ベトナムならではの物流インフラ「内陸水路輸送」、状況と今後の可能性(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/6/24)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく「石黒が選ぶベトナムのニュース紹介」、第39回目。
今回は、ベトナムの経済成長を支える「ロジスティクス(物流)インフラ」の中で、あまり知られていない「内陸水路(河川)輸送」にスポットを当てます。
網の目のように河川や運河が走る国土でありながらも、十分に利用しきれていないとされる広大な水路網をどのように活用していくのかについて報道から読み解いていきます。
2026年5月21日のニュース(原文はベトナム語)
内陸水路を開放して物流を強化する。
1. メコンデルタの水路というインフラ整備
南部メコンデルタに位置するビンロン省の地方紙「Bao Vinh Long」によると、ベトナム政府および各地方自治体は、高止まりする物流コストを抜本的に削減するため、内陸水路輸送を効率化するインフラ整備に乗り出しています。

ベトナム、特に南部エリアは世界屈指の豊かな河川網を有していながら、これまでは「橋の高さ(桁下空間)が低くて大型船が通れない」「港湾の積み替え設備が貧弱」といった理由から、そのポテンシャルを十分に活かしきれていませんでした。

現在、河川などを使った貨物輸送コストは道路輸送よりも大幅に低く、農産物、建設資材、コンテナ輸送などにも適しています。そこで水深を深くして船舶の運航を可能とするよう浚渫工事やインフラ整備が急ピッチで進められています。
2. ニュースの背景にある「ベトナムのリアルな事情」
日本では現在、あまり馴染みのない河川(水路)を使った輸送。ベトナムにおける状況を各種の数字データなどから見ていきます。
2-1. 輸送量に比べて予算が少ない水路輸送インフラ整備
ベトナムは主に西側の山岳地帯から東側の南シナ海にかけて無数の河川や運河が走っており、その総延長は約4万2,000キロメートルにも及びます。しかし水路輸送の能力は十分に活用されておらず、実際に商用輸送に用いられているのは、全体の41.2%にあたる17,026kmに過ぎません(貨物港202か所、埠頭6,274箇所)。(2025年8月3日のベトナム語の報道より)
そんな水路輸送ですが、実はベトナムにおける全輸送貨物量の最大20%を担っています。道路輸送の50%に次ぐ、極めて重要な物流手段であることが分かります。

しかし、インフラ整備にかける投資額を見ると、驚くほどの歪な格差があります。現在、ベトナムのインフラ投資額はGDPの約5.7%を占めるほど規模が大きく、2024年だけでも運輸インフラへの総投資額は約270億ドル(約4兆円以上)に達しました。
その投資額の内訳を見ると、約60%が道路、10%が鉄道に割り当てられたのに対し、水路輸送へはわずか2〜2.5%しか回されていません。輸送量と投資額の比率を見れば、道路がほぼ同等(シェア50%に対し投資60%)であるのに対し、水路は極端に冷遇(シェア20%に対し投資2.5%)されているのが現状です。(2025年10月10日のベトナム語の報道より)
またベトナム政府も、2026年度の内陸水路維持管理計画において、計6,800kmを超える水路(北部46箇所、中部26箇所、南部61箇所)の維持・管理に1兆1,200億ドン(約69億円)の予算を組んではいるものの、距離や重要度に対して予算総額はまだまだ少ないと言わざるを得ません。
2-2. 水路輸送の地域差
またもう1つ重要なポイントは、地域差も大きいという点です。
現在、北部にある南シナ海に面したハイフォン港へと運ばれる貨物のうち、河川や沿岸ルートで輸送されているのはわずか約2%に過ぎないとされていますが、南部で同様の港への貨物だと30%に達しています。これは、北部においてインフラなどの面から水路輸送が十分に活用されていないともいえます。(2025年10月10日のベトナム語の報道より)

ベトナム海事内陸水路局の統計によると、ベトナム国内にある水路船舶は、約23万5000隻で総トン数は1,960万トン超とあります。単純計算すると、1隻あたり83.4トンになります。
その船舶がある場所ですが、88%にあたる19万9000隻が南部に集中しています。
一方で北部は船の数は少ないものの、1隻あたりの平均は、約350トンであり、全国平均の4倍の大きさであることから、北部にはサイズの大きな船が少数、南部には小型船が多数という地域差が見て取れます。(2026年1月28日のベトナム語の報道より)
2-3. 船舶と運航会社
水路で実際にモノを運ぶ「船」そのものにも大きな課題があります。
船舶の平均船齢は約14年と老朽化が進んでおり、燃費の悪さが指摘されています。統計によると、内陸水路を航行する船舶の約60%が依然として旧式のエンジンを使用しており、環境汚染を引き起こす原因となっています。
一方で、最新のIT技術を搭載した船舶の割合は非常に低く、大型貨物船やコンテナ船のうち、GPSや航海管理ソフトウェア、燃料監視システムを搭載しているのはわずか約20%に過ぎません。

その背景にあるのが、「運送会社の多くが、資金力の弱い小規模・零細企業で構成されている」という事実です。資金がないため近代化や規模の拡大ができず、結果として従来の古いスタイルのまま価格競争に巻き込まれ、さらに設備の更新がままならなくなる、という深刻な悪循環に陥っています。(2026年1月28日のベトナム語の報道より)
3. 筆者(石黒)が注目したポイント:
内陸水路輸送というのは、豊かな地理的条件を上手く活用したベトナムならではの強力な輸送手段ですが、これまでの報道から見えてくるのは、せっかくのポテンシャルを国としても企業としても十分に活かしきれていないという、もったいない状況です。
現在、ベトナム国内のロジスティクスコストはGDP比で約16〜18%と東南アジアで最も高い水準にあり、製造業などの製造コストや企業競争力にとって大きな足枷となっています(タイは約14%、マレーシアは約13%)。水路輸送をアップデートして効率よく活用できるようになれば、この国家的な課題であるコスト削減に直結することは間違いありません。
その際、私が今後のビジネスチャンスとして重要になると感じたのは、政府が進める物理的なインフラ(浚渫や港湾整備)もさることながら、「物流を効率化するITプラットフォームサービス」の存在です。
先述の通り、ベトナムの水路運送会社は小規模・零細企業が大半を占めています。彼らは「行きは荷物があるけれど、帰りの船は空っぽ(空船)」という非効率な運用をしてしまいがちです。
ここに、荷主と運送会社をリアルタイムで結びつけ、帰り荷を含めて効率よく集荷・マッチングできるような「配車(配船)プラットフォーム」や「運行管理システム」を導入できれば、零細企業の収益性は劇的に改善し、設備投資への原資が生まれます。
物理的なインフラが「開放」されようとしている今だからこそ、その上を走るデータを最適化するソフト面のインフラ、すなわち社会的ニーズの高い「物流DXサービス」の立ち上げに、大きなビジネスチャンスが眠っているのではないか。そんなワクワクさせる未来を感じたニュースでした。

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