座標系と投影法の基礎知識(EPSGコード、WGS84、Web Mercator、平面直角座標系)
GISやWeb地図開発で必須となる座標系(CRS)と投影法を基礎から解説。EPSG:4326、WGS84、EPSG:3857、Web Mercator、日本の平面直角座標系の違い、座標変換・再投影、用途別の使い分けまで、実務で迷わないためのポイントを整理します。

目次
- なぜGISデータはアフリカの沖合に飛んでいくのか?
- 実例:東京庁舎がアフリカ沖に飛ぶトリック
- 座標系を理解するための「3つのステップ」
- ステップ1:地球のカタチを決める「地理座標系(Geographic Coordinate System)」
- 世界標準の「WGS84」
- ステップ2:丸い地球を平らに伸ばす「投影座標系(Projected Coordinate System)」
- ① Web Mercator(ウェブメルカトル)── Webマップの統一王者
- ② 平面直角座標系(JGD2011)── 日本国内の測量・GISの絶対基準
- ステップ3:呪文を解く「EPSGコード」
- 【保存版】実務で絶対に暗記しておくべき主要EPSGコード表
- 実務での「座標系・変換」使い分けフローチャート
- よくある実務での「座標変換(On-the-Fly / 再投影)」シナリオ
- まとめ
GIS(地理情報システム)やWebマップアプリの開発に携わった人が、ほぼ100%の確率で遭遇する「謎の現象」があります。
「データを読み込んだら、日本の建物がアフリカの沖合(大西洋)に飛ばされた」
「Googleマップの上に避難所の位置を重ねたら、全体的に右上へ数十メートルズレている」
「QGISで建物の面積を計算したら、実際の何倍も異常にデカい数値が出てきた」
これらのトラブルの原因は、データそのものの入力ミスではありません。すべての元凶は「座標系(CRS)」と「投影法」の理解不足にあります。
「WGS84」「Web Mercator」「平面直角座標系」「EPSG:4326」といった呪文のような専門用語群は、一見すると数学や測量学の難解な壁に見えます。しかし、その根本的な仕組みと「選び方のルール」さえ一度理解してしまえば、二度とデータがアフリカに飛ばされることはありません。
今回は、GIS初心者からWebエンジニアまでを対象に、実務で絶対に押さえておくべき座標系と投影法の基礎知識を約5,000字で徹底解説します!
なぜGISデータはアフリカの沖合に飛んでいくのか?
まず、冒頭で触れた「データがアフリカの沖合(大西洋・ギニア湾)に飛んでいく恐怖の怪現象」の種明かしから始めましょう。
多くの場合、初学者は「値を入力し忘れて (0, 0)になったのかな?」と考えます。もちろん値の入れ忘れケースもありますが、値が正しく入っているにもかかわらず、アフリカ沖へ飛ばされる事例が絶えません。
その理由は、「度」と「メートル」という単位の取り違いにあります。
実例:東京庁舎がアフリカ沖に飛ぶトリック
具体例として、「東京都庁」の位置データを考えてみましょう。
- GPSの生データ(緯度・経度):
- 東経: 139.6917 度
- 北緯: 35.6895 度
- Webマップ表示用のデータ(原点からの距離):
- X = 15,550,422 メートル
- Y = 4,258,073 メートル
ここで、メートル単位で空間を計算している地図システムの中に、「度」単位で記録されたデータ(139.6917, 35.6895)を、座標系の設定を忘れたまま(あるいは間違えて)放り込んだとします。
するとシステムは、その数値をそのまま地図の単位に合わせて解釈します。つまり、「原点(本初子午線と赤道が交わる点=アフリカ沖・ギニア湾)から、東に139メートル、北に35メートル行った場所」にデータを配置してしまうのです。
139メートルや35メートルという距離は、地球規模のスケールで見れば「原点そのもの(ほぼ誤差)」です。結果として、東京にあるはずのデータがアフリカの沖合へ大ジャンプすることになります。
データが飛ぶ理由は「値がないから」ではなく、「数値を評価する単位(座標系)のルールがシステム間で食い違っているから」なのです。
座標系を理解するための「3つのステップ」
座標系や投影法の全体像を把握するには、難しく考えず次の3つのステップ(概念)を順番に積み重ねるのが近道です。
- 地球のカタチを決める(地理座標系 / 測地系)
- 丸い地球を平らな紙に伸ばす(投影法 / 投影座標系)
- 番号で一発指定する(EPSGコード)
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ステップ1:地球のカタチを決める「地理座標系(Geographic Coordinate System)」
地球は完全な球体ではなく、自転の遠心力によって「赤道付近が少し膨らんだ歪んだ楕円体(地球楕円体)」をしています。さらに、標高や重力の微妙な違いによって表面はボコボコです。
この複雑な地球の位置を「角度(緯度・経度)」で表現するためのルールが地理座標系(または測地系)です。
世界標準の「WGS84」
現代において、最も広く使われている世界共通の地理座標系が WGS84(World Geodetic System 1984) です。
- 特徴: GPS(全地球測位システム)の基準として策定された世界共通ルール。
- 単位: 「度(Degree)」(例:東経139.6917度、北緯35.6895度)
- 主な用途: スマホのGPS位置情報、航法ナビゲーション、GeoJSONなどの軽量データフォーマット。
【注意】日本の旧測地系(Tokyo Datum)とのズレ
かつて日本国内では、明治時代に作られた「日本測地系(Tokyo Datum / 旧日本測地系)」が使われていました。この旧測地系のデータをそのまま現在のWGS84やJGD2011(日本測地系2011)に重ねると、**「データが右上に約400メートルズレる」**という現象が起きます。「数メートル〜数百メートルの微妙な位置ズレ」が発生した場合は、この測地系の違い(新旧の変換忘れ)を疑ってください。
ステップ2:丸い地球を平らに伸ばす「投影座標系(Projected Coordinate System)」
WGS84のような「角度(緯度・経度)」のままだと、1つの問題が生じます。「角度のデータでは、距離や面積の計算がものすごく大変」だということです。
地球上の「緯度1度」の長さは、赤道付近と極地方で異なります。平らなパソコン画面や紙の地図で「2点間の正確な距離(メートル)」や「建物の面積(平方メートル)」を瞬時に計算するためには、3Dの丸い地球を2Dの平らな面に歪みを覚悟で切り開いて伸ばす作業が必要になります。
この「丸い地球を平らに伸ばすルール」のことを投影法(Map Projection)と呼び、それによって定義されたメートル単位の座標系を投影座標系と呼びます。
実務で必ず押さえるべき2大投影座標系が「Web Mercator」と「平面直角座標系」です。
① Web Mercator(ウェブメルカトル)── Webマップの統一王者
- 別名: Pseudo-Mercator、Spherical Mercator
- 単位: 「メートル(m)」
- 中心的な用途: Googleマップ、OpenStreetMap、Bing Maps、国土地理院Vectorなど、ほぼすべてのWeb地図サービス。
Web Mercatorは、16世紀に考案された「メルカトル図法」をWeb時代に合わせて改良したものです。世界全体を正方形の画像タイルに収めることができるため、Webブラウザ上でズームイン・ズームアウトを行う地図表示において圧倒的な扱いやすさを誇ります。
Web Mercator のメリットと決定的な弱点
- メリット: 方角が正しく保たれるため、画面上で北を上にスクロールするナビゲーション画像として使いやすい。
- 弱点: 赤道から離れる(高緯度へ行く)ほど、面積が極端に巨大化して歪む。
有名な例として、Web Mercatorの地図上では「グリーンランド」が「アフリカ大陸」と同じくらいの大きさに見えますが、実際の面積はアフリカ大陸の約14分の1しかありません。
そのため、Web Mercatorの地図上で「日本の面積」や「敷地の面積」を測量計算しようとすると、実際の値から大きく外れた計算結果になってしまいます。Web Mercatorはあくまで「画面に地図を表示するための視覚用座標系」と割り切るのが正解です。
② 平面直角座標系(JGD2011)── 日本国内の測量・GISの絶対基準
- 単位: 「メートル(m)」
- 中心的な用途: 都市計画、土木・建設・測量、自治体の課税・道路管理、PLATEAUのBIM/CADデータなど。
「面積や距離をミリ単位・センチ単位で正確に計算したい」という日本の実務現場のために作られたのが平面直角座標系です。
地球全体を一括で平らに伸ばそうとすると、どうしてもどこかで巨大な歪みが発生します。そこで日本政府は、「日本全国を19の地域(第I系 〜 第XIX系)に細切れに分割し、それぞれのエリアの中心を原点として平らに伸ばす」という手法をとりました。
19の区域(系)の選び方ルール
各地域ごとに原点が設定されており、狭いエリアに限定して平面化を行うため、領域内での距離や面積の歪みが極めて小さく(誤差約1/10,000以内)抑えられます。
- 第I系: 九州西部(長崎・鹿児島など)
- 第IX系: 東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、山梨県、静岡県など(首都圏は第9系!)
- 第XIX系: 南鳥島など
自治体業務や建設業界、国土交通省の「PLATEAU」などで3DデータやCADデータを扱う場合、この平面直角座標系(メートル単位)でデータが作成・管理されているケースが非常に多くなります。
ステップ3:呪文を解く「EPSGコード」
ここまで解説してきたように、座標系には「WGS84」「Web Mercator」「平面直角座標系 第IX系」など、様々な名前があります。しかし、システム開発において「WGS 84 / UTM zone 54N」のような長い文字列を入力させるのは間違いの元です。
そこで、世界中のあらゆる座標系や測地系に「4〜5桁の識別背番号(標準コード)」を割り振る仕組みが作られました。それが EPSG(イーピーエスジー)コード です。
(※石油メジャーの国際団体「OGP」に吸収されたEPSGという組織のデータベースが由来です)
実務では、この「EPSGコード」の数字だけを覚えておけば、GISソフト(QGISやArcGIS)やプログラムコード内で一発指定ができます。
【保存版】実務で絶対に暗記しておくべき主要EPSGコード表
| EPSGコード | 座標系・投影法の正式名称 | 単位 | 用途・特徴 |
EPSG:4326 | WGS 84 | 度 | GPSの生データ、GeoJSON。緯度経度で表す世界標準。 |
EPSG:3857 | WGS 84 / Web Mercator | メートル | Googleマップ、Web地図全般。画面表示用の標準。 |
EPSG:6668 | JGD2011 | 度 | 日本の最新測地系(緯度経度)。東日本大震災後の地殻変動を反映。 |
EPSG:6669〜6687 | JGD2011 / 平面直角座標系 第I系〜第XIX系 | メートル | 日本の測量・都市計画・BIM/CAD用。首都圏(9系)は 6677。 |
プログラムを書く際やQGISで検索欄に入力する際は、EPSG:4326 や EPSG:3857 と打つだけで、背後にある複雑な数学的定義がすべて自動で適用されます。
実務での「座標系・変換」使い分けフローチャート
最後に、GIS実務やWeb開発でトラブルを起こさないための「座標系の選び方・変換ルール」を整理しましょう。
【Q1】 今扱っているデータの単位は?
├── 「度(例: 139.69, 35.68)」 ──► 【 EPSG:4326 (WGS84) 】
└── 「メートル(例: 15550422, 4258073)」 ──► Q2へ進む
【Q2】 そのメートルのデータの目的は?
├── Webブラウザ上に地図として表示・重畳したい ──► 【 EPSG:3857 (Web Mercator) 】
└── 正確な面積計算、CAD/BIM連携、測量データである ──► 【 EPSG:6669〜6687 (平面直角座標系) 】
よくある実務での「座標変換(On-the-Fly / 再投影)」シナリオ
シナリオA:スマホのGPSデータ(度)をWebマップ(メートル)に表示したい
- スマホから送られてくる座標(
EPSG:4326)を受け取る。 - Webマップライブラリ(LeafletやMapLibre等)に読み込ませる際、ライブラリ内部で自動的に
EPSG:3857(Web Mercator)へ座標変換を行って画面上にプロットする。
シナリオB:PLATEAUのデータ(平面直角座標系)で建築物の面積を正確に求めたい
- 国土交通省からダウンロードした建築データ(平面直角座標系 第IX系:
EPSG:6677など)をQGISに読み込む。 - 単位が「メートル」になっていることを確認した上で、ポリゴンの面積計算関数を実行する(正しく平米数が算出できる)。
- 算出された結果をWeb表示用に書き出す時だけ、
EPSG:4326(GeoJSON)やEPSG:3857へ「再投影(Reproject)」変換して出力する。
まとめ
座標系と投影法の基本について解説してきました。今回の重要なポイントをもう一度おさらいしておきましょう。
- データがアフリカ沖に飛ぶ原因は「度」と「メートル」の混同。 空間の単位が合っていないと、数値が原点付近(本初子午線と赤道の交点)へ飛んでいく。
EPSG:4326(WGS84)は「度」の世界標準。 GPSやデータの保持・やり取りに使う。EPSG:3857(Web Mercator)は「Web地図表示」の標準。 見栄えは良いが面積計算には使えない。EPSG:6669〜6687(平面直角座標系)は「日本の精密測量」の標準。 日本を19に分けて歪みを抑えたメートル単位の座標系。- EPSGコードを使えば、ややこしい表記を一発でシステムに指定できる。
一見すると複雑な数学の世界に見える座標系ですが、ルールと主要なEPSGコードさえ覚えてしまえば決して怖いものではありません。
「今扱っているデータの単位は『度』なのか『メートル』なのか?」
「表示したいのか、計算したいのか?」
この2点を常に意識して、トラブルのない快適なGISライフ&開発を進めていきましょう!
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