ベトナムが世界トップ10の鉄鋼大国に!重厚長大産業の急成長から見えてくるものとは?(石黒が選ぶベトナムのニュース:2026/6/2)

現地で報じられているニュースを日本人の視点から読み解き、リアルな現地事情を紹介していく、石黒が選ぶベトナムのニュース紹介、第23回目。
皆さんは「ベトナムの産業」と聞くと、どのようなイメージをお持ちでしょうか? 「スマートフォンやアパレルなど、外資系企業の下請け工場が多い」「農業や水産業が盛ん」といった、軽工業や一次産業を中心とした姿を思い浮かべる方が多いと思います。
確かにそれらはベトナム経済の重要な柱ですが、現在、ベトナムは自国の力で「重厚長大産業」を猛スピードで育て上げており、世界の勢力図を塗り替えようとしています。今回は、ベトナムの産業構造の成熟と、それに伴う新たなビジネスチャンスを象徴するニュースを紹介します。
2026年5月26日のBao Dau Tu(投資報)ニュース(原文はベトナム語)
ベトナムは、世界有数の鉄鋼生産国トップ10にランクインしている。
1. イタリアを抜き、ついに世界トップ10入りを果たしたベトナム
今回取り上げるのは、ベトナムが世界の鉄鋼産業において歴史的なマイルストーンを達成したというニュースです。
世界鉄鋼協会(Worldsteel)が発表した最新データ「2026年4月粗鋼生産量レポート」によると、2026年4月のベトナムの粗鋼(鋼の元となる半製品)生産量は約210万トンに達し、前年同月比で4%増加しました。
この結果、ベトナムはイタリアを抜き、史上初めて「世界で最も粗鋼生産量が多い国トップ10」にランクインしました。ちなみに、これまでトップ10の常連だったイランは12位に転落しています。

今から四半世紀前の2000年当時、ベトナムは、鉄鋼製品を作るための原料、ビレットと呼ばれる製品の加工に用いられる棒状(円柱や角柱)の金属の塊(半製品)などを海外から輸入して、それを元に建設用鋼材を圧延する状況であったと報じられています。
しかし2010年頃から状況が変わり、大規模で近代的な製鉄所が作られた結果、様々な種類の製品が自国内で生産できるようになりました。
ベトナムは、2023年の粗鋼生産量が2,000万トンで世界第12位にランクインし、2025年には2,460万トン、この規模は、東南アジア最大で世界でもトップ11に入る規模となっており、ついに単月ではありますがトップ10入りしました。
2. ニュースの背景にある「ベトナムのリアルな事情」
なぜ、ベトナムはこれほど短期間で鉄鋼大国へと急成長できたのでしょうか。3つの背景を紹介します。
2-1. 民間巨大コングロマリット「ホアファット(Hoa Phat)」の躍進
ベトナムの鉄鋼業を牽引しているのは、社会主義国にありがちな国営企業ではなく1992年の創業ながら国内総生産量の44.7%にあたる1,100万トンを占める民間企業、ホアファットグループ(Hoa Phat Group)です。そしてベトナム鉄鋼公社(Vnsteel)、フォルモサなどの傘下企業がそれに続くと報じられています。
ホアファット社はベトナム中部のズンクアットに巨大な近代的高炉を建設し、国内の粗鋼生産量の約半分(約44.7%)をたった1社で生み出しています。

かつては建設用の鉄筋くらいしか作れなかったと言われていますが、今では様々な種類の高度な鋼材を自前で製造できるようになり、業績を拡大させています。
2-2. 止まらないインフラ建設と都市化の波
ベトナム国内では現在、南北高速道路の建設、新国際空港(ロンタイン)の開発、地下鉄(メトロ)網の整備など、国家の骨格を作る巨大インフラプロジェクトが同時進行で動いています。

さらに、急激な都市化によりタワーマンションや商業施設の建設ラッシュも続いています。この旺盛な「国内の鉄鋼需要」が、メーカーの強気な設備投資を裏打ちしています。
2-3. 「世界の工場」を支える自立したサプライチェーンの構築
ベトナムは長年、FDI(外資系企業)を誘致して経済成長を遂げてきましたが、部品や素材を中国などに依存していることが弱点の1つとも言われていました。
なぜなら中国と南シナ海の島を巡る領土争いなども抱えているため、両国関係が悪化した際に依存が弱みへと変化する可能性があったからです。

しかし、鉄鋼という文字通りの屋台骨を自国で高品質かつ大量に生産できるようになったことで、自動車や機械製造、造船といった製造業を国内で完結させる土台が整いつつあります。
3. 筆者(石黒)が注目したポイント
このニュースを見ていた際に興味深いと感じたのは、以下の2点です。
1つは、経済規模の成長とあわせて粗鋼生産量を拡大させているのは、多くの国がたどった道でありベトナムも同じ道を歩んでいるという点です。
「鉄は国家なり」という言葉がある通り、経済成長=鉄の大量消費であって、インフラ整備や製造業が経済成長を牽引する発展段階において鉄鋼の生産量は、経済規模とほぼ連動して拡大をしてきました。
19世紀の中盤はイギリス、19世紀末から20世紀前半にかけてはアメリカ、20世紀の中盤1930~1960年代にかけてでは、ソ連が重工業に極端に偏重した経済政策を取り生産量を急拡大させ経済面でも大国となりました。
第二次世界大戦後では、日本が傾斜生産方式で鉄鋼業を復活させ高度経済成長により需要が爆発的に伸びて生産量を大幅に増やし、1990~2000年代以降では中国、そしてインドの生産量が世界ランクの上位に食い込むようになってきた事はご存じの方も多いと思います。
ベトナムのGDP規模は、まだ世界34位ですが経済成長に合わせて同じ様に粗鋼生産量を拡大させてきていることが今回の発表から分かります。
2つ目は、ベトナムの粗鋼生産量急拡大の立役者であり、けん引役であるホアファット社においては、鉄鋼業以外のビジネスも主要事業としている点です。

例えば、不動産事業として工業団地のインフラ開発や賃貸、都市開発プロジェクトを行っており、農業事業として豚や家禽の養鶏・養豚、飼料製造など大規模な畜産農業を展開しています。他にも家電・家具事業: 冷蔵庫といった家電製品や、オフィス・家庭用家具の製造・販売も行っています。

この様に複合化しているのには、単なるビジネスチャンスの追求だけでなく、「ベトナム特有の巨大民間企業(コングロマリット)の生存戦略」が見え隠れします。
高成長を背景とした旺盛な鉄鋼需要(一本足打法)だけに依存するのではなく、本業で稼いだ巨大な資本を活かして、国家が求めるインフラ開発(不動産)や食糧安全保障(農業)へと「面」で進出し、将来の国内需要の変化に備えて強靭な柱を作っている。そう考えると、非常に強かで興味深い経営と言えます。
鉄鋼の世界トップ10入りは、ベトナム経済の規模拡大を象徴するシグナルですが、同時に、それを牽引するリーディングカンパニーがすでに次の成長(多角化)を見据えて動いているという事実も見逃せないポイントです。
単なる素材供給国ではなく、多様な産業を自前で回す力を持ったベトナムの巨大企業たちと日本企業は今後どのように組み、ビジネスを共創していくべきか。
そんなダイナミズムと新たな問いを突きつけられるニュースでした。

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