ISO 23247-3徹底解説:製造業デジタルツインのデータモデリングと情報属性

物理世界にある人や設備、材料、プロセスをデジタルツイン空間に複製する際、「具体的にどんなデータ項目を使ってモデリングすれば良いのか?」。
このスマート製造の根幹となるデータ定義ルールを規定しているのが、国際規格 ISO 23247-3: Digital representation of manufacturing elements(製造要素のデジタル表現) です。
これまでのPart 1(概念)とPart 2(アーキテクチャ)は、システムをどう繋ぎ、どう階層化するかという「設計思想」を定めたものでした。
これに対し、本記事で解説する「Part 3」は、実際にシステムを開発する際にやり取りするデータの「中身と意味(セマンティクス)」を定義する、プログラマーやデータ設計者にとって極めて実用的なパーツカタログです。
本記事では、Part 3が規定する「静的・動的データ」の区分、OMEをモデリングするための「抽象7大情報属性」、そして人員や機器、材料といった主要OMEにおける具体的な属性定義とデータ例まで完全解説します。
今回は関連ISOの名称などが続くためとても難しく思えるかもしれませんが、基本ルールは、たった二つだけです。
- データを「変わらない情報(静的=IDや型番)」と「刻々と変わる情報(動的=温度や現在位置)」に分ける。
- どんな要素(人・機械・材料)であっても、基本的に7つの基本属性にあてはめて整理する。
このルール通りに作っておけば、将来別のシステムや他社の機器と接続するときに、データ項目の不一致で衝突・トラブルが起きなくなります。
データモデル設計の基本概念:静的と動的の分類
ISO 23247-3に基づくデータモデル(Digital Representation)を設計する際、最初に行うのは情報を「静的(Static)情報」と「動的(Dynamic)情報」の2つに仕分けることです。
静的情報属性
製造プロセス中に基本的に変化しない固有のデータです。
具体例: 材料のシリアル番号(Serial Number)、製造業者名、機械の最大出力スペック、人員の社員IDなどが該当します。
動的情報属性
製造オペレーションの進行に伴って、リアルタイムまたは時系列で常に変化し続けるデータです。
具体例: 機械の現在温度や稼働音レベル、材料が加工されて削られていく際の「形状」の変化、作業員の現在の位置座標などです。
⚠️ 注意すべき設計上の要点
同一の物理要素(OME)であっても、そのライフサイクルや文脈によって、属性が静的になるか動的になるかは変化します。
たとえば、完成品パッケージの位置情報はフォークリフトで搬送されている間は「動的」ですが、自動倉庫の特定の棚に格納されて保管フェーズに入れば、一時的に「静的」な属性として扱われます。
OMEをモデリングするための抽象7大情報属性
ISO 23247-3は、いかなる製造要素(OME)であっても共通して定義されるべき「7つの抽象情報属性を定めています。
これらは国際規格としての共通の枠組みであり、唯一「Identifier」のみが必須で、残りの6つは用途に応じて任意で組み込む設計になっています。
1. Identifier(一意の識別子 ) ➔ UUID, URL, URI など
2. Characteristics(特性 ) ➔ 形状、能力、基本仕様
3. Schedule(時間・スケジュール) ➔ 稼働スケジュール
4. Status(状態・動的ステータス) ➔ 温度、稼働状態
5. Location(位置・相対座標 ) ➔ GPS、工場内相対位置
6. Report(履歴レポート) ➔ 加工実績、測定品質ログ
7. Relationship(OME間の関係トポロジー) ➔ 所属・接続関係
各属性の定義と、規格(付属書含む)が推奨する実在の国際標準規格・技術とのマッピングは以下の通りです。
① Identifier(識別子)
- 定義
- 企業共通、あるいはグローバルでそのOMEを世界に唯一の存在として特定するための識別子です。ISO 8000-115 に準拠する値(UUID、URL、URN、OID等)を使用します。
- 対応規格例:
- UUID(Universally Unique Identifier):ソフトウェア開発で一般的な128ビットのID。
- URI(Uniform Resource Identifier):ドイツのインダストリー4.0が提唱する Asset Administration Shell (AAS) のデジタルアセット特定に推奨される一意のURI ID。
② Characteristics(特性)
- 定義
- 幾何形状、固有仕様、提供可能な加工能力(ミリング、旋削など)といった、OMEが持つ物理的・機能的特徴をモデル化します。
- 対応規格例
- IEC 62264-2 (B2MML):企業情報(ERPなど)と現場制御(MESなど)をデータ統合するための基本特性定義。
- eCl@ss:世界共通の標準製品・サービス分類データベース。
- ISO 13584-42 (PLIB):パーツライブラリ情報をデジタル交換するための規格。
- IEC 61360 (CDD):電気・電子部品の共通データ辞書。
Schedule(スケジュール)
- 定義
- OMEがいつ製造に関与するかという、時間的なスケジュール計画を紐付けます。
- 対応規格例
- ISO 8601シリーズ:日付と時刻の表記に関する世界共通のルール。
Status(状態)
- 定義
- 機器の電源ON/OFF、動作中/故障、エネルギー消費量、動作温度、周辺の騒音レベルといった「今、そのOMEがどういうコンディションにあるか」を保持します。
- 対応規格例
- VDMA 24582:産業機器の状態監視(Condition Monitoring)に関するインターフェース標準。
⑤ Location(位置)
- 定義
- OMEの地理的座標、郵便住所、または「設備Aから50cm右」といった工場内のローカル相対位置情報を規定します。
- 対応規格例
- ISO 6709:位置情報(経度・緯度・高度)の表記方法。
- Relative Location:ワークセルや部屋の番号を用いた相対座標モデル。
⑥ Report(レポート)
- 定義
- OME自身が行ったこと(加工完了通知など)、あるいはOMEに対して施されたこと(定期メンテナンス実施記録など)の活動履歴を時系列で表現します。
- 対応規格例
- QIF (Quality Information Framework):品質検査や測定データの標準化記述フォーマット。
- MTConnect:工作機械の稼働イベントや時系列プロセスデータを収集・ストリーミングするための世界規格。
⑦ Relationship(関係性)
- 定義
- 「作業員Aが設備Bを操作している」「材料Aが設備Bにセットされている」といった、複数のOME同士の位置的、組織的、機能的なトポロジー(関係図)を記述します。
- 対応規格例
- IEC 62264-2:企業と工場の階層統合モデルを用いた組織的関係関係の定義。
各属性情報が対応規格によって構成されている理由
すべての属性には「対応規格例」が明記されてます。その理由は、ISO 23247-3という規格自体が「データの枠組み(器)」のみを定義しており、「中身のデータフォーマット」は既存の標準規格を再利用して埋める(マッピングする)前提で設計されているからです。
具体的には、以下の2つの大きな技術的・実用的な理由が存在します。
「車輪の再発明」を防ぎ、既存システムを活かすため
製造現場では、すでに以下のような領域別の優れた国際標準規格が使われています。
- 機器の稼働データ:MTConnect や VDMA 24582
- 基幹システム(ERP/MES)のデータ:IEC 62264 (B2MML)
- 品質・計測データ:QIF
ISO 23247-3がこれらを無視して全く新しいデータ書式を一から作ってしまうと、工場は既存システムをすべて捨てて作り直さなければならなくなります。
そのため、「データモデルの構造(7大属性)はISO 23247-3に従うが、各項目の具体的な記述には、現場で普及している既存規格をそのまま嵌め込んで使ってよい」というアプローチをとっています。
「技術中立性」を保ち、将来の陳腐化を防ぐため
ISO 23247-3は「抽象モデル(フレームワーク)」として定義されています。
- ISO 23247-3の役割: 「機器(Equipment)のデータを定義するなら、Identifier、Status、Location などの属性を持たせなさい」という構造の提示。
- 対応規格の役割: 「Statusの中身は VDMA 24582 のフォーマットで書き、Identifier は ISO 8000-115 に準拠したUUIDにする」という具体化の手段。
このように構造と中身を分離しておくことで、将来的に新しい通信規格やフォーマットが登場した場合でも、ISO 23247-3の枠組み自体を書き換えることなく、対応規格の差し替えだけで柔軟に対応できるようになっています。
つまり、「対応規格例」とは、開発者が実際にデータベースのスキーマやAPI(JSON/XML)を設計する際に、「具体的にどの規格のデータフォーマットを引用して実装すればよいか」を示すための実践的なガイドライン(対応表)として提示されています。
情報が動的であるということ
製造業やシステム設計において、情報が動的であるということは極めて普通であり、むしろデジタルツインの最大の醍醐味です。
同じひとつの物理的な金属の塊(=同じID)が、工場の中を通って加工されていく様子をイメージしてみてください。その間、Characteristicsは下記のように変化していきます。
- 投入時(原材料): 5kgの「ただのアルミの四角いブロック」
- 切削加工中: ドリルで削られて穴が開き、形が変わる
- 完成時: 1kgの「複雑な航空機用ブラケット部品」
物理的には「同じ1台の金属ブロック」が変形していくだけなので、管理用のシリアル番号や二次元コード(ID)を変えてしまうと、「元々どの材料から作ったのか」という追跡(トレーサビリティ)が切れてしまいます。
そのため、IDは一意のまま固定し、加工が進むにつれて「Characteristics(形状、質量、寸法)」という中身の属性だけを最新状態に書き換えていく(あるいは履歴として更新する)のがデジタルツインにおける正しいモデル化です。
主要OME別のデータ属性定義と具体例
ISO 23247-3は、Part 1が定める8大OME(人員、機器、材料、プロセスなど)に対し、それぞれに具体的なデータ構造のテンプレートと事例を提供しています。
以下に、システム設計者がそのままデータベース設計やXMLスキーマ設計の参考にできる、「人員」「機器」「材料」の3つの主要OMEに関する具体的な情報属性の定義と、規格に記載されたデータ値の例を整理します。
① 人員の情報属性
製造現場を動かす「ヒト」をデジタル表現するためのモデルです。
| 属性タイプ | 属性の役割・記述項目 | 規格に記載されたデータ例 |
|---|---|---|
| Identifier | 従業員IDやUUIDなどの一意の識別コード。 | ・employee ID: 11223・ UUID: b2287ac5-9572-4e58-88e5-2ba446c630d7 |
| Characteristics | スキルレベル(マスター、職人、見習い等)や、職種(研究員、管理者、技術者、運転手等)の定義。 | ・skill level: 2 (職人 / Journeyman)・ classification: 3 (技術者 / Technician) |
| Schedule | 個人ごとの勤務計画や非番(Day-off)のスケジュール。 | ・2019-05-14-working-0800-1700 |
| Status | 現在の活動状態(勤務中、休憩中など)。 | ・2019-05-14-onbreak-1500-1530 |
| Location | 作業員が現在どこにいるか、特定の機器から何センチ離れているかといった相対位置。 | ・Operator #1: WorkUnit #3 and 50 cm away from Robot #2. |
| Report | 本日の作業完了報告や、稼働実績の記録。 | ・2019-05-14-8 h of work (8時間勤務実績) |
| Relationship | 他の従業員との上下関係や、ワークセルごとの人員安全基準、他の機器との距離。 | ・Operator #1 is the supervisor of operator #2.・ WorkUnit #3 must have at least 4 persons for safety reasons. |
② 機器の情報属性
加工機、ロボット、センサー、コンベアといった「物理的デバイス・設備」をデジタル上にモデル化する、もっとも一般的な要素です。
| 属性タイプ | 属性の役割・記述項目 | 規格に記載されたデータ例 |
|---|---|---|
| Identifier | 工場内の資産管理IDやUUID。 | ・asset ID: dtm-200327-11・ UUID: e88561dc-2401-4f9a-961c-e90e6424b1dd |
| Characteristics | その機械ができる加工動作(ミーリング、旋削、研削、プレスなど)や設計定格。 | ・milling (ミーリング加工能力) |
| Schedule | 稼働シフト計画や、定期メンテナンスの予約スケジュール。 | ・Maintenance for Machine #1 is scheduled on every Sunday. |
| Status | 電源ON/OFF、稼働中/故障、エネルギー消費量、現在温度、周囲の騒音レベル。 | ・on・ energy usage: 10kWh・ temperature: 25 °C |
| Location | 工場内のどのワークセンター、どのワークユニットに設置されているかの相対位置。 | ・Machine #2: Work Unit #2 in Room #3 |
| Report | 保守点検実績や、機械側から自動発行される異常警告アラーム履歴。 | ・May 14th, 2019 9 AM to 6 PM: Regular Maintenance・ Machine #1 reports high temperature. |
| Relationship | どの材料を現在削っているか、どのワークセンターの一部として登録されているかのトポロジー。 | ・Machine #1 operates with Material #2. |
③ 材料の情報属性
加工される金属ブロックなどの原材料、途中の仕掛品、最終製品、あるいは切削液(クーラント)や洗浄液といった補助材料の情報属性を定義します。
| 属性タイプ | 属性の役割・記述項目 | 規格に記載されたデータ例 |
|---|---|---|
| Identifier | バーコード値、RFIDタグの情報、またはロット管理用の一意のUUID。 | ・bar code: 8809123456785・ UUID: 0030f7a2-5266-4937-9820-168409f5e9a2 |
| Characteristics | 取扱上の注意点、有害性の有無、物理的状態(液体、固体、気体等)、材質スペック(鋼、ゴム、粉末等)。 | ・Handle with care (取扱注意)・ Material state: solid (固体) |
| Schedule | 部品の購買発注日、受入予定日、機械への投入開始時間など。 | ・Purchase: May 14th, 2019 |
| Status | 検査テスト済み、投入可能性、現在の物質状態など。 | ・Tested |
| Location | 倉庫内のどの棚(Shelf)、どのワークユニットに現在保管されているかの位置。 | ・Relative location Material #1: Shelf #3 in Warehouse #2 |
| Report | どの工程で、何キロ(または何個)の材料が使用されたかという消費量レポート。 | ・May 14th, 2019: 8 kg of Material #2 was used in WorkUnit #2. |
| Relationship | どのレベルの作業員によって加工されているか、どの製品のサブパーツにあたるかなどの依存関係。 | ・Material #1 is operated by an operator with skill level 2. |
まとめ:Part 3がもたらす「技術中立」と「相互運用性」
ISO 23247-3は、特定のフォーマットを強制しない「技術中立性」を終始貫いています。
極端な話、やり取りする形式がJSONであろうとXMLであろうと、あるいは内部がリレーショナルデータベースであろうとNoSQLであろうと、「Identifierは一意かつ必須で保持し、CharacteristicsやReportといった属性を適切なデータモデルに当てはめて表現していれば、そのシステムはISO 23247に準拠している」とみなされます。
システムをスモールスタートさせる際、すべての属性項目を網羅して重厚なスキーマを作る必要は全くありません。Part 1で定めた「目的適合性(Fit-for-purpose)」に従い、まずは Identifier(必須) + Status(動的データのみ) + Location(相対位置) のような、必要最小限のシンプルなデータセットから設計を開始しましょう。
そうしてシンプルに設計されたデジタル表現が、やがて他のシステム(ERP、PLM)や、隣のラインのデジタルツインとマージされる時、このPart 3の「共通データモデル(スキーマ)」が、ケンカをせずにスマートに結合するための最強の盾となります。
※本記事は、一般に公開されている情報をもとに、ISOについて学べる内容を整理したものです。正式な仕様や要件については、ISO規格本文をご確認ください。
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