Crafting AppsはAdobeをどこまで置き換えられるのか?
Crafting Appsは、PhotoCraft、VectorCraft、FilmCraftなど7つのアプリでAdobe Creative Cloudの主要用途を置き換えようとするオープンソースのクリエイティブスイートです。本記事では、各アプリの現時点での実力、Adobeとの機能差、Rust・ローカルファースト設計、AIエージェント/MCPによる操作、プロの制作現場での実用性と今後の可能性を整理します。

目次
新しいクリエイティブスイートを構築する7つのオープンソースツールを分析
Crafting Appsのラインアップを見ると、まずはっきりと分かることがあります。それは、Photoshopに対抗しようとする単一のソフトウェアではないということです。むしろ、Adobeが現在Photoshop、Illustrator、Premiere Pro、Lightroom、Acrobat、After Effects、InDesignに分けて提供している各種作業を、それぞれ対象とする7つのアプリケーションから成るエコシステムです。
さらに興味深いのは、このシステム全体がRustで開発され、オープンソースかつローカルファーストのアプローチを採用し、AIエージェント/MCPによる操作にも対応するよう設計されている点です。プロジェクトの公式サイトには、現在、PhotoCraft、VectorCraft、FilmCraft、LightCraft、PrintCraft、EffectCraft、DesignCraftの7つのアプリケーションが掲載されています。
ただし、重要な違いを理解しておく必要があります。
Crafting Appsは、方向性やアーキテクチャという点では非常に興味深い競合プロジェクトですが、プロフェッショナルな制作現場においてAdobe Creative Cloudを完全に置き換えられる段階には、まだ達していません。
そして、「ある作業ができること」と「プロの制作ワークフローを置き換えられるほど成熟していること」の間にある隔たりこそが、このプロジェクトを分析する価値のあるものにしています。
Crafting AppsはAdobeと何が違うのか?
Adobeは現在、非常に大規模なエコシステムを提供しています。Creative Cloud Proには20を超えるアプリケーションが含まれ、Photoshop、Illustrator、Premiere、After Effects、InDesign、Lightroom、Acrobatなどが中核を担っています。
一方、Crafting Appsは異なるアプローチを採用しています。

このプロジェクトが特に興味深いのは、そのアーキテクチャです。
Crafting Appsは、PhotoshopやPremiereのインターフェースを単純に再現しようとしているわけではありません。
代わりに、次のような構造を中心にエンジンを構築しています。
UI → Command → Engine → CLI / JSON / MCP → AI Agent
たとえばPhotoCraftでは、UI、CLI、JSON制御チャネル、MCPを通じて500以上のコマンドにアクセスできるとされています。
つまり、AIエージェントはユーザーにボタンの場所を教えるだけでなく、アプリケーション内部で実際の操作を実行できる可能性があります。
これは最終的に、このプロジェクトの最も重要な特徴になるかもしれません。
Crafting AppsとAdobeの対応関係

概念的に見れば、これはいわば「オープンソース版Creative Cloud」です。
ただし、各アプリケーションの成熟度には、現時点で大きな差があります。
1. PhotoCraft vs Photoshop
PhotoCraftは、現在特に注目を集めているアプリケーションの一つです。
Rustを使用し、Photoshopをクリーンルーム方式で再実装するプロジェクトとして開発されています。
すでに以下の機能を備えています。

評価
Photoshopを置き換えられる現時点での能力:基本から中級レベルの2D作業で約40~60%。
ただし、プラグイン、AI、高度な機能、複雑なエコシステム連携に大きく依存するプロ向け制作ワークフローでは、代替能力は大幅に低くなります。
2. VectorCraft vs Illustrator
VectorCraftは、技術的な観点から見ても特に興味深いプロジェクトの一つでしょう。
Illustratorを直接の対象とし、すでに以下の機能を備えています。

評価
Illustratorを置き換えられる現時点での能力:一般的なベクターイラスト制作で約50~65%。
標準的なベクター描画、イラスト制作、デザイン作業においては、すでに大きな可能性を示しています。
3. FilmCraft vs Premiere Pro
FilmCraftは、特に興味深い事例です。
単なる基本的な動画編集ソフトではありません。
このプロジェクトは、以下の機能を備えたPremiere Proのクリーンルーム方式による再実装を目指しているとしています。

評価
Premiere Proを置き換えられる現時点での能力:約30~45%。
次のような用途では、大きな可能性があります。
- YouTube
- SNS向け動画
- 基本的な動画編集
- ドキュメンタリー
- シンプルな広告コンテンツ
一方、次の用途では、Premiere Proを置き換えられる段階にはまだ達していません。
- 放送向け制作
- 映画制作
- 複雑な商業映像制作
4. LightCraft vs Lightroom
LightCraftは、特に興味深いアプローチを採用しています。
単なるRAW現像ソフトではなく、次のような機能を備えた環境を目指しています。
写真ライブラリ+RAW現像+非破壊編集ワークフロー

評価
Lightroomを置き換えられる現時点での能力:一般的な写真家の用途で約50~70%。
非常に大規模な写真カタログを管理し、Camera Rawや高度なAIマスキング機能に強く依存するプロの写真家にとっては、依然として大きな差があります。
5. PrintCraft vs Acrobat
Adobeとの機能差が比較的大きい分野の一つです。

評価
Acrobatを置き換えられる現時点での能力:約20~40%。
主な用途が次のようなものであれば、置き換えは十分に現実的です。
- PDFの閲覧
- PDFの結合
- PDFの分割
- PDFの整理
しかし、Acrobatを次の用途に使用している場合、Crafting Appsはまだ十分ではありません。
- OCR(光学文字認識)
- 電子署名
- プリフライトチェック
- アクセシビリティ対応
- 企業向けPDFワークフロー
6. EffectCraft vs After Effects
おそらく、Adobeとの隔たりが最も大きい分野です。

評価
After Effectsを置き換えられる現時点での能力:約15~30%。
現時点では、プロの制作現場でAfter Effectsの代替として使用することは、私はおすすめしません。
ただし、ノードベースのアーキテクチャとAIエージェント機能の開発が進めば、このスイートの中でも特に興味深いプロジェクトの一つになる可能性があります。
7. DesignCraft vs InDesign
DesignCraftも興味深い事例です。

評価
InDesignを置き換えられる現時点での能力:約30~50%。
次のような用途では、今後の進展を注視する価値があります。
- 雑誌
- パンフレット
- エディトリアルデザイン
- 基本的な出版物の制作
一方、大規模なプロ向け出版制作には、まだ対応しきれていません。
総合評価
マーケティング上の主張やスクリーンショットだけを見るのではなく、現時点でAdobeをどこまで置き換えられるかを評価すると、全体像がより明確になります。

ここで重要なのは、これらのパーセンテージが、機能やワークフローのカバー範囲を示すものであり、ソフトウェアの品質や、Adobeの機能のうち何%が再現されているかを示すものではないという点です。
機能のカバー率が50%のアプリケーションでも、特定のユーザーグループのニーズの80~90%を満たせる場合があります。
Crafting Appsを実際に使ってみた感想
現在、私は3Dデザイナーとして仕事をしていますが、日々の業務のすべてが3D制作だけで占められているわけではありません。
テクスチャの作成や処理、2Dグラフィックの描画・編集、クライアントから提供されるIllustratorファイルの処理、2D・3Dアニメーションの制作、ゲーム向けの短い動画の制作なども頻繁に行っています。
私の仕事では、非常に専門性の高い機能や、極めて大規模な2Dプロジェクトに依存する場面はそれほど多くありません。
そのため、Crafting Appsをしばらく試してみた結果、全体的にかなり好印象を持ちました。
インストールが速く、簡単
インストール手順は分かりやすく、軽量です。すぐにアプリケーションを使い始めることができます。
操作に慣れやすい
インターフェースやキーボードショートカットにはAdobe製品と共通する点が多く、新しいツールに移行しても、基本操作を一から学び直す必要はほとんどありませんでした。
実際の業務ニーズを十分にカバーできる
テクスチャ処理、画像編集、ベクター作業、Illustratorデータの取り扱い、各種2Dグラフィック作業など、普段よく行う業務については、Crafting Appsで現在のニーズの約80%をカバーできています。
もちろん、Crafting Appsは現在も活発に開発が進められているため、すべてのワークフローでAdobeを完全に置き換えられるわけではありません。
特にモーショングラフィックス、コンポジット、複雑なVFXを扱う仕事では、引き続きAfter Effectsを使用するつもりです。
モデルのテクスチャ用に複数のカラーバリエーションを作成するため、PhotoCraftを試してみてください。

低画質の画像からベクターロゴファイルを作成するため、VectorCraftを試してみてください。

EffectCraftで動画エフェクトの制作も試してみてください。

しかし、だからこそCrafting Appsには期待しています。
プロジェクトが着実に発展し、特にモーショングラフィックスやVFXなどの高度なツールが充実していけば、Adobeのエコシステムへの依存を減らしたいデザイナーにとって、実用的な選択肢になる可能性があると考えています。
Crafting Appsの本当の脅威は、無料であることではない
単純に、
「Crafting Appsは無料だ。だからAdobeはユーザーを失う」
と考えるだけでは、全体像を捉えられません。
より重要なのは、Crafting AppsがAIによってアプリケーションを直接操作できるように設計されている点です。
AdobeもAIとFireflyに大規模な投資を行っています。Creative Cloudでは、多くのアプリケーションやサービスに生成AIが統合されています。
しかし、Crafting Appsは異なるアプローチを取っています。
AIは単に素材を生成するためだけに使われるのではありません。
AIエージェントは、将来的に次のような操作を実行できる可能性があります。
- ファイルを開く
- ファイルの構造を読み取る
- レイヤーを変更する
- 色を変更する
- ベクターを作成する
- タイムラインを編集する
- 結果をエクスポートする
- 出力結果を確認する
たとえばPhotoCraftやVectorCraftでは、AIエージェントが個々の作業を支援するだけでなく、クリエイティブ制作のワークフロー全体を実行できるようになる可能性があります。

これは、既存のソフトウェアにAIボタンを一つ追加するような話ではありません。ソフトウェアのアーキテクチャそのものに関わる違いです。
Rust+AIアーキテクチャ
各アプリケーションはRustで開発されており、次のプラットフォームへの対応を想定しています。
- macOS
- Windows
- Linux
- Web
目標は、次の環境を共通のエンジンで支えることです。
デスクトップ+Web+CLI+AIエージェント
MCPによって、AIシステムはアプリケーションを直接操作できるようになります。
それでもAdobeには大きな強みがある
Crafting AppsがまだAdobeを置き換えられない領域を挙げるとすれば、大きく5つに分類できます。
### 1. エコシステム
Adobeには、相互に連携する20以上のアプリケーションとサービスがあります。
### 2. 制作環境としての成熟度
Adobe製品は成熟しており、安定性が高く、大規模なプロ向け制作現場で実績を積み重ねています。
### 3. 互換性
Adobeは数十年にわたり自社のファイル形式をサポートしてきたほか、その形式を中心に巨大なエコシステムを築いてきました。
### 4. プラグイン
Adobeアプリケーションには、数千ものプラグイン、スクリプト、拡張機能が用意されています。
### 5. AI
AdobeにはFireflyがあり、エコシステム全体にAI機能が深く統合されています。
Crafting Appsは今すぐAdobeを置き換えられるのか?
短期的な答えは、いいえ、です。
もし今日、プロの制作スタジオから、
「Adobeを完全にやめてCrafting Appsに移行できますか?」
と聞かれたら、私の答えはこうです。
「まだその段階ではありません。」
しかし、質問が、
「Adobeへの依存を減らしたい場合、Crafting Appsは注目すべきオープンソースプロジェクトの一つですか?」
というものであれば、答えは間違いなく「はい」です。
実際、私が最も注目すべきだと考えているのは、PhotoCraftにPhotoshopと比べて何個のツールがあるか、ということではありません。
重要なのは、**AIエージェントを前提に設計されたクリエイティブソフトウェア(Agent-Native Creative Software)**です。
今後の開発の方向性
ステージ1 — Adobeの代替
基本的なクリエイティブワークフローを置き換える。
ステージ2 — Adobeとの互換性
次のような既存のクリエイティブ形式を中心に、安定したワークフローを提供する。
PSD / SVG / PDF / IDML など。
ステージ3 — AIエージェントネイティブなクリエイティブスイート
AIはユーザーを支援するだけではありません。アプリケーションを直接操作します。
ユーザー → AIエージェント → MCP → Crafting Apps → 自動化されたワークフロー
この段階に到達すれば、Crafting Appsは単なる無料の代替ソフトウェアの集合を超え、はるかに大きな意味を持つプロジェクトになる可能性があります。
結論
機能一覧だけを見れば、Crafting Appsは依然としてAdobeに大きく遅れています。
制作環境としての成熟度を考慮すると、その差はさらに大きくなります。
しかし、アーキテクチャと将来の方向性に注目すると、まったく違う見方ができます。
Crafting Appsが目指しているのは、次のソフトウェア群を、
Photoshop+Illustrator+Premiere+Lightroom+Acrobat+After Effects+InDesign
異なる理念に基づいて構築することです。
オープンソース+Rust+ローカルファースト+クロスプラットフォーム+AIエージェント+MCP
だからこそ、私はCrafting Appsを単なる「無料のAdobe代替ソフト群」とは捉えていません。
それ以上に興味深い存在です。
Crafting Appsは、新しいモデルを実験しています。
「AIがアプリケーションを直接操作できるクリエイティブスイート」です。
2026年10月時点で、私はこのプロジェクトを次のように評価します。
- Adobeの機能を置き換える能力:★★★☆☆
- プロの制作現場ですぐに使える成熟度:★★☆☆☆
- PSD/SVGなどの形式との互換性:一部のアプリケーションでは★★★★☆
- オープンソース:★★★★★
- クロスプラットフォーム対応:★★★★★
- AI/MCPの将来性:★★★★★
- 長期的な可能性:★★★★★
要するに、
現時点では、エコシステムの規模と成熟度でAdobeが優位に立っています。
一方、Crafting Appsは、AI時代を見据えたソフトウェアアーキテクチャという点で、非常に興味深い強みを持っています。
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