との関係を保ったままつないでおくこと。
それによって、設計から製造、運用、保守までを情報の面から連続して扱えるようにすることです。
名前は少し大げさですが、考えていること自体は、デジタル化が進んだ製品・設備管理において非常に自然な発想だと言えます。
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