100万人以上の男性が四半世紀に渡って結婚難に!? 男女比の不均衡がもたらす社会の歪みとビジネスチャンス(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/7/13)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく「石黒が選ぶベトナムのニュース紹介」、第52回目。
今回は、ベトナムの構造的な社会問題である「出生時男女比の深刻な不均衡」にスポットを当てます。
現在のベトナムでは、生まれてくる赤ちゃんの男女バランスが大きく歪んでおり、近い将来「100万人以上の男性が結婚相手を見つけられなくなる」という残酷な未来予測が公式に報じられています。現地の最新の報道から、そのリアルな数字と背景にある歪みを読み解いていきましょう。
2026年7月8日ベトナムメディアPHU NU PHAP LUAT紙の報道
ベトナムでは100万人以上の男性が余剰となっている可能性がある。男性人口が女性人口を上回っている地域はどこか?
1. 数字で見るベトナムの出生時男女比の「異常値」
通常、人間の自然な状態での出生時男女比(女児100人に対して男児が何人生まれるか)の正常値は「104〜106」とされています。
男児の方が乳幼児期の死亡率がわずかに高いため、成人する頃にちょうど1対1のペアになるよう、このバランスに落ち着くのが生物学的な神秘とされています。しかし、現代では医学の進歩によって男児の死亡率が下がり、結果的に男性の方がわずかに多くなるというのは、日本を含めた先進国や衛生環境が改善した世界各国で見られる普遍的な事象です。
(参考までに2019年時点の日本では、29歳時点で女性100に対して男性104となり、男性が4人多い状態です。日本医事新報社の記事より)

しかし、ベトナムの国家統計が指し示す2022年のベトナム全土平均の出生時男女比は、女児100人に対して男児が「112.1人」と、正常値をはるかに逸脱しています。しかもこれは一時的なものではなく、過去20年以上にわたってずっと継続している深刻な傾向でもあります。
1-1. 男余りが発生する残酷な未来
この歪みの結果として、ベトナム統計総局が発表した最新の「2024年から2074年までの人口予測報告書」には、非常にショッキングな未来が描かれています。
直近の2024年中間国勢調査の時点で、すでに20歳〜39歳の結婚適齢期世代において、男性が同年齢の女性より「約41万5,200人」も多いことが発表されました。
さらに、今から8年後の2034年にはその差が約71万1,700人にまで増加すると予測されており、これはその時点における同世代の男性人口の4.9%に相当する余剰となります。
そして、このジェンダー不均衡の最悪のピークは2049年に到来すると予測されています。その差は約134万6,000人にまで膨れ上がり、同年齢層の男性の実に「8.7%」が、構造的にパートナーを見つけられない計算になります。

上記のシミュレーションの通り、2040年代から2060年代半ばにかけての四半世紀にわたり、ベトナムでは結婚適齢期の男性が女性よりも毎年100万人以上も過剰に存在するという、深刻な「結婚難」の時代が確実にやってくると警告されています。
2. ニュースの背景にある「ベトナムのリアルな事情」
なぜ、これほどまでに女の子に対して男の子ばかりが生まれてくるのでしょうか。背景を紐解くと、新興国が急激に豊かになるプロセスの中で、「古い伝統の呪縛」と「最先端テクノロジー」が最悪の形で噛み合ってしまった、3つの生々しい事情が見えてきます。
2-1. 根強く残る「重男軽女」の儒教的価値観
ベトナム社会、特にお正月の親族の集まりなどでは「家系(苗字)を存続させるのは男性である」「老後の面倒は息子夫婦に見てもらうものだ」という、儒教由来の「重男軽女(男児選好)」の考え方がいまだに強固に残っている地域があります。
この傾向は、歴史的に中国の歴代王朝から直接的な影響を強く受けてきた「ベトナム北部」において特に顕著であり、実際の出生データに恐ろしいほどの地域格差として現れています。
◆南部(ホーチミン市など):
2026年上半期の出生数36,103人の内訳は女児17,427人、男児18,676人。出生時男女比は「107.16」であり、自然な正常値に比較的近いバランスを保っています。(2026年7月10日現地報道より)。
◆北部・北西部(山岳地帯や紅河デルタ):
一方で北西部のソンラ省では、過去10年間の出生時男女比が「116.4〜120.7」という世界でも類を見ないほどの異常値で推移しています(※2016年の120.7から、2025年には118.0へとわずかに改善の兆しは見られます)。
また、北部のゲアン省でも116.6、首都ハノイでも約112と不均衡が際立っています。 (2026年4月30日の報道より)
2019年の国勢調査でも、北部の「紅河デルタ地方」の平均が115.5であるのに対し、南部の「メコンデルタ地方」は106.9、南西部全体でも108未満に収まっていることからも、「北高南低」の儒教の呪縛の強さがデータから一発で証明されています。
2-2. 経済成長とテクノロジーの進歩がもたらした「皮肉な副作用」
こうした男児選好による意図的な産み分けは、かつて過酷な「一人っ子政策(1979〜2014年)」を敷いた中国において1980年代から急速に顕著化しましたが、ベトナムにおいてこの大潮流が始まったのは1990年代後半(2000年前後)からとなります。

この急上昇の背景にあるのは、90年代以降のドイモイの経済発展によって、超音波(エコー)を使った高精度な「出産前性別診断」の機材が、地方の末端の零細クリニックにまで爆速で普及してしまったことです。
「経済が豊かになり医療テクノロジーが進歩した結果、お腹の子供の性別を簡単に知ることができるようになり、それが国の未来を揺るがす深刻な人口の歪みを生み出した」という、新興国特有のあまりにも皮肉な副作用と言えます。
ベトナム政府もこの事態を重く見ており、法律で「性別を理由とした選択的中絶」を厳格に禁止していますが、現場では形骸化が指摘されていました。そのため、政府は直近でさらに罰則を大幅に強化しています。
◆2026年5月15日施行の政令:性別選択を目的として妊婦に中絶を促したり説得・誘惑する行為に対し、700万〜1,000万ドンの罰金を科す。
◆ 2026年7月1日施行の新規定:中絶手術を行う目的で事前に胎児の性別を意図的に明かした医師に対し、医師免許を一時停止する。
政府は何としてでもこの「男超」に歯止めをかけようと、本気のメスを入れ始めています。
2-3. 少子化・核家族化
ベトナムでは中国の方針に倣い、1988年から長年にわたり「子供は2人まで」とする「二人っ子政策」を導入し、公務員などに対しては昇進停止などの罰則を科して厳格に運用してきました。
この国策に加え乳幼児死亡率の劇的な低下や、子育て・教育費用の爆発的な高騰により、現在の世帯人数は平均3.5人にまで減少する「核家族化」が定着します。

二人っ子政策自体はすでに廃止されたものの、現代の若者夫婦のマインドは完全に「子供は1人か、多くて2人まで」に固定されています(現在のホーチミン市の合計特殊出生率は1.51程度まで低下しています)。
ここに古い男児選好が掛け算されることで、「子供は2人しか産まない(産めない)けれど、跡継ぎとして最低1人は男の子が欲しい」という心理が働き、1人目が女の子だった場合の「2人目の妊娠時における意図的な男児の選択(産み分け)」が爆発的に跳ね上がり、現在の歪んだ性比を決定づけていると考えられます。
3. 筆者(石黒)が注目したポイント:
今回の「将来、毎年100万人以上の結婚適齢期の男性が余る」というセンセーショナルなマクロ統計データを見て私が最も強く感じたのは、これを単なる社会保障の懸念として片付けるのではなく、これからのベトナムのリテールやサービス市場の構造を根底からひっくり返す「確実に来る未来の商機」としてビジネス視点で捉え直す重要性です。
全土34の主要省・市のうち、すでに21箇所で出生時男女比が全国平均を上回る異常事態が続いており、意識改革には世代交代レベルの時間を要するため、この「男余り社会」の到来は避けることのできない確定した未来です。
であるならば、ここから逆算して例えば以下の様な市場に参入していくという事も考えられます。
(1)女性が圧倒的「売り手市場」となる社会での、男性向け自己投資・ビューティー市場の台頭
結婚市場において女性の希少価値が極めて高くなるため、従来のような「男だから外見は気にしない」というレガシーなマインドは変化していくでしょう。構造的に「女性が売り手市場(選ぶ側)、男性が買い手市場(選ばれるために激しく競う側)」となるため、男性が女性に対する魅力を高めるためのメンズ高級コスメ、メンズエステ、さらにはコミュニケーション能力や教養を高めるための「社会人向け自己投資教育サービス」には、追い風が吹くと考えられます。

(2)莫大な可処分所得を自分に貢ぐ「お一人様男性(ソロ男)」特有の消費エコシステム
生涯独身、あるいは長期間独身を余儀なくされる100万人以上の男性たちは、家族のために家やファミリーカーを買う代わりに、稼いだお金を「自分自身の趣味や快適さ」のために消費する傾向が強まるでしょう。単身者向けに特化したスマート家電、ソロキャンプやホビーといったインドア・アウトドアの娯楽産業、そして何より、将来の単身老後に備えた「長期の資産運用(フィンテック)サービス」へのニーズは、今後ベトナム国内で間違いなく急浮上してくると考えらえます。
「人口1億人で経済成長による消費拡大」という大雑把な期待から、人口動態という、最も確実とされる未来予想を元に、社会の『歪みの中身』から逆算して次なる勝ち筋を見つけていくことの重要性。
未来のライフスタイル変化と新しいマーケットの可能性を感じさせてくれる、そんなニュースでした。

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